魔法少女は会社員

naomikoryo

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第3章:旧戦線再結集

第6話:廃ビルの決戦

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金曜の夜、渋谷駅から徒歩15分。
再開発に取り残されたような灰色のビルが、ひっそりと存在していた。

「ここが……」

ミユキは顔をしかめた。
ビルの外観は明らかに老朽化が進んでおり、扉には立ち入り禁止の札。
だが、目に見えない“気配”は、今もそこに息づいていた。

「強い魔力の滞留反応がある。これは自然発生ではない。
“契約地点”として利用されていた可能性が高い」

ユリの声は、いつも以上に慎重だった。

「中には入れる?」

「鍵は物理的な意味をなさない。
この空間そのものが“異界の繭”として半覚醒状態にある。
魔力を刺激すれば、扉は開くだろう」

「つまり、呼ばれてるってことね」

ナナが言った。
彼女は黒のカーディガンの下に、光を帯びた魔法具を密かに装着していた。

アイナは小さく頷きながら、手首に巻いた銀環に指を触れる。

「いつでもいけるわ。今回は本気でやる。
“魔法少女ごっこ”じゃなくて、“戦闘行動”として」

「了解」

ミユキは魔法核を握り、変身を起動する。
光の装甲が肩と腕を包み、右手に剣が宿る。
ナナの蔦の鞭、アイナの結界の煌めき――三人の魔力が揃うと、周囲の空気が一変した。

ガチャン、と扉が音もなく開いた。

内部は、まるで時が止まっていた。

打ち捨てられた机、錆びついたロッカー、割れたガラスの隙間から入り込む夜風。

それでも、壁一面に貼られた古い紙――
人名、魔法の特性、記号、そして日付――が、この場所が“かつて何か”であったことを雄弁に物語っていた。

「ここ、やっぱり“登録拠点”だったのね。
魔法少女を公式に選抜・契約・管理するための」

アイナが言う。

「その管理施設が、魔物の巣に……」

ミユキが呟いたその瞬間、床が脈打った。

――ドウン。

空気が揺れた。

壁の紙が、ペラペラとめくれ上がり、天井から黒い“糸”のようなものが垂れ始める。

「反応来たわ。中心に向かって集まってる!」

「来るぞ!」

ユリの声が響いた瞬間、床中央が大きく裂け、巨大な影が現れた。

体長3メートルを超える、人型の魔物。
全身が契約書や報告書の断片で構成され、顔の部分には無数の「否認」「未承認」の文字が浮かぶ。

「“ペンディング・ゴーレム”。
未処理の契約と命令の山が魔力と結びついて構成された魔物。
この施設が放棄された後、制度の残滓が自我を持ったものだ」

「怨念系か……!」

ミユキは前に出る。

「行くよ、ナナ、アイナ!」

「了解!」

ナナの蔦が空中でうねり、魔物の腕に絡みつく。
だが、ペンディング・ゴーレムは動じない。
その巨大な腕を振るうと、ナナの魔力が弾かれる。

「クッ……重すぎる!」

「この魔物、構造が“報告の山”そのもの! 一撃一撃が“責任の押し付け合い”みたいな質量してる!」

「じゃあ、まとめて“承認”してやる!」

ミユキが跳び上がり、頭上から斬りつける。
光刃が魔物の額をかすめ――火花が散る。

だが、貫けない。

「“拒絶の文言”が結界を構成してる! 物理魔力じゃ抜けない!」

「私が穴を開ける!」

アイナが手を掲げると、光の結界が空中に浮かび、そこに一気に魔力が収束する。

「――解析展開、《スクラップ・バリア》!」

防御型魔法――アイナ独自の結界魔法が、魔物の内側に直接“防壁”を設置する。

「今よ、ミユキ!」

「任せて!」

ミユキの剣が炎をまとい、一直線に突き刺さる。

「フレア・ピアス!」

結界と結界の“反発”が発生し、魔物の胸にひびが走る。

そこへナナが続く。

「――蔦よ、解(ほど)け! 《スパイラル・スラッシュ》!」

無数の蔦が魔物の腕を切断し、結界が崩れた。

最後に、ミユキが剣を大きく振りかぶる。

「――終わりにしよう、“未承認”!」

「リフレクション・エンド!」

光の剣が、魔物の中心を一直線に裂いた。

まばゆい閃光と共に、ペンディング・ゴーレムは崩壊し、無数の紙片となって散った。

静けさが戻る。

床の魔導陣が薄れていき、空気の重さも消えた。

三人は、ゆっくりとその場に立ち尽くした。

「……やったの?」

「消えた。完全に」

ユリが答えた。

「“制度の遺物”の一部が、ここで終わった」

アイナが、天井を見上げながら言った。

「この建物、すべて“管理と放棄”の象徴だったのよ。
あの魔物は、“処理されなかった責任の山”だったのかもね」

「過去のツケが、形になってた」

ミユキは剣を消しながら言った。

「でも、私たちが今“向き合って倒した”ってことは、
あの頃の自分たちにも、今の自分たちにも、ちゃんと意味があるってことだよね」

ナナが笑った。

「えらい前向きね」

「ちょっとだけ、ね」

アイナが地面から“何か”を拾い上げる。

古びたファイル。封筒の中には、手書きの魔法陣の設計図、そして――“管理機関のロゴ”が印刷された書類。

「これは……“封律機関”の初期文書。
制度の最奥に関わる資料だわ」

ミユキはファイルをそっと胸に抱えた。

「まだ、知らなきゃいけないことがたくさんあるみたい」

彼女たちは、再び歩き出す。

今度は、“記録に残らない戦士”じゃない。

自らの足で過去と未来を繋ぐ、意志ある大人として。
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