魔法少女は会社員

naomikoryo

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第8章:その力で、何を選ぶか

第2話:それぞれの再起動

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異界災害の拡大は、もはや東京だけにとどまらなかった。
北海道・帯広、福岡・天神、大阪・難波、仙台・泉中央――
かつて魔法制度が及んでいた都市圏を中心に、異界の“ほつれ”が同時多発的に発生していた。

それは、制度の記録に一度でも“触れられた魔力”を持つ土地を狙っていた。
そして、そこにはかつて魔法少女として生き、今は“ただの人”として暮らしていた者たちがいた。

■ 北海道・帯広
⸺元魔法少女:如月しの(32)

しのは、今は小さなカフェのオーナーとして地元に根を下ろしていた。
魔法少女だった頃のことは、誰にも話していない。
制度が崩壊したあの日、静かに自分の“魔法”を封じ、日常に還った。

けれど、あの朝――空に現れた雲の色を見た瞬間、しのの指先が疼いた。

「……これは、あのときの“境界のにおい”」

店を早仕舞いにして帰宅した彼女は、押し入れの奥にしまっていた古い魔力計測器を取り出した。
そこに、LinkLineの非常通信が届いていた。

「あなたの記録は、今も生きています」
「今、必要なのは“かつての魔法”ではなく、“信じた記録”です」

しのは思わず、笑った。

「神代ミユキ……まだ、そんなこと言ってるんだね。
……ほんと、変わらないな、あんたは」

しのは、机の引き出しの奥にしまっていたリング型の媒体を取り出す。
魔法の核ではなく、“かつて核を宿していた器”。
それをそっと、指にはめた。

「じゃあ、少しだけ。
……“記録の続きを書く”くらいは、付き合うよ」

■ 福岡・天神
⸺元魔法少女:原口セラ(29)

セラは、現在はデザイン事務所でフリーのグラフィックを請け負っている。
魔法少女だった過去は、誰も知らない。
あれは、制度に翻弄され、戦いの意味を見失ったまま終わった記憶。

彼女は今、異界に飲まれつつある地下鉄構内の非常階段に立っていた。

周囲には警報が鳴り響き、乗客たちは避難していた。
だが、その中心で“何か”が蠢いている。

「こんなときに、魔法を使える資格はない……はずだったのに」

スマホを通じて送られてきた、LinkLineの通信。

「記録は資格じゃない。
感情のままに動いたあなたの魔法を、私たちは覚えている」

セラは、ポケットから小さなペンダントを取り出す。
過去の契約媒体だったもの。
それはもう力を持たないはずだったのに、ほんのりと光を帯びていた。

「……バカね、ミユキ。
あんたのその言葉、嫌いじゃないわ」

セラは深呼吸を一つ。
そして、階段を駆け下りた。

■ 大阪・難波
⸺元魔法少女:天野マユ(35)

「もう私は、ただの人間です」

そう口癖のように繰り返していたマユ。
だが、異界は、そんな彼女の勤める中学校にも侵入してきた。

保健室に閉じ込められた生徒たちを守るため、彼女は迷っていた。

そして、彼女の端末に届いたのは――
かつての仲間、ナナのメッセージだった。

「記録は、あたしらの武器だった。
今は“変身”できなくても、あたしらの魔法は記録の中にある」
「それをもう一度、“使いたい”と思うなら、それで十分よ」

マユは、白衣のポケットから小さな銀のカードキーを取り出す。
制度時代、魔法少女の身分証として発行されていた金属片。

生徒たちの叫びが聞こえる。

(もう、“ただの人間”では守れない)

マユは白衣を脱ぎ捨て、制服のシャツをまくった。

「誰が決めたのよ。
“終わった”って、誰が言った?」

マユは扉を開け、歩き出した。

■ 東京・LinkLine本部
その夜、ミユキはLinkLineのメインホールに設置された“記録モニター”の前に立っていた。

画面には、全国から送られてくる元魔法少女たちの“再起動ログ”が並ぶ。

「……戻ってきてくれるんだね」

アイナが呟く。

「戻ったんじゃないわ。ずっと、心のどこかで“まだ終わってない”って思ってたんだよ、みんな」

ナナの声には、どこか懐かしさがにじんでいた。

「私たちの魔法は、制度に選ばれなかった。
でも、制度に選ばれなかったからこそ、“終わらせ方”も自分で決められる」

「そして、まだ誰も終わらせてない」

ミユキは小さく微笑んだ。

記録は、蘇るためにあるのではない。
ただ、「ここにあった」という痕跡として――
誰かが思い出し、誰かがもう一度信じたとき、再び“力”になり得るのだ。

そして、その再起動は、すでに始まっている。
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