魔法少女は会社員

naomikoryo

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第7章:制度の亡霊たち

第3話:仮面の男、現る

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「結界が張られてる……でも、自然発生じゃない。
これは誰かが“意図的に固定してる”」

アイナの解析が即座に下る。

「中の魔力密度も妙に一定ね。異界が“呼吸してない”感じがする」

ナナがそう言いながら、剣に蔦を這わせる。

「気をつけて。これは罠よ。誰かが“待ってる”」

ミユキは無言で頷いた。
胸の奥に、不安とも緊張ともつかない妙なざわめきがあった。

地下二層。
薄暗い照明が点滅する駐車区画。
鉄骨がねじれ、床に黒い亀裂が走り、車止めの一部は“記憶の歪み”のように透けていた。

その中央――柱の陰から、ゆっくりと誰かが現れた。

黒いローブ。幾何学模様の刻まれた仮面。
人型ではあるが、どこか“空洞”めいた印象の存在だった。

「……誰?」

ミユキが静かに声をかける。
仮面の男はわずかに首を傾け、そして言った。

「魔法とは、制御されない感情の連鎖。
ゆえに、それは“管理される意志”によって均衡を保つ必要がある。
制度とは、秩序の言語。
感情とは、混沌の原材料」

その声を聞いた瞬間、ミユキの心臓が一拍遅れて跳ねた。

(……この声……どこかで……)

「……あなた、何者?」

ナナが一歩前に出る。

仮面の男は答えず、代わりに一つだけ言葉を発した。

「LinkLine――
制度の外に在りながら、“公共性”を名乗る組織。
その矛盾は、いずれ自己崩壊を招く。
我々は、それを観測する者だ」

「“我々”?」

アイナが即座に反応する。

「他にもいるの?」

仮面の男は何も答えず、右手をかざした。

次の瞬間、床のひび割れから“記録の影”のようなものが立ち上がった。
黒い人影。だがそれは戦闘意思ではなく、“映像の再生”に近かった。

「これ……ARKの記録投影?」

アイナの目が細くなる。

「似てる。でも違う。
これは、再現じゃない。
“意味を持たない断片”の寄せ集め……感情の残渣」

影が呻き声を上げ、ナナとまどかが即座に結界を張る。

「敵意はない。けど、力はある。
混ざってる……いろんな人の“名もない感情”が!」

「やめてよ!」

まどかが叫ぶ。

「そんな風に、“誰かの想い”を、武器にしないで!」

仮面の男が、淡々と答える。

「感情とは、記録に残らなければ意味を持たない。
制度は、意味のないものを選別し、切り捨てることで成り立つ。
LinkLineは、それに抗っている。
だが――“秩序に抗う力”は、やがて混沌へと堕ちる」

その言葉に、ミユキはゆっくりと剣を抜いた。

「それが……“あなたの理屈”?
でも、私たちは“残すため”に魔法を使ってる。
忘れられないものを、“記録”じゃなくて、“記憶”にするために」

ミユキの剣が閃いた。

仮面の男はその場にとどまり、片腕で魔力の盾を展開する。
刃は防がれる――だが、ミユキはそれで満足だった。

「……あなたは、私たちを見に来た。
戦うためじゃなく、“確かめに”来たんでしょ」

男は無言だったが、ゆっくりと距離を取った。

影が消えていく。異界の歪みが収束していく。

その中で、彼は一言だけ残した。

「制度は、再び構築される。
そのとき、“記録されるに値する感情”だけが選ばれる。
それを拒む者は、“次の時代”に居場所を持たない」

そして、仮面の男は霧のように消えた。

沈静化が確認され、LinkLineは退却準備に入った。

「今の……いったい何だったの」

すみれが呆然とつぶやく。

「敵……とは言い切れないけど、“見てた”わね、私たちを」

ナナが警戒を解かぬまま言った。

「声、どこかで聞いたような気がする」

ミユキがぽつりと呟いた。

「え?」

「いや……気のせいかも。でも……
すごく昔に聞いたような、
それとも……どこか、心の奥にひっかかる音だった」

その言葉を、誰も深くは追及しなかった。

だがミユキだけは、かつての古巣――
あの“閉ざされた会議室”の記憶を思い出していた。

床に浮かんだ魔方陣。
静かな監視の目。
そして、何よりも、“制度の空気”。

(まさか……)

その疑念は、まだ言葉にならない。
けれど確かに、そこにあった。
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