魔法少女は会社員

naomikoryo

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第8章:その力で、何を選ぶか

第8話:金色の魔法核

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東京・旧魔法庁跡地。
異界の構造が崩壊を始めた場所に、いま、金色の光が降り注いでいた。

ミユキの身体を中心に、無数の魔法の光が集まってくる。
それはLinkLine本部に保存された非公式記録、
制度に記録されなかった元魔法少女たちの魔法、
そして全国で“再び立ち上がった者たち”の想いだった。

「これが……私たちの魔法……」

ミユキは、両手で柏木の胸に魔力を注ぎながら、必死に祈る。

「お願い……
誰も助けてくれなかったあの時、
あなたは私たちを助けようとした――
だったら今度は、私たちがあなたを助ける番なの……!」

彼女の叫びに応えるように、空からさらに光が降る。

北海道の夜空、福岡のビルの屋上、仙台の河川敷、名古屋の駅前ロータリー。
そのすべての場所で、かつて魔法を手放した者たちが、
再び“魔法の痕跡”を解き放っていた。

(想いが……集まってる)

ミユキの胸が熱くなる。
それは過去でも記録でもない、“いま”生まれた魔法。

「届け……お願い……!」

そして、柏木の胸に手を置いたそのときだった。

突如、彼の身体から金の光が弾ける。
心拍が――戻った。

「……ぅ……あ……」

微かに、声が漏れた。

「柏木っ……!」

ミユキは声を震わせて、彼の肩を抱く。

「生きて……!」

柏木の目が、ゆっくりと開かれる。

だが、その瞬間――ミユキの背後に、柔らかな光が現れた。

それは、人の形をしていた。
少女のようなシルエット。
白いワンピース。肩までの黒髪。
その姿に、ミユキは見覚えがあった。

「……誰?」

だが、柏木がその名をつぶやいた。

「……志織……?」

金色の光に包まれた少女は、ゆっくりと前に進み、柏木の前で立ち止まる。
目元に浮かんだ涙。
でも、表情は微笑んでいた。

「お兄ちゃん……ありがとう」

その声は、確かに志織だった。

あの時、制度に消され、記録から削除され、
存在そのものが封じられたはずの彼女。
けれど、彼女の“感情”は、消えていなかった。

記録ではなく、“兄への想い”が、魔法の核として残っていた。

「ずっと、寂しかったけど……
でも、見てたよ。
お兄ちゃんが、私のために泣いて、怒って、
そして最後に、誰かを守るために魔法を選んでくれた」

柏木の喉が震え、言葉が出なかった。

「もう大丈夫だよ。
私は、もう“記録の中だけ”じゃない。
ちゃんと、今、ここにいるから」

志織の背に、金の翼のような光が広がる。

「今から、行ってくるね。
あの人たちの“中心”へ。
私の感情は、もう“制御”されない。
私が、あの人たちに、ちゃんと伝えてくるよ。
――“魔法は記録じゃない”って」

次の瞬間、彼女の身体は空へと浮かび上がる。

東京の空を突き抜け、成層圏を超えて、
宇宙の黒に飛び込んでいく。

地球軌道上。
巨大な母船――異星体クラモチの本体が、未だ冷然と演算を続けていた。

「最終選別完了。
感情抹消対象の記録、照合不能。
地球文明体、再初期化に移行」

だが、そこに金色の光が突入する。

志織だった。
記録された感情ではない、“記録されなかった想い”の具現。

その衝突と同時に、母船の内部が崩壊を始めた。

「予期せぬデータ干渉。
不確定感情因子、侵入……」
「再初期化不可……」
「記録……記録……記録……」

そのまま、母船は内部から閃光を放ち、
宇宙空間で音もなく、静かに爆発した。

それは誰の記録にも残されなかった、
けれど確かに地球を救った“最後の魔法”だった。

東京。
朝の光が差し始める旧魔法庁跡地。
異界は完全に消え、街の輪郭が静かに戻ってくる。

柏木は、ゆっくりと身を起こし、目を細めた。

「……志織は……」

ミユキが頷いた。

「うん。……行ったよ。
あなたのために、地球のために。
ちゃんと、“最後の魔法”を使って」

柏木の目元に、涙が浮かぶ。

「ありがとう……ミユキ」

「違うよ。
ありがとうって言うべきは、あなただよ。
あなたが“記録じゃない魔法”を信じてくれたから、
志織は、もう一度“生きて”くれたんだ」

二人は、朝の光の中で静かに笑い合った。

感情は、記録されなくても、
誰かが覚えていれば――消えない。

そしてその魔法は、今日もまだ、ここにある。
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