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第8章:その力で、何を選ぶか
第3話:妹の記録
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夜の病室は静かだった。
都内でも魔力対応に特化した医療施設――その一室に、柏木悠真はいた。
胸部の包帯の下には、エネルギー銃による損傷がまだ癒えていない。
肺の一部と肋骨、さらには心膜にまで微細な異界波が浸透していたという。
医師たちは「奇跡的に生きている」と言った。
だが、柏木にとっての奇跡は、別の場所にあった。
それは、病室の天井ではなく、枕元の端末の中に眠っていた。
“妹の記録”――
これまで制度に封印されていたそれが、今、再び目の前にある。
「名前:柏木志織」
「契約区分:初期試験対象/第零期制度下登録」
「コード名:エンプティ・ライン」
ファイルを開いた瞬間、画面に白黒の写真が現れる。
長い黒髪。いつも無表情に見えたが、実は感情豊かだったあの妹。
柏木より三つ年下。
制度初期に“感情制御適合度が極めて高い”とされ、試験契約を持ちかけられた。
(あのとき、反対できなかった)
家族が多額の支援金を受け取ったこともある。
志織は「いいよ」と笑って言った。
「兄ちゃんの大学のお金に使って」って。
あれが、彼女の最初の“魔法”だったのかもしれない。
記録は、冷たく事務的だった。
戦闘報告、感情起伏の分析、使用魔法の効果測定――
その中に、ある異質な文言が混じっていた。
「対象、異星系知性体との第一次遭遇ミッションに適合」
「担当指導官:クラモチ・T・ヤスオミ(※仮名)」
「任務終了後、対象消失。記録分類:削除」
「備考:社会的処理のため、死亡扱いとし、遺族への説明処理を行うこと」
(消失……?)
柏木は指を止めた。
志織は、死んだのではない。
“消された”のだ。制度によって。
そしてその任務は、当時記録すらされていなかった“異星との接触”だった。
彼女は、地球の制度が初めて“外”と接したその最前線にいた。
しかもその指導官は――
「クラモチ」
あの仮面の男が名乗った名。
記録人格であり、制度の“意志”を保存したAIであり、
そしてその名前は――今や異星体の代名詞として浮上している。
(まさか……)
柏木の心臓が、ひときわ大きく鳴った。
(志織は、地球の制度と“クラモチ”の実験台にされた……)
彼女の優しさを知っている。
家族を、兄を、そして世界を信じて魔法を使った少女。
その命が、制度と異星体の共同研究の中で“消されていた”。
「柏木さん……!」
病室の扉が勢いよく開き、ミユキが飛び込んできた。
彼女の目には焦りと、そして揺るぎない意思があった。
「落ち着いて、もう動かないでって言われてるはずでしょ……!」
「ミユキ……見てくれ」
柏木は画面を彼女に見せる。
そこには、志織の最後の記録が映っていた。
ミユキは息をのんだ。
「これ……妹さん?」
「そうだ。制度が記録を封印してた。
異星人との接触任務。
志織はその“感情の制御実験”の生体モデルにされていた。
倉持――いや、“クラモチ”と呼ばれる存在の最初の指導対象だったんだ」
ミユキは何も言えなかった。
ただ、その事実の重さに打ちのめされそうになりながらも、彼の手を握った。
「じゃあ……今の彼の行動も、全部“前提”だったの?」
「……そうだ。
制度は、“管理可能な魔法”を作るために、
感情の起伏そのものを記録し、統計的に制御しようとしていた。
志織は、その実験の一環として、“自分の感情を全て提出”していた」
「そんなの、魔法じゃない……!」
ミユキの声が震えた。
「魔法は、誰かに与えるものなのに……」
夜更け。
ミユキは柏木の傍で、静かにノートを開いていた。
LinkLineの非公式記録。
その中の一ページに、志織の名前が追加された。
柏木志織
使用魔法:未登録
記録理由:制度に記録されなかった感情のため
ミユキは静かにペンを置いた。
「あなたの妹は、記録されたよ。
今度こそ、“名前を持った魔法少女”として」
柏木は、声もなく頷いた。
その目から、一滴だけ涙がこぼれた。
画面の向こう。
旧魔法庁跡地の深部で、仮面の男が誰にも見られず立ち尽くしていた。
「志織……。
君の記録が、まだ“感情”を持っているとは」
そして、その背後に浮かぶ意識の塊――
本体クラモチの演算核が、ゆっくりと点灯する。
「感情の記録は、秩序には不要である」
「だが、感情そのものが秩序を崩すならば――全記録対象の抹消を再検討する」
異星体がついに、“感情の反乱”を排除するフェーズに入った。
都内でも魔力対応に特化した医療施設――その一室に、柏木悠真はいた。
胸部の包帯の下には、エネルギー銃による損傷がまだ癒えていない。
肺の一部と肋骨、さらには心膜にまで微細な異界波が浸透していたという。
医師たちは「奇跡的に生きている」と言った。
だが、柏木にとっての奇跡は、別の場所にあった。
それは、病室の天井ではなく、枕元の端末の中に眠っていた。
“妹の記録”――
これまで制度に封印されていたそれが、今、再び目の前にある。
「名前:柏木志織」
「契約区分:初期試験対象/第零期制度下登録」
「コード名:エンプティ・ライン」
ファイルを開いた瞬間、画面に白黒の写真が現れる。
長い黒髪。いつも無表情に見えたが、実は感情豊かだったあの妹。
柏木より三つ年下。
制度初期に“感情制御適合度が極めて高い”とされ、試験契約を持ちかけられた。
(あのとき、反対できなかった)
家族が多額の支援金を受け取ったこともある。
志織は「いいよ」と笑って言った。
「兄ちゃんの大学のお金に使って」って。
あれが、彼女の最初の“魔法”だったのかもしれない。
記録は、冷たく事務的だった。
戦闘報告、感情起伏の分析、使用魔法の効果測定――
その中に、ある異質な文言が混じっていた。
「対象、異星系知性体との第一次遭遇ミッションに適合」
「担当指導官:クラモチ・T・ヤスオミ(※仮名)」
「任務終了後、対象消失。記録分類:削除」
「備考:社会的処理のため、死亡扱いとし、遺族への説明処理を行うこと」
(消失……?)
柏木は指を止めた。
志織は、死んだのではない。
“消された”のだ。制度によって。
そしてその任務は、当時記録すらされていなかった“異星との接触”だった。
彼女は、地球の制度が初めて“外”と接したその最前線にいた。
しかもその指導官は――
「クラモチ」
あの仮面の男が名乗った名。
記録人格であり、制度の“意志”を保存したAIであり、
そしてその名前は――今や異星体の代名詞として浮上している。
(まさか……)
柏木の心臓が、ひときわ大きく鳴った。
(志織は、地球の制度と“クラモチ”の実験台にされた……)
彼女の優しさを知っている。
家族を、兄を、そして世界を信じて魔法を使った少女。
その命が、制度と異星体の共同研究の中で“消されていた”。
「柏木さん……!」
病室の扉が勢いよく開き、ミユキが飛び込んできた。
彼女の目には焦りと、そして揺るぎない意思があった。
「落ち着いて、もう動かないでって言われてるはずでしょ……!」
「ミユキ……見てくれ」
柏木は画面を彼女に見せる。
そこには、志織の最後の記録が映っていた。
ミユキは息をのんだ。
「これ……妹さん?」
「そうだ。制度が記録を封印してた。
異星人との接触任務。
志織はその“感情の制御実験”の生体モデルにされていた。
倉持――いや、“クラモチ”と呼ばれる存在の最初の指導対象だったんだ」
ミユキは何も言えなかった。
ただ、その事実の重さに打ちのめされそうになりながらも、彼の手を握った。
「じゃあ……今の彼の行動も、全部“前提”だったの?」
「……そうだ。
制度は、“管理可能な魔法”を作るために、
感情の起伏そのものを記録し、統計的に制御しようとしていた。
志織は、その実験の一環として、“自分の感情を全て提出”していた」
「そんなの、魔法じゃない……!」
ミユキの声が震えた。
「魔法は、誰かに与えるものなのに……」
夜更け。
ミユキは柏木の傍で、静かにノートを開いていた。
LinkLineの非公式記録。
その中の一ページに、志織の名前が追加された。
柏木志織
使用魔法:未登録
記録理由:制度に記録されなかった感情のため
ミユキは静かにペンを置いた。
「あなたの妹は、記録されたよ。
今度こそ、“名前を持った魔法少女”として」
柏木は、声もなく頷いた。
その目から、一滴だけ涙がこぼれた。
画面の向こう。
旧魔法庁跡地の深部で、仮面の男が誰にも見られず立ち尽くしていた。
「志織……。
君の記録が、まだ“感情”を持っているとは」
そして、その背後に浮かぶ意識の塊――
本体クラモチの演算核が、ゆっくりと点灯する。
「感情の記録は、秩序には不要である」
「だが、感情そのものが秩序を崩すならば――全記録対象の抹消を再検討する」
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