魔法少女は会社員

naomikoryo

文字の大きさ
48 / 64
第7章:制度の亡霊たち

第3話:仮面の男、現る

しおりを挟む
「結界が張られてる……でも、自然発生じゃない。
これは誰かが“意図的に固定してる”」

アイナの解析が即座に下る。

「中の魔力密度も妙に一定ね。異界が“呼吸してない”感じがする」

ナナがそう言いながら、剣に蔦を這わせる。

「気をつけて。これは罠よ。誰かが“待ってる”」

ミユキは無言で頷いた。
胸の奥に、不安とも緊張ともつかない妙なざわめきがあった。

地下二層。
薄暗い照明が点滅する駐車区画。
鉄骨がねじれ、床に黒い亀裂が走り、車止めの一部は“記憶の歪み”のように透けていた。

その中央――柱の陰から、ゆっくりと誰かが現れた。

黒いローブ。幾何学模様の刻まれた仮面。
人型ではあるが、どこか“空洞”めいた印象の存在だった。

「……誰?」

ミユキが静かに声をかける。
仮面の男はわずかに首を傾け、そして言った。

「魔法とは、制御されない感情の連鎖。
ゆえに、それは“管理される意志”によって均衡を保つ必要がある。
制度とは、秩序の言語。
感情とは、混沌の原材料」

その声を聞いた瞬間、ミユキの心臓が一拍遅れて跳ねた。

(……この声……どこかで……)

「……あなた、何者?」

ナナが一歩前に出る。

仮面の男は答えず、代わりに一つだけ言葉を発した。

「LinkLine――
制度の外に在りながら、“公共性”を名乗る組織。
その矛盾は、いずれ自己崩壊を招く。
我々は、それを観測する者だ」

「“我々”?」

アイナが即座に反応する。

「他にもいるの?」

仮面の男は何も答えず、右手をかざした。

次の瞬間、床のひび割れから“記録の影”のようなものが立ち上がった。
黒い人影。だがそれは戦闘意思ではなく、“映像の再生”に近かった。

「これ……ARKの記録投影?」

アイナの目が細くなる。

「似てる。でも違う。
これは、再現じゃない。
“意味を持たない断片”の寄せ集め……感情の残渣」

影が呻き声を上げ、ナナとまどかが即座に結界を張る。

「敵意はない。けど、力はある。
混ざってる……いろんな人の“名もない感情”が!」

「やめてよ!」

まどかが叫ぶ。

「そんな風に、“誰かの想い”を、武器にしないで!」

仮面の男が、淡々と答える。

「感情とは、記録に残らなければ意味を持たない。
制度は、意味のないものを選別し、切り捨てることで成り立つ。
LinkLineは、それに抗っている。
だが――“秩序に抗う力”は、やがて混沌へと堕ちる」

その言葉に、ミユキはゆっくりと剣を抜いた。

「それが……“あなたの理屈”?
でも、私たちは“残すため”に魔法を使ってる。
忘れられないものを、“記録”じゃなくて、“記憶”にするために」

ミユキの剣が閃いた。

仮面の男はその場にとどまり、片腕で魔力の盾を展開する。
刃は防がれる――だが、ミユキはそれで満足だった。

「……あなたは、私たちを見に来た。
戦うためじゃなく、“確かめに”来たんでしょ」

男は無言だったが、ゆっくりと距離を取った。

影が消えていく。異界の歪みが収束していく。

その中で、彼は一言だけ残した。

「制度は、再び構築される。
そのとき、“記録されるに値する感情”だけが選ばれる。
それを拒む者は、“次の時代”に居場所を持たない」

そして、仮面の男は霧のように消えた。

沈静化が確認され、LinkLineは退却準備に入った。

「今の……いったい何だったの」

すみれが呆然とつぶやく。

「敵……とは言い切れないけど、“見てた”わね、私たちを」

ナナが警戒を解かぬまま言った。

「声、どこかで聞いたような気がする」

ミユキがぽつりと呟いた。

「え?」

「いや……気のせいかも。でも……
すごく昔に聞いたような、
それとも……どこか、心の奥にひっかかる音だった」

その言葉を、誰も深くは追及しなかった。

だがミユキだけは、かつての古巣――
あの“閉ざされた会議室”の記憶を思い出していた。

床に浮かんだ魔方陣。
静かな監視の目。
そして、何よりも、“制度の空気”。

(まさか……)

その疑念は、まだ言葉にならない。
けれど確かに、そこにあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

処理中です...