魔法少女は会社員

naomikoryo

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第8章:その力で、何を選ぶか

第9話:記録が繋いだ魔法

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戦いは、終わった。

東京上空に広がっていた異界の膜は完全に崩れ、
崩壊しかけていた都市機能は、ゆっくりと回復に向かっていた。

クラモチの母船は、志織の感情魔法によって宇宙空間で消滅し、
地球を覆っていた“感情抑制の枠組み”も、根本から破壊された。

人類は、“制度”ではなく、“記録”によって感情と魔法を取り戻したのだった。

LinkLine本部の地下記録室。
そこでは、静かに魔法の“後片付け”が始まっていた。

使い終わった変身媒体。
燃え尽きた感情同期装置の回路。
全国から送られてきた“もう一度だけ変身した魔法少女たち”の記録。

すべてが、非公式ファイルとして一冊の記録ノートに綴じられていく。

「……これが、私たちの“最後の記録”」

ミユキは、丁寧に1ページずつページをめくっていた。

北海道、福岡、大阪、仙台――
各地で奮戦し、誰かを守った魔法少女たちの名前が、魔力波形と共にそこに残されている。

「この魔法たちは、制度には記録されない。
でも、私たちの中には、ずっと残っていく」

つかさがそっと言うと、隣にいたすみれが頷いた。

「だから、忘れないように、ちゃんと書く。
記録って、そういう魔法なんだよね」

病室にて。

柏木はようやく歩行可能なレベルまで回復していた。
まだ肺に鈍い痛みは残るが、胸を貫いた異星エネルギーの痕は、
ミユキと仲間たちの魔法が“奇跡”と呼べるレベルで修復していた。

ただし、彼の中にあった“信じていた制度”は、もうなかった。

「……僕は、最初から間違ってたのかもしれない」

そうつぶやいたとき、ミユキが首を振った。

「違うよ。
あの時、制度を信じたことが間違いなんじゃない。
“制度が全部を救える”と思い込んだことが、間違いだっただけ」

「……じゃあ、記録は?
記録は全部を救える?」

「救えないよ」

ミユキははっきりと言った。

「でも、“救えなかった人を残せる”」

柏木の目が見開かれる。

「記録って、勝者のためのものじゃない。
生き残った人たちのためのものでもない。
“消えてしまいそうな人の証明”のためにあるんだよ」

「……志織も?」

「うん。
彼女の魔法は、制度じゃなくて記録が繋いでくれた。
だから、志織は“最後の魔法”になれたんだと思う」

柏木は、目を伏せたまま小さく笑った。

「僕は制度の一部だったくせに、
本当は“名前を取り戻す”ことしか考えてなかった。
志織の記録を、君たちに託したとき、ようやく気づいたよ」

彼は、ベッドサイドの小さなノートを取り出した。

「これは、志織のことを書いた記録。
僕だけの個人的な記録だけど、よければLinkLineに保管してほしい」

ミユキはそれを受け取り、胸に抱いた。

「もちろん。
“誰にも見せない記録”も、“誰か一人が守った記録”も、
全部、LinkLineの魔法だから」

その日、LinkLineでは“新しい記録規則”が発表された。

【非公式記録運用方針】
・記録の目的は“魔法の使用者を特定する”ことではなく、
“その人がそこにいたという痕跡を残す”ことである。
・魔法が失敗しても、意味を持たなくても、
それが“誰かのため”に生まれたなら、記録対象とする。
・記録は、制度のためではなく、“忘れないため”に存在する。

このルールは、全国の元魔法少女たちに共有された。

皆が、笑って言った。

「やっと、“制度じゃない魔法”が始まったんだね」

夕暮れ時。
LinkLine本部の屋上には、すでに日が沈みかけていた。

ナナ、つかさ、すみれ、まどか、アイナ――
全員がそこにいて、ミユキと柏木が静かに並んでいた。

「魔法少女、卒業だな」

ナナが空を見上げながら言った。

「一夜限りの変身だったけど、
……なんかちゃんと“私の魔法”だったって思えるよ」

「うん。
それだけで、十分だと思う」

ミユキはそう返した。

「じゃあ、次は何になる?
“魔法おばさん”でも始める?
“魔法中間管理職”とか」

アイナの冗談に、皆が吹き出す。

柏木も、小さく笑った。

「記録は続く。
制度がなくても、世界が変わっても。
魔法が消えても、想いは残る。
……そうだろ、ミユキ?」

「うん。
それが、“記録が繋いだ魔法”だよ」

その言葉とともに、空の向こうで――
一つの星が、ゆっくりと流れ星になって落ちていった。

志織だったのかもしれない。
ただの偶然かもしれない。

けれど、その光は、
確かに“記録されなかった魔法”の痕跡として、
皆の心に残っていた。

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