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第3章:旧戦線再結集
第5話:倉持の真実
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月曜の午後、営業三課フロア。
会議明けのミユキは、自席に戻る途中、廊下を歩く倉持課長の背中をじっと見ていた。
(あのとき、確かに気づいてた)
第三会議室の魔導陣。扉を開けた倉持のあの“間”のある表情。
そして、あれ以降――彼はミユキに一切近づかない。
(無関心を装うには、逆に“意識しすぎてる”)
普通なら見過ごしただろう。だが、今の彼女には確信があった。
倉持は、“ただの課長”じゃない。
夜。終業後。ミユキは資料の名目で再び会議室のデータ管理端末にアクセスした。
会社の古い電子記録の中に、彼の名があった。
「魔法特異案件:監視対象-0035 担当官:倉持光一」
(……やっぱり)
彼は、10年前の“魔法少女制度”に直接関わっていた。
それも、戦闘要員ではなく――監視官として。
「“監視官”……って、どういうこと?」
翌日、ミユキは昼休みにユリへ問うた。
社食の裏手の階段、誰も来ない非常口の踊り場。
ユリは答えた。
「“監視官”は、制度終末期に設けられた役割だ。
魔法少女が“暴走”する可能性を考慮し、現場に密かに配置された。
魔力を持たないが、制御のための補助装置を所持していた」
「つまり、私たちが知らないうちに“見張られてた”ってこと?」
「そうだ。倉持光一は、そのうちの一人だった。
当時は政府の内務省に属していたが、制度崩壊後に“表向きの人生”を得た。
民間企業に転属し、記憶の一部を書き換えられて、“残った者たち”の監視を続けている」
「残った者たち……って、私たちのこと?」
「その通り。再契約の兆候を示した者、または“核の覚醒反応”を起こした者を、密かにモニタリングしていた」
ミユキは、息が詰まりそうになった。
(この10年、あの人は……ずっと私たちを“職場から”見てたんだ)
「……許せない」
ナナの声がした。いつのまにか踊り場に来ていた。
「私、今朝思い出したの。倉持課長、昔“現場見学”とか言って、私たちの訓練場に来たことがある。
名前は違ってたけど、あの目は間違いない」
アイナも姿を現す。
「私も。あの人は……10年前、私たちの“盾”の失敗例について説明していた。
“防御型の魔法少女はメンタル負荷が蓄積する。安定性に欠ける”って。
数字の中に、私の名前があった」
ミユキは、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ――今度は、こっちから聞きに行こう」
午後7時、オフィスビルの一角。
倉持がひとり、書類をまとめていた。
「お疲れさまです、課長」
扉を開けて入ってきたのは、ミユキだった。
「ああ、神代くん。残業か?」
「ええ。……でも今日は、残業のついでに、課長に話したいことがありまして」
笑顔のまま、言葉を落とす。
倉持の手が止まった。
「……なんだね?」
「10年前、魔法少女制度に“監視官”として関わっていたこと。
その後、私たち“契約者の生存者”を監視していたこと。
……あなたの本当の任務について、教えてもらえませんか?」
沈黙。
時計の秒針だけが、静かに動いていた。
やがて、倉持は書類を閉じ、メガネを外して顔を上げた。
「……そこまで、辿り着いたか」
低い声だった。いつもの皮肉も、営業スマイルもなかった。
「君は、優秀だったからな。
再契約の反応が出たとき、すぐに通知があった。
“想定通りの覚醒速度”だったよ」
「あなたは、私たちを“兵器”として見ていた?」
「そうだ」
即答だった。
「私は、君たちを“観測対象”として扱ってきた。
戦闘能力、再適応性、精神安定度、社会との接触傾向……すべて、評価項目だ」
「……人間を?」
「君たちは、“人間を超えた存在”だった。
それを、君たち自身が理解していなかっただけだ」
ミユキは立ち上がり、机を一度だけ叩いた。
「私たちは、子どもだった。
知らないうちに“剣を握らされて”、知らないうちに“監視されて”。
今また、あなたは“この会社の権限”の下で、同じことを繰り返してるの?」
倉持は、少しだけ視線を逸らした。
「……違う」
「違う?」
「私は、今はもう“監視官”じゃない。
この会社に来たときから、“制度”は崩壊していた。
今私がやっているのは、“観察”ではない。“遺構の管理”だ」
「遺構……?」
「この会社そのものが、“魔法制度の収容施設”のひとつだった。
あの第三会議室も、君が戦ったあのビルも、全部が“契約の名残”だ。
私は……それを、可能な限り“維持する”ために、残った」
ミユキは拳を握った。
「それでも、あなたは何も伝えてこなかった」
「伝えられる立場ではなかった。
だが君たちが目覚めた今、もう私は“管理者”ではいられない」
彼は、静かに胸ポケットから一枚の名刺を差し出した。
裏には、見覚えのある文様。
かつてミユキたちの戦術支援を行っていた――**“封律機関”**の紋章だった。
「これが……まだ生きてるの?」
「地下へ沈んだ。だが、完全には死んでいない。
君たちが再び剣を取り始めた以上、彼らも動くだろう。
そのとき、“味方”でいたいと思っている」
ミユキは、彼の目をまっすぐ見た。
そこには後悔も、使命感も、入り混じった老獪な視線があった。
「あなたが“味方かどうか”を決めるのは、私たちです」
そう言って名刺を受け取ると、ミユキは背を向けた。
「神代くん」
背中に声がかかる。
「君は、もう“少女”ではない。
だからこそ、私は今、“人間として”君に敬意を表すよ」
その言葉に、ミユキは一瞬立ち止まり――何も言わずに、部屋を後にした。
静かな夜。
世界の裏に潜んでいた“監視の目”が、ようやく声を得た。
だが、それでも戦いの輪郭は、ますます深くなるだけだった。
会議明けのミユキは、自席に戻る途中、廊下を歩く倉持課長の背中をじっと見ていた。
(あのとき、確かに気づいてた)
第三会議室の魔導陣。扉を開けた倉持のあの“間”のある表情。
そして、あれ以降――彼はミユキに一切近づかない。
(無関心を装うには、逆に“意識しすぎてる”)
普通なら見過ごしただろう。だが、今の彼女には確信があった。
倉持は、“ただの課長”じゃない。
夜。終業後。ミユキは資料の名目で再び会議室のデータ管理端末にアクセスした。
会社の古い電子記録の中に、彼の名があった。
「魔法特異案件:監視対象-0035 担当官:倉持光一」
(……やっぱり)
彼は、10年前の“魔法少女制度”に直接関わっていた。
それも、戦闘要員ではなく――監視官として。
「“監視官”……って、どういうこと?」
翌日、ミユキは昼休みにユリへ問うた。
社食の裏手の階段、誰も来ない非常口の踊り場。
ユリは答えた。
「“監視官”は、制度終末期に設けられた役割だ。
魔法少女が“暴走”する可能性を考慮し、現場に密かに配置された。
魔力を持たないが、制御のための補助装置を所持していた」
「つまり、私たちが知らないうちに“見張られてた”ってこと?」
「そうだ。倉持光一は、そのうちの一人だった。
当時は政府の内務省に属していたが、制度崩壊後に“表向きの人生”を得た。
民間企業に転属し、記憶の一部を書き換えられて、“残った者たち”の監視を続けている」
「残った者たち……って、私たちのこと?」
「その通り。再契約の兆候を示した者、または“核の覚醒反応”を起こした者を、密かにモニタリングしていた」
ミユキは、息が詰まりそうになった。
(この10年、あの人は……ずっと私たちを“職場から”見てたんだ)
「……許せない」
ナナの声がした。いつのまにか踊り場に来ていた。
「私、今朝思い出したの。倉持課長、昔“現場見学”とか言って、私たちの訓練場に来たことがある。
名前は違ってたけど、あの目は間違いない」
アイナも姿を現す。
「私も。あの人は……10年前、私たちの“盾”の失敗例について説明していた。
“防御型の魔法少女はメンタル負荷が蓄積する。安定性に欠ける”って。
数字の中に、私の名前があった」
ミユキは、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ――今度は、こっちから聞きに行こう」
午後7時、オフィスビルの一角。
倉持がひとり、書類をまとめていた。
「お疲れさまです、課長」
扉を開けて入ってきたのは、ミユキだった。
「ああ、神代くん。残業か?」
「ええ。……でも今日は、残業のついでに、課長に話したいことがありまして」
笑顔のまま、言葉を落とす。
倉持の手が止まった。
「……なんだね?」
「10年前、魔法少女制度に“監視官”として関わっていたこと。
その後、私たち“契約者の生存者”を監視していたこと。
……あなたの本当の任務について、教えてもらえませんか?」
沈黙。
時計の秒針だけが、静かに動いていた。
やがて、倉持は書類を閉じ、メガネを外して顔を上げた。
「……そこまで、辿り着いたか」
低い声だった。いつもの皮肉も、営業スマイルもなかった。
「君は、優秀だったからな。
再契約の反応が出たとき、すぐに通知があった。
“想定通りの覚醒速度”だったよ」
「あなたは、私たちを“兵器”として見ていた?」
「そうだ」
即答だった。
「私は、君たちを“観測対象”として扱ってきた。
戦闘能力、再適応性、精神安定度、社会との接触傾向……すべて、評価項目だ」
「……人間を?」
「君たちは、“人間を超えた存在”だった。
それを、君たち自身が理解していなかっただけだ」
ミユキは立ち上がり、机を一度だけ叩いた。
「私たちは、子どもだった。
知らないうちに“剣を握らされて”、知らないうちに“監視されて”。
今また、あなたは“この会社の権限”の下で、同じことを繰り返してるの?」
倉持は、少しだけ視線を逸らした。
「……違う」
「違う?」
「私は、今はもう“監視官”じゃない。
この会社に来たときから、“制度”は崩壊していた。
今私がやっているのは、“観察”ではない。“遺構の管理”だ」
「遺構……?」
「この会社そのものが、“魔法制度の収容施設”のひとつだった。
あの第三会議室も、君が戦ったあのビルも、全部が“契約の名残”だ。
私は……それを、可能な限り“維持する”ために、残った」
ミユキは拳を握った。
「それでも、あなたは何も伝えてこなかった」
「伝えられる立場ではなかった。
だが君たちが目覚めた今、もう私は“管理者”ではいられない」
彼は、静かに胸ポケットから一枚の名刺を差し出した。
裏には、見覚えのある文様。
かつてミユキたちの戦術支援を行っていた――**“封律機関”**の紋章だった。
「これが……まだ生きてるの?」
「地下へ沈んだ。だが、完全には死んでいない。
君たちが再び剣を取り始めた以上、彼らも動くだろう。
そのとき、“味方”でいたいと思っている」
ミユキは、彼の目をまっすぐ見た。
そこには後悔も、使命感も、入り混じった老獪な視線があった。
「あなたが“味方かどうか”を決めるのは、私たちです」
そう言って名刺を受け取ると、ミユキは背を向けた。
「神代くん」
背中に声がかかる。
「君は、もう“少女”ではない。
だからこそ、私は今、“人間として”君に敬意を表すよ」
その言葉に、ミユキは一瞬立ち止まり――何も言わずに、部屋を後にした。
静かな夜。
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