魔法少女は会社員

naomikoryo

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第3章:旧戦線再結集

第8話:街を護る者として

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火曜の朝。
神代ミユキは、始発の電車に揺られていた。

スマホのスケジュールには「08:00 クライアント訪問(中央区)」とある。
けれど、目的地はそこではない。

「都内で魔物の出現数、先週比で312%増加。
その大半が“小規模”で、“異常として報告されない”範囲にとどまっている」

ユリの報告は淡々としている。

「つまり、目立たない程度に出て、消えてるってこと?」

「否。目立たないのではなく、“誰にも認識されていない”のだ。
現代都市のストレス値が魔力感応の閾値を越え、“常態的な異界干渉”が起きつつある。
今や都市そのものが“魔物を生み出す生体炉”になっている」

「……そんな馬鹿な」

だが、思い当たることはいくつもあった。
車内の無言の怒り、職場の鬱屈、すれ違う誰もが“何かを削られながら生きている”。

魔法少女の力が“感情”を媒体にするものであるなら、
この都市は、もはや魔物の温床として理想的すぎるのだ。

朝8時、東京駅地下の構内。
平日のはずの喧騒が、わずかに“歪んで”いる。

ミユキはコートの内側に魔法核を隠し、
ごく自然に人の流れに紛れて“異常値”の反応源へと向かう。

通勤ラッシュの波を抜けたとき、構内の電光掲示板が一瞬ノイズを走らせた。

「……来たわね」

人混みの中から現れたのは、ナナとアイナ、そして――まどかだった。

「まどか、無理してない?」

「ううん。少しずつだけど、力の扱い、思い出してきた。
それに……“この感覚”は、忘れてないの。
何か悪いものが近づいてくる時の、このぞわっとした感じ」

「異界の裂け目、2メートル以内に接近中。感知不能結界を展開」

ユリの指示に従い、三人は変身を行う。
構内の物理空間を“視界操作”で覆い隠しながら、彼女たちは“戦闘状態”に移行した。

「いた」

地下柱の陰、ゴミの隙間に――黒く染まった影。

それは人の形をしているようで、どこか“社会人のテンプレ”を模倣しているようにも見える。
ネクタイ、スーツ、カバン。だが、顔は――ない。

「これは……“フォーマッター”!」

アイナが叫ぶ。

「人格を上書きし、社会性というテンプレートで自我を“削除”する魔物!
完全に都市型……!」

「無差別型か?」

「その場の感情に寄生して動くタイプ。
でも周囲への物理的攻撃性は低い。目的は“感染”」

「つまり放置すれば、電車内やオフィスが“全部”やられるわけね!」

ナナが鞭を構える。

「一瞬で仕留めるわよ。公共空間は長期戦に向かない」

ミユキは剣を構え、まどかが後方から補助魔法を展開。

「支援系、バリア結界――展開!」

彼女の光が、メンバーの動きを包み込む。

「ありがと、まどか!」

「いける!」

ナナが跳び、蔦の鞭が魔物の脚を絡めとる。

そこへミユキが一気に跳躍し、斜めに斬りかかる。

「クロス・フェイズ!」

斬撃が閃き、魔物の“顔のない面”を一刀で裂く。
フォーマッターは“他人の視線”を吸収して成長する性質のため、
誰にも見られずに倒すことが最も効果的だ。

光の中、魔物が霧のように消える。

“誰にも知られない”戦いが、またひとつ終わった。

午前10時。喫茶店にて。

4人はようやく腰を下ろし、それぞれのコーヒーを啜っていた。

「……限界ね」

ナナが言った。

「出現頻度、都市構造、感情エネルギー……
私たち4人じゃ、もう追いつかない。
これ、“個人のレベル”を超えてる」

「でも、放っておけない。
見えないけど、“侵食”は着実に進んでる。
近いうち、また“裂ける”わ、この都市」

アイナの目は、冷静だった。

「必要なのは、“再編成”」

ミユキが言った。

「個の力じゃなく、都市防衛の“網”を作る。
でもそれは、“かつての制度”と同じじゃダメ。
感情を切り捨てたら、またあの魔物たちが生まれる」

「じゃあ、どうするの?」

「“選ばれた人”だけじゃなくて、“今を生きてる人”と組む。
会社員でも、学生でも、パートでも。
異能の有無より、“都市に責任を持って生きている人たち”と連携する。
その中心に、私たちが立つ」

まどかが、そっと言った。

「それって……“チーム”を作るってこと?」

「そう」

ミユキは頷いた。

「私たちは、もう一度“戦う集団”になる。
でも今度は、“日常を守る側”として」

「都市型魔法少女防衛ネットワーク……仮称“LinkLine(リンクライン)”」

アイナが小さく呟いた。

「なんか、それっぽい名前じゃない?」

「それ、ちょっといいかも」

ナナが笑う。

そしてミユキは、最後に言った。

「――私たちは、もう世界を救わなくていい。
その代わり、毎日を壊させはしない。
街を護る者として、生きる」

外の光が、彼女たちの背中を静かに照らしていた。
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