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第7章:制度の亡霊たち
第7話:誰が選ぶのか
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火曜の朝、LinkLineのミーティングルームに、一通の正式通知が届いた。
【件名】特例団体組織認定に関する提案
【発信元】東京都庁 魔力災害対策課
【要旨】LinkLineを魔力制度下における準公的災害対応団体として認定し、
公的記録と災害対応予算、及び制度内資格との連携を進める。
【備考】可決時、構成員には都が認定する“制度記録者”資格の取得が可能となる。
読み上げられたその瞬間、会議室の空気が静かに沈んだ。
最初に口を開いたのは、アイナだった。
「要するに、“制度に入れ”ってことよ。
これまでのLinkLineのやり方を残すなら、“枠に合わせて”という条件付きで」
ナナが低くうなる。
「奴ら、やっぱりここを“脅威”と見たのね。
このまま独立した動きされるより、“囲い込む”ほうが安全ってわけだ」
つかさが、迷いを含んだ声で言う。
「でも……登録されれば、都の予算で機材も拡充できるし、
新人の再契約者にも保険がつけられる。
“守れる人”が増えるんじゃないかな……?」
「その“守れる”って誰が選ぶの?」
ミユキの声が、静かに空気を切った。
「制度が決めた“適正者”だけを対象にした魔法記録、
そんなの、本当に“記録”って言える?」
まどかがそっとつぶやいた。
「……私たち、そもそも“記録されなかった魔法少女”たちの声を集めてたんじゃ……」
すみれが視線を落とす。
「でも、最近思うんです。
“拾うだけ”じゃ、何も守れないんじゃないかって。
誰にも届かない記録は……ほんとうに“存在”って言えるのかな」
言葉は、沈黙を連れて落ちてきた。
その日の午後、柏木悠真が本部に現れた。
予告もなく、柔らかい表情のまま。
「通知、読んでくれたんだね」
「ええ。……なかなか思い切った内容だったわ」
ミユキは机の端に腕を置き、表情を崩さなかった。
「LinkLineは、もはや都も無視できない存在だ。
それなら、“制度の中で正式に位置づける”ことで、
“感情の行使”を可視化しようっていうのが、今の上層部の考え」
「でもそれって、私たちのやり方とは真逆でしょ。
可視化することで、選別が始まる」
「それは違う。
制度が情報を必要とするのは、“選ぶため”じゃない。
“守るため”だ」
ミユキは少しだけ目を伏せた。
「じゃあ、制度が“守らなかった”魔法少女たちは……?」
柏木は口をつぐんだ。
そして、ぽつりと答えた。
「……制度が“気づけなかった”んだよ」
その言葉は、言い訳ではなかった。
どこか、自分自身への悔恨にも似た響きを帯びていた。
「だから、これからは変えたい。
LinkLineが制度に加わることで、“制度の感度”を高めていく。
それが……僕がここにいる理由なんだ」
ミユキは彼の目をまっすぐに見た。
その中に、嘘はなかった。
けれど、**「枠の中で守る」**という前提が、すでにミユキの考えとは決定的にずれていた。
「……柏木。
制度って、“名前のある人”だけを守る仕組みなんだよ。
名前がつけられなかった記憶、
語られなかった痛み、
そういうものを拾い続けるために、私たちはLinkLineをやってる」
柏木はゆっくりと頷いた。
「わかってる。
でも……名前があれば、守れるんだ。
だからこそ、名前をつけてあげられる制度を、
僕は作り直したいと思ってる」
その夜、LinkLineの作戦記録室では、
組織の方向性を巡って、静かな議論が交わされていた。
若手の一部――つかさ、すみれ――は制度側との接続に希望を見出していた。
未紗やまどかは、「制度の重さ」に恐れを抱いていた。
ナナは壁にもたれながら、言った。
「私はね、制度って言葉にアレルギーがあるのよ。
それを正義だって言われたら、
“じゃあ外れた人間は何?”って問い詰めたくなる」
アイナは短くうなずいた。
「私たちは、“感情に名前をつけない”記録をずっと残してきた。
それが、制度の枠に収まった時点で、“評価”になる。
それは……魔法を使う理由そのものを、変えてしまう」
深夜。
ミユキは屋上のベンチで、ひとり空を見ていた。
誰もいない都市。
静かな風。
そして、記録という言葉の重さ。
「……誰が、選ぶんだろうね」
独り言のようにつぶやいた。
「この記録が“残るに値する”かどうか、
そんなことを“制度”が決められるのかな」
ミユキの手の中には、小さなデジタル端末。
そこに表示されているのは、つかさとすみれが書き残した非公式記録――
「誰にも拾われなかった契約者たち」の名前が並ぶページ。
それぞれの名前は、震えるような文字で記されていた。
(この記録は、どんな制度にも渡せない)
それは、断絶でも反抗でもない。
ただ、“そうであるしかない”という、静かな決意だった。
【件名】特例団体組織認定に関する提案
【発信元】東京都庁 魔力災害対策課
【要旨】LinkLineを魔力制度下における準公的災害対応団体として認定し、
公的記録と災害対応予算、及び制度内資格との連携を進める。
【備考】可決時、構成員には都が認定する“制度記録者”資格の取得が可能となる。
読み上げられたその瞬間、会議室の空気が静かに沈んだ。
最初に口を開いたのは、アイナだった。
「要するに、“制度に入れ”ってことよ。
これまでのLinkLineのやり方を残すなら、“枠に合わせて”という条件付きで」
ナナが低くうなる。
「奴ら、やっぱりここを“脅威”と見たのね。
このまま独立した動きされるより、“囲い込む”ほうが安全ってわけだ」
つかさが、迷いを含んだ声で言う。
「でも……登録されれば、都の予算で機材も拡充できるし、
新人の再契約者にも保険がつけられる。
“守れる人”が増えるんじゃないかな……?」
「その“守れる”って誰が選ぶの?」
ミユキの声が、静かに空気を切った。
「制度が決めた“適正者”だけを対象にした魔法記録、
そんなの、本当に“記録”って言える?」
まどかがそっとつぶやいた。
「……私たち、そもそも“記録されなかった魔法少女”たちの声を集めてたんじゃ……」
すみれが視線を落とす。
「でも、最近思うんです。
“拾うだけ”じゃ、何も守れないんじゃないかって。
誰にも届かない記録は……ほんとうに“存在”って言えるのかな」
言葉は、沈黙を連れて落ちてきた。
その日の午後、柏木悠真が本部に現れた。
予告もなく、柔らかい表情のまま。
「通知、読んでくれたんだね」
「ええ。……なかなか思い切った内容だったわ」
ミユキは机の端に腕を置き、表情を崩さなかった。
「LinkLineは、もはや都も無視できない存在だ。
それなら、“制度の中で正式に位置づける”ことで、
“感情の行使”を可視化しようっていうのが、今の上層部の考え」
「でもそれって、私たちのやり方とは真逆でしょ。
可視化することで、選別が始まる」
「それは違う。
制度が情報を必要とするのは、“選ぶため”じゃない。
“守るため”だ」
ミユキは少しだけ目を伏せた。
「じゃあ、制度が“守らなかった”魔法少女たちは……?」
柏木は口をつぐんだ。
そして、ぽつりと答えた。
「……制度が“気づけなかった”んだよ」
その言葉は、言い訳ではなかった。
どこか、自分自身への悔恨にも似た響きを帯びていた。
「だから、これからは変えたい。
LinkLineが制度に加わることで、“制度の感度”を高めていく。
それが……僕がここにいる理由なんだ」
ミユキは彼の目をまっすぐに見た。
その中に、嘘はなかった。
けれど、**「枠の中で守る」**という前提が、すでにミユキの考えとは決定的にずれていた。
「……柏木。
制度って、“名前のある人”だけを守る仕組みなんだよ。
名前がつけられなかった記憶、
語られなかった痛み、
そういうものを拾い続けるために、私たちはLinkLineをやってる」
柏木はゆっくりと頷いた。
「わかってる。
でも……名前があれば、守れるんだ。
だからこそ、名前をつけてあげられる制度を、
僕は作り直したいと思ってる」
その夜、LinkLineの作戦記録室では、
組織の方向性を巡って、静かな議論が交わされていた。
若手の一部――つかさ、すみれ――は制度側との接続に希望を見出していた。
未紗やまどかは、「制度の重さ」に恐れを抱いていた。
ナナは壁にもたれながら、言った。
「私はね、制度って言葉にアレルギーがあるのよ。
それを正義だって言われたら、
“じゃあ外れた人間は何?”って問い詰めたくなる」
アイナは短くうなずいた。
「私たちは、“感情に名前をつけない”記録をずっと残してきた。
それが、制度の枠に収まった時点で、“評価”になる。
それは……魔法を使う理由そのものを、変えてしまう」
深夜。
ミユキは屋上のベンチで、ひとり空を見ていた。
誰もいない都市。
静かな風。
そして、記録という言葉の重さ。
「……誰が、選ぶんだろうね」
独り言のようにつぶやいた。
「この記録が“残るに値する”かどうか、
そんなことを“制度”が決められるのかな」
ミユキの手の中には、小さなデジタル端末。
そこに表示されているのは、つかさとすみれが書き残した非公式記録――
「誰にも拾われなかった契約者たち」の名前が並ぶページ。
それぞれの名前は、震えるような文字で記されていた。
(この記録は、どんな制度にも渡せない)
それは、断絶でも反抗でもない。
ただ、“そうであるしかない”という、静かな決意だった。
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