18 / 64
第3章:旧戦線再結集
第5話:倉持の真実
しおりを挟む
月曜の午後、営業三課フロア。
会議明けのミユキは、自席に戻る途中、廊下を歩く倉持課長の背中をじっと見ていた。
(あのとき、確かに気づいてた)
第三会議室の魔導陣。扉を開けた倉持のあの“間”のある表情。
そして、あれ以降――彼はミユキに一切近づかない。
(無関心を装うには、逆に“意識しすぎてる”)
普通なら見過ごしただろう。だが、今の彼女には確信があった。
倉持は、“ただの課長”じゃない。
夜。終業後。ミユキは資料の名目で再び会議室のデータ管理端末にアクセスした。
会社の古い電子記録の中に、彼の名があった。
「魔法特異案件:監視対象-0035 担当官:倉持光一」
(……やっぱり)
彼は、10年前の“魔法少女制度”に直接関わっていた。
それも、戦闘要員ではなく――監視官として。
「“監視官”……って、どういうこと?」
翌日、ミユキは昼休みにユリへ問うた。
社食の裏手の階段、誰も来ない非常口の踊り場。
ユリは答えた。
「“監視官”は、制度終末期に設けられた役割だ。
魔法少女が“暴走”する可能性を考慮し、現場に密かに配置された。
魔力を持たないが、制御のための補助装置を所持していた」
「つまり、私たちが知らないうちに“見張られてた”ってこと?」
「そうだ。倉持光一は、そのうちの一人だった。
当時は政府の内務省に属していたが、制度崩壊後に“表向きの人生”を得た。
民間企業に転属し、記憶の一部を書き換えられて、“残った者たち”の監視を続けている」
「残った者たち……って、私たちのこと?」
「その通り。再契約の兆候を示した者、または“核の覚醒反応”を起こした者を、密かにモニタリングしていた」
ミユキは、息が詰まりそうになった。
(この10年、あの人は……ずっと私たちを“職場から”見てたんだ)
「……許せない」
ナナの声がした。いつのまにか踊り場に来ていた。
「私、今朝思い出したの。倉持課長、昔“現場見学”とか言って、私たちの訓練場に来たことがある。
名前は違ってたけど、あの目は間違いない」
アイナも姿を現す。
「私も。あの人は……10年前、私たちの“盾”の失敗例について説明していた。
“防御型の魔法少女はメンタル負荷が蓄積する。安定性に欠ける”って。
数字の中に、私の名前があった」
ミユキは、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ――今度は、こっちから聞きに行こう」
午後7時、オフィスビルの一角。
倉持がひとり、書類をまとめていた。
「お疲れさまです、課長」
扉を開けて入ってきたのは、ミユキだった。
「ああ、神代くん。残業か?」
「ええ。……でも今日は、残業のついでに、課長に話したいことがありまして」
笑顔のまま、言葉を落とす。
倉持の手が止まった。
「……なんだね?」
「10年前、魔法少女制度に“監視官”として関わっていたこと。
その後、私たち“契約者の生存者”を監視していたこと。
……あなたの本当の任務について、教えてもらえませんか?」
沈黙。
時計の秒針だけが、静かに動いていた。
やがて、倉持は書類を閉じ、メガネを外して顔を上げた。
「……そこまで、辿り着いたか」
低い声だった。いつもの皮肉も、営業スマイルもなかった。
「君は、優秀だったからな。
再契約の反応が出たとき、すぐに通知があった。
“想定通りの覚醒速度”だったよ」
「あなたは、私たちを“兵器”として見ていた?」
「そうだ」
即答だった。
「私は、君たちを“観測対象”として扱ってきた。
戦闘能力、再適応性、精神安定度、社会との接触傾向……すべて、評価項目だ」
「……人間を?」
「君たちは、“人間を超えた存在”だった。
それを、君たち自身が理解していなかっただけだ」
ミユキは立ち上がり、机を一度だけ叩いた。
「私たちは、子どもだった。
知らないうちに“剣を握らされて”、知らないうちに“監視されて”。
今また、あなたは“この会社の権限”の下で、同じことを繰り返してるの?」
倉持は、少しだけ視線を逸らした。
「……違う」
「違う?」
「私は、今はもう“監視官”じゃない。
この会社に来たときから、“制度”は崩壊していた。
今私がやっているのは、“観察”ではない。“遺構の管理”だ」
「遺構……?」
「この会社そのものが、“魔法制度の収容施設”のひとつだった。
あの第三会議室も、君が戦ったあのビルも、全部が“契約の名残”だ。
私は……それを、可能な限り“維持する”ために、残った」
ミユキは拳を握った。
「それでも、あなたは何も伝えてこなかった」
「伝えられる立場ではなかった。
だが君たちが目覚めた今、もう私は“管理者”ではいられない」
彼は、静かに胸ポケットから一枚の名刺を差し出した。
裏には、見覚えのある文様。
かつてミユキたちの戦術支援を行っていた――**“封律機関”**の紋章だった。
「これが……まだ生きてるの?」
「地下へ沈んだ。だが、完全には死んでいない。
君たちが再び剣を取り始めた以上、彼らも動くだろう。
そのとき、“味方”でいたいと思っている」
ミユキは、彼の目をまっすぐ見た。
そこには後悔も、使命感も、入り混じった老獪な視線があった。
「あなたが“味方かどうか”を決めるのは、私たちです」
そう言って名刺を受け取ると、ミユキは背を向けた。
「神代くん」
背中に声がかかる。
「君は、もう“少女”ではない。
だからこそ、私は今、“人間として”君に敬意を表すよ」
その言葉に、ミユキは一瞬立ち止まり――何も言わずに、部屋を後にした。
静かな夜。
世界の裏に潜んでいた“監視の目”が、ようやく声を得た。
だが、それでも戦いの輪郭は、ますます深くなるだけだった。
会議明けのミユキは、自席に戻る途中、廊下を歩く倉持課長の背中をじっと見ていた。
(あのとき、確かに気づいてた)
第三会議室の魔導陣。扉を開けた倉持のあの“間”のある表情。
そして、あれ以降――彼はミユキに一切近づかない。
(無関心を装うには、逆に“意識しすぎてる”)
普通なら見過ごしただろう。だが、今の彼女には確信があった。
倉持は、“ただの課長”じゃない。
夜。終業後。ミユキは資料の名目で再び会議室のデータ管理端末にアクセスした。
会社の古い電子記録の中に、彼の名があった。
「魔法特異案件:監視対象-0035 担当官:倉持光一」
(……やっぱり)
彼は、10年前の“魔法少女制度”に直接関わっていた。
それも、戦闘要員ではなく――監視官として。
「“監視官”……って、どういうこと?」
翌日、ミユキは昼休みにユリへ問うた。
社食の裏手の階段、誰も来ない非常口の踊り場。
ユリは答えた。
「“監視官”は、制度終末期に設けられた役割だ。
魔法少女が“暴走”する可能性を考慮し、現場に密かに配置された。
魔力を持たないが、制御のための補助装置を所持していた」
「つまり、私たちが知らないうちに“見張られてた”ってこと?」
「そうだ。倉持光一は、そのうちの一人だった。
当時は政府の内務省に属していたが、制度崩壊後に“表向きの人生”を得た。
民間企業に転属し、記憶の一部を書き換えられて、“残った者たち”の監視を続けている」
「残った者たち……って、私たちのこと?」
「その通り。再契約の兆候を示した者、または“核の覚醒反応”を起こした者を、密かにモニタリングしていた」
ミユキは、息が詰まりそうになった。
(この10年、あの人は……ずっと私たちを“職場から”見てたんだ)
「……許せない」
ナナの声がした。いつのまにか踊り場に来ていた。
「私、今朝思い出したの。倉持課長、昔“現場見学”とか言って、私たちの訓練場に来たことがある。
名前は違ってたけど、あの目は間違いない」
アイナも姿を現す。
「私も。あの人は……10年前、私たちの“盾”の失敗例について説明していた。
“防御型の魔法少女はメンタル負荷が蓄積する。安定性に欠ける”って。
数字の中に、私の名前があった」
ミユキは、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ――今度は、こっちから聞きに行こう」
午後7時、オフィスビルの一角。
倉持がひとり、書類をまとめていた。
「お疲れさまです、課長」
扉を開けて入ってきたのは、ミユキだった。
「ああ、神代くん。残業か?」
「ええ。……でも今日は、残業のついでに、課長に話したいことがありまして」
笑顔のまま、言葉を落とす。
倉持の手が止まった。
「……なんだね?」
「10年前、魔法少女制度に“監視官”として関わっていたこと。
その後、私たち“契約者の生存者”を監視していたこと。
……あなたの本当の任務について、教えてもらえませんか?」
沈黙。
時計の秒針だけが、静かに動いていた。
やがて、倉持は書類を閉じ、メガネを外して顔を上げた。
「……そこまで、辿り着いたか」
低い声だった。いつもの皮肉も、営業スマイルもなかった。
「君は、優秀だったからな。
再契約の反応が出たとき、すぐに通知があった。
“想定通りの覚醒速度”だったよ」
「あなたは、私たちを“兵器”として見ていた?」
「そうだ」
即答だった。
「私は、君たちを“観測対象”として扱ってきた。
戦闘能力、再適応性、精神安定度、社会との接触傾向……すべて、評価項目だ」
「……人間を?」
「君たちは、“人間を超えた存在”だった。
それを、君たち自身が理解していなかっただけだ」
ミユキは立ち上がり、机を一度だけ叩いた。
「私たちは、子どもだった。
知らないうちに“剣を握らされて”、知らないうちに“監視されて”。
今また、あなたは“この会社の権限”の下で、同じことを繰り返してるの?」
倉持は、少しだけ視線を逸らした。
「……違う」
「違う?」
「私は、今はもう“監視官”じゃない。
この会社に来たときから、“制度”は崩壊していた。
今私がやっているのは、“観察”ではない。“遺構の管理”だ」
「遺構……?」
「この会社そのものが、“魔法制度の収容施設”のひとつだった。
あの第三会議室も、君が戦ったあのビルも、全部が“契約の名残”だ。
私は……それを、可能な限り“維持する”ために、残った」
ミユキは拳を握った。
「それでも、あなたは何も伝えてこなかった」
「伝えられる立場ではなかった。
だが君たちが目覚めた今、もう私は“管理者”ではいられない」
彼は、静かに胸ポケットから一枚の名刺を差し出した。
裏には、見覚えのある文様。
かつてミユキたちの戦術支援を行っていた――**“封律機関”**の紋章だった。
「これが……まだ生きてるの?」
「地下へ沈んだ。だが、完全には死んでいない。
君たちが再び剣を取り始めた以上、彼らも動くだろう。
そのとき、“味方”でいたいと思っている」
ミユキは、彼の目をまっすぐ見た。
そこには後悔も、使命感も、入り混じった老獪な視線があった。
「あなたが“味方かどうか”を決めるのは、私たちです」
そう言って名刺を受け取ると、ミユキは背を向けた。
「神代くん」
背中に声がかかる。
「君は、もう“少女”ではない。
だからこそ、私は今、“人間として”君に敬意を表すよ」
その言葉に、ミユキは一瞬立ち止まり――何も言わずに、部屋を後にした。
静かな夜。
世界の裏に潜んでいた“監視の目”が、ようやく声を得た。
だが、それでも戦いの輪郭は、ますます深くなるだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる