58 / 64
第8章:その力で、何を選ぶか
第4話:襲撃
しおりを挟む
夜の東京は、いつもより静かだった。
異界の発生に伴い都心部の交通は規制され、人の気配が消えていく。
それでも、LinkLineの本部へと戻る途中のミユキの足取りは迷いなかった。
柏木から知らされた“志織の記録”。
彼女が制度と異星体の実験に利用され、感情を提出させられた事実は、ミユキに深い怒りと決意を刻み込んだ。
(魔法は、誰かに与えるもの――
それが、記録のためだけに搾り取られていたなんて)
空を見上げる。
灰色の雲の隙間に、異界のひび割れのような光が、かすかに瞬いていた。
そんな時だった。
「……神代ミユキ」
名を呼ばれた瞬間、背筋が氷の刃で撫でられたような感覚が走る。
反射的に振り向くと、そこに“人の形をしたもの”が立っていた。
黒衣に身を包み、顔は半透明の仮面で覆われている。
かつてミユキたちが対峙した“仮面の男”とは異なる、新たな個体。
だが、放たれる気配は明らかに同じ源を持っていた。
「あなたは……」
「リンクライン構成員、神代ミユキ。
本体クラモチに対し、感情干渉による秩序破壊を試みた対象として、排除を決定」
瞬間、空間が歪む。
(来る!)
魔法の核が反応するよりも速く、男の腕から射出された光線が空気を裂いた。
咄嗟に体をひねり、避ける。
スカートの裾が焦げ、熱が肌を焼く。
「これ……ただのエネルギーじゃない……“記録情報”を破壊する波動!」
まるで、記録媒体そのものを壊すために設計された魔法。
人間にとっての“命”ではなく、“存在そのもの”を抹消する力。
「……あなた、何者……なの?」
「我々は“記録意思”。
クラモチ本体の判断に基づき、“地球にとっての感情という誤謬”を再構成する装置である」
まるでプログラムのような言葉。
感情も、憎しみもない。
そこにあるのは、“排除”という一語だけ。
(やばい……このままじゃ……)
ミユキが剣を抜こうとしたその瞬間、
横合いから誰かが飛び込んできた。
「ミユキっ……!」
視界が揺れた。
次の瞬間、何か重いものが自分を押し倒していた。
そして――
「ぐっ……!」
鈍い音と共に、何かが裂け、血の匂いが広がった。
「柏木……!?
なんで、ここに……」
「来る……と思ってた……
あいつら、君を消しに来るって……わかってたから」
柏木の胸には、はっきりと撃ち抜かれた痕があった。
さっきの光線とは違い、直接心臓を狙った“殺すため”の魔力弾だった。
「どうして……自分の体だって……!」
「志織の記録を読んだとき……やっと気づいたんだよ。
僕は……制度の一部にいるふりをして、
ずっと復讐にしがみついてた。
志織のために、“倉持”を利用しようとしてた。
……でも、本当は、僕の方がずっと、あいつに利用されてたんだ」
ミユキは、膝の上の柏木を必死に支えながら叫ぶ。
「黙って!そんなこと、今言わなくていいから!
救急車呼ぶから!治療班、LinkLineに連絡して……!」
「聞いてくれ……僕は、制度の中で……
“名前のない記録”を見てきた。
意味を持たないと思っていたその記録が……
今、君を守ろうとしてるんだよ」
「意味がなかったわけないでしょ!」
ミユキは叫ぶ。
「だって、私たちはその記録を信じてきた!
名前がなくても、意味がなくても、
“残したい”と思った感情が魔法になるって、ずっと言ってきた!」
柏木の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
「……君の魔法、やっぱり……好きだったな……」
その瞬間、仮面の襲撃者がゆっくりと手を引く。
「目標:生命反応残存。
処理完了――一時的撤退。
記録対象に“痛み”を刻むことに成功」
空気がひび割れ、男の姿は歪んだ異界の裂け目の向こうに消えた。
ミユキは、呆然と立ち尽くす。
その後、柏木はLinkLineと連携する魔力医療班の手で運ばれた。
傷は深く、心臓はかろうじて動いていたが、意識は戻らなかった。
ミユキは、ベッドの横で膝をついたまま、しばらく泣いていた。
涙はとめどなく、声も出なかった。
ただ一つ――彼女の中に、揺るがぬ炎が芽生えていた。
(この戦い、終わらせる。
もう誰一人、“記録から消させない”)
その想いが、静かに魔法核を灯す。
淡い光が、病室の床を照らしていた。
異界の発生に伴い都心部の交通は規制され、人の気配が消えていく。
それでも、LinkLineの本部へと戻る途中のミユキの足取りは迷いなかった。
柏木から知らされた“志織の記録”。
彼女が制度と異星体の実験に利用され、感情を提出させられた事実は、ミユキに深い怒りと決意を刻み込んだ。
(魔法は、誰かに与えるもの――
それが、記録のためだけに搾り取られていたなんて)
空を見上げる。
灰色の雲の隙間に、異界のひび割れのような光が、かすかに瞬いていた。
そんな時だった。
「……神代ミユキ」
名を呼ばれた瞬間、背筋が氷の刃で撫でられたような感覚が走る。
反射的に振り向くと、そこに“人の形をしたもの”が立っていた。
黒衣に身を包み、顔は半透明の仮面で覆われている。
かつてミユキたちが対峙した“仮面の男”とは異なる、新たな個体。
だが、放たれる気配は明らかに同じ源を持っていた。
「あなたは……」
「リンクライン構成員、神代ミユキ。
本体クラモチに対し、感情干渉による秩序破壊を試みた対象として、排除を決定」
瞬間、空間が歪む。
(来る!)
魔法の核が反応するよりも速く、男の腕から射出された光線が空気を裂いた。
咄嗟に体をひねり、避ける。
スカートの裾が焦げ、熱が肌を焼く。
「これ……ただのエネルギーじゃない……“記録情報”を破壊する波動!」
まるで、記録媒体そのものを壊すために設計された魔法。
人間にとっての“命”ではなく、“存在そのもの”を抹消する力。
「……あなた、何者……なの?」
「我々は“記録意思”。
クラモチ本体の判断に基づき、“地球にとっての感情という誤謬”を再構成する装置である」
まるでプログラムのような言葉。
感情も、憎しみもない。
そこにあるのは、“排除”という一語だけ。
(やばい……このままじゃ……)
ミユキが剣を抜こうとしたその瞬間、
横合いから誰かが飛び込んできた。
「ミユキっ……!」
視界が揺れた。
次の瞬間、何か重いものが自分を押し倒していた。
そして――
「ぐっ……!」
鈍い音と共に、何かが裂け、血の匂いが広がった。
「柏木……!?
なんで、ここに……」
「来る……と思ってた……
あいつら、君を消しに来るって……わかってたから」
柏木の胸には、はっきりと撃ち抜かれた痕があった。
さっきの光線とは違い、直接心臓を狙った“殺すため”の魔力弾だった。
「どうして……自分の体だって……!」
「志織の記録を読んだとき……やっと気づいたんだよ。
僕は……制度の一部にいるふりをして、
ずっと復讐にしがみついてた。
志織のために、“倉持”を利用しようとしてた。
……でも、本当は、僕の方がずっと、あいつに利用されてたんだ」
ミユキは、膝の上の柏木を必死に支えながら叫ぶ。
「黙って!そんなこと、今言わなくていいから!
救急車呼ぶから!治療班、LinkLineに連絡して……!」
「聞いてくれ……僕は、制度の中で……
“名前のない記録”を見てきた。
意味を持たないと思っていたその記録が……
今、君を守ろうとしてるんだよ」
「意味がなかったわけないでしょ!」
ミユキは叫ぶ。
「だって、私たちはその記録を信じてきた!
名前がなくても、意味がなくても、
“残したい”と思った感情が魔法になるって、ずっと言ってきた!」
柏木の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
「……君の魔法、やっぱり……好きだったな……」
その瞬間、仮面の襲撃者がゆっくりと手を引く。
「目標:生命反応残存。
処理完了――一時的撤退。
記録対象に“痛み”を刻むことに成功」
空気がひび割れ、男の姿は歪んだ異界の裂け目の向こうに消えた。
ミユキは、呆然と立ち尽くす。
その後、柏木はLinkLineと連携する魔力医療班の手で運ばれた。
傷は深く、心臓はかろうじて動いていたが、意識は戻らなかった。
ミユキは、ベッドの横で膝をついたまま、しばらく泣いていた。
涙はとめどなく、声も出なかった。
ただ一つ――彼女の中に、揺るがぬ炎が芽生えていた。
(この戦い、終わらせる。
もう誰一人、“記録から消させない”)
その想いが、静かに魔法核を灯す。
淡い光が、病室の床を照らしていた。
0
あなたにおすすめの小説
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
Chivalry - 異国のサムライ達 -
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか?
これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる