56 / 64
第8章:その力で、何を選ぶか
第2話:それぞれの再起動
しおりを挟む
異界災害の拡大は、もはや東京だけにとどまらなかった。
北海道・帯広、福岡・天神、大阪・難波、仙台・泉中央――
かつて魔法制度が及んでいた都市圏を中心に、異界の“ほつれ”が同時多発的に発生していた。
それは、制度の記録に一度でも“触れられた魔力”を持つ土地を狙っていた。
そして、そこにはかつて魔法少女として生き、今は“ただの人”として暮らしていた者たちがいた。
■ 北海道・帯広
⸺元魔法少女:如月しの(32)
しのは、今は小さなカフェのオーナーとして地元に根を下ろしていた。
魔法少女だった頃のことは、誰にも話していない。
制度が崩壊したあの日、静かに自分の“魔法”を封じ、日常に還った。
けれど、あの朝――空に現れた雲の色を見た瞬間、しのの指先が疼いた。
「……これは、あのときの“境界のにおい”」
店を早仕舞いにして帰宅した彼女は、押し入れの奥にしまっていた古い魔力計測器を取り出した。
そこに、LinkLineの非常通信が届いていた。
「あなたの記録は、今も生きています」
「今、必要なのは“かつての魔法”ではなく、“信じた記録”です」
しのは思わず、笑った。
「神代ミユキ……まだ、そんなこと言ってるんだね。
……ほんと、変わらないな、あんたは」
しのは、机の引き出しの奥にしまっていたリング型の媒体を取り出す。
魔法の核ではなく、“かつて核を宿していた器”。
それをそっと、指にはめた。
「じゃあ、少しだけ。
……“記録の続きを書く”くらいは、付き合うよ」
■ 福岡・天神
⸺元魔法少女:原口セラ(29)
セラは、現在はデザイン事務所でフリーのグラフィックを請け負っている。
魔法少女だった過去は、誰も知らない。
あれは、制度に翻弄され、戦いの意味を見失ったまま終わった記憶。
彼女は今、異界に飲まれつつある地下鉄構内の非常階段に立っていた。
周囲には警報が鳴り響き、乗客たちは避難していた。
だが、その中心で“何か”が蠢いている。
「こんなときに、魔法を使える資格はない……はずだったのに」
スマホを通じて送られてきた、LinkLineの通信。
「記録は資格じゃない。
感情のままに動いたあなたの魔法を、私たちは覚えている」
セラは、ポケットから小さなペンダントを取り出す。
過去の契約媒体だったもの。
それはもう力を持たないはずだったのに、ほんのりと光を帯びていた。
「……バカね、ミユキ。
あんたのその言葉、嫌いじゃないわ」
セラは深呼吸を一つ。
そして、階段を駆け下りた。
■ 大阪・難波
⸺元魔法少女:天野マユ(35)
「もう私は、ただの人間です」
そう口癖のように繰り返していたマユ。
だが、異界は、そんな彼女の勤める中学校にも侵入してきた。
保健室に閉じ込められた生徒たちを守るため、彼女は迷っていた。
そして、彼女の端末に届いたのは――
かつての仲間、ナナのメッセージだった。
「記録は、あたしらの武器だった。
今は“変身”できなくても、あたしらの魔法は記録の中にある」
「それをもう一度、“使いたい”と思うなら、それで十分よ」
マユは、白衣のポケットから小さな銀のカードキーを取り出す。
制度時代、魔法少女の身分証として発行されていた金属片。
生徒たちの叫びが聞こえる。
(もう、“ただの人間”では守れない)
マユは白衣を脱ぎ捨て、制服のシャツをまくった。
「誰が決めたのよ。
“終わった”って、誰が言った?」
マユは扉を開け、歩き出した。
■ 東京・LinkLine本部
その夜、ミユキはLinkLineのメインホールに設置された“記録モニター”の前に立っていた。
画面には、全国から送られてくる元魔法少女たちの“再起動ログ”が並ぶ。
「……戻ってきてくれるんだね」
アイナが呟く。
「戻ったんじゃないわ。ずっと、心のどこかで“まだ終わってない”って思ってたんだよ、みんな」
ナナの声には、どこか懐かしさがにじんでいた。
「私たちの魔法は、制度に選ばれなかった。
でも、制度に選ばれなかったからこそ、“終わらせ方”も自分で決められる」
「そして、まだ誰も終わらせてない」
ミユキは小さく微笑んだ。
記録は、蘇るためにあるのではない。
ただ、「ここにあった」という痕跡として――
誰かが思い出し、誰かがもう一度信じたとき、再び“力”になり得るのだ。
そして、その再起動は、すでに始まっている。
北海道・帯広、福岡・天神、大阪・難波、仙台・泉中央――
かつて魔法制度が及んでいた都市圏を中心に、異界の“ほつれ”が同時多発的に発生していた。
それは、制度の記録に一度でも“触れられた魔力”を持つ土地を狙っていた。
そして、そこにはかつて魔法少女として生き、今は“ただの人”として暮らしていた者たちがいた。
■ 北海道・帯広
⸺元魔法少女:如月しの(32)
しのは、今は小さなカフェのオーナーとして地元に根を下ろしていた。
魔法少女だった頃のことは、誰にも話していない。
制度が崩壊したあの日、静かに自分の“魔法”を封じ、日常に還った。
けれど、あの朝――空に現れた雲の色を見た瞬間、しのの指先が疼いた。
「……これは、あのときの“境界のにおい”」
店を早仕舞いにして帰宅した彼女は、押し入れの奥にしまっていた古い魔力計測器を取り出した。
そこに、LinkLineの非常通信が届いていた。
「あなたの記録は、今も生きています」
「今、必要なのは“かつての魔法”ではなく、“信じた記録”です」
しのは思わず、笑った。
「神代ミユキ……まだ、そんなこと言ってるんだね。
……ほんと、変わらないな、あんたは」
しのは、机の引き出しの奥にしまっていたリング型の媒体を取り出す。
魔法の核ではなく、“かつて核を宿していた器”。
それをそっと、指にはめた。
「じゃあ、少しだけ。
……“記録の続きを書く”くらいは、付き合うよ」
■ 福岡・天神
⸺元魔法少女:原口セラ(29)
セラは、現在はデザイン事務所でフリーのグラフィックを請け負っている。
魔法少女だった過去は、誰も知らない。
あれは、制度に翻弄され、戦いの意味を見失ったまま終わった記憶。
彼女は今、異界に飲まれつつある地下鉄構内の非常階段に立っていた。
周囲には警報が鳴り響き、乗客たちは避難していた。
だが、その中心で“何か”が蠢いている。
「こんなときに、魔法を使える資格はない……はずだったのに」
スマホを通じて送られてきた、LinkLineの通信。
「記録は資格じゃない。
感情のままに動いたあなたの魔法を、私たちは覚えている」
セラは、ポケットから小さなペンダントを取り出す。
過去の契約媒体だったもの。
それはもう力を持たないはずだったのに、ほんのりと光を帯びていた。
「……バカね、ミユキ。
あんたのその言葉、嫌いじゃないわ」
セラは深呼吸を一つ。
そして、階段を駆け下りた。
■ 大阪・難波
⸺元魔法少女:天野マユ(35)
「もう私は、ただの人間です」
そう口癖のように繰り返していたマユ。
だが、異界は、そんな彼女の勤める中学校にも侵入してきた。
保健室に閉じ込められた生徒たちを守るため、彼女は迷っていた。
そして、彼女の端末に届いたのは――
かつての仲間、ナナのメッセージだった。
「記録は、あたしらの武器だった。
今は“変身”できなくても、あたしらの魔法は記録の中にある」
「それをもう一度、“使いたい”と思うなら、それで十分よ」
マユは、白衣のポケットから小さな銀のカードキーを取り出す。
制度時代、魔法少女の身分証として発行されていた金属片。
生徒たちの叫びが聞こえる。
(もう、“ただの人間”では守れない)
マユは白衣を脱ぎ捨て、制服のシャツをまくった。
「誰が決めたのよ。
“終わった”って、誰が言った?」
マユは扉を開け、歩き出した。
■ 東京・LinkLine本部
その夜、ミユキはLinkLineのメインホールに設置された“記録モニター”の前に立っていた。
画面には、全国から送られてくる元魔法少女たちの“再起動ログ”が並ぶ。
「……戻ってきてくれるんだね」
アイナが呟く。
「戻ったんじゃないわ。ずっと、心のどこかで“まだ終わってない”って思ってたんだよ、みんな」
ナナの声には、どこか懐かしさがにじんでいた。
「私たちの魔法は、制度に選ばれなかった。
でも、制度に選ばれなかったからこそ、“終わらせ方”も自分で決められる」
「そして、まだ誰も終わらせてない」
ミユキは小さく微笑んだ。
記録は、蘇るためにあるのではない。
ただ、「ここにあった」という痕跡として――
誰かが思い出し、誰かがもう一度信じたとき、再び“力”になり得るのだ。
そして、その再起動は、すでに始まっている。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
Chivalry - 異国のサムライ達 -
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか?
これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる