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第4話『謎の来訪者と、恋人契約の崩壊フラグ』
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その朝、学園の正門に黒い馬車が止まった。
王家の紋章を掲げた、漆黒の四輪馬車。
教師も生徒も、そして使用人までもが緊張に包まれる。
「王宮直属の使者が……まさか学園に来るなんて」
王族が直々に動く。それは、戦争が始まるのと同義や。
そしてその使者が真っ直ぐに向かった先は――
「……ルーティア・フォン・ヴァレンシュタイン嬢に関する件で参上した」
学園長室にて。
使者は冷たく言い放つ。
「貴族の令嬢が、身分不明の平民教師と“恋人関係”を結んだ、という噂。王子殿下の耳にも届いております」
ルーティアの表情は凍り付いていた。
その横で、カイは溜息をついて呟いた。
「……なんや、王子さんのプライド傷つけてもうたんかいな。めんどいこっちゃな」
「黙れ、下賤の者が」
使者は、凍てつくような目でカイを睨んだ。
「教師としての立場を利用し、令嬢を弄んでいるのでは? そのような行為が許されるとお思いか」
「弄ぶて……ワイ、アメちゃんしか配ってへんで?」
「その軽口が不敬なのだ」
ルーティアが立ち上がった。
「もういいわ! 私の判断で“契約”したこと。彼に非はない!」
その瞬間、使者の口元がゆがんだ。
「つまり、あなた自身が、王家との縁を切る選択をなさったと……?」
ルーティアの手が震えた。
◆◇◆
その日の午後、ルーティアは姿を見せなかった。
カイは一人で教壇に立ち、生徒たちの前で授業を始める。
「よっしゃー、ほな今日は“三角関数”の応用をやるで。なんや、難しそうや思てるやろ? せやけど安心しいや。今日は“魔法陣の重ねがけ”について、数字で説明するからな」
生徒たちの顔に、わずかに光が差す。
彼らの中には、“魔法が使えない”と烙印を押された者も多かった。
貴族であっても、“魔力操作ができない”という理由で、半ば諦めかけている生徒たちや。
「魔法ってな、言うたら“数式で出来たパズル”みたいなもんや。魔力を文字にして、式に当てはめて、法則に従って操作するんや」
「たとえば、この円の中に流す魔力の量を“X”、その角度を“θ”、重ねる魔力陣を“f(θ)”としたら、こないな感じになる」
カイは魔法黒板に、見慣れぬ“関数”と“ベクトル式”を描き出す。
「このXとf(θ)のバランスが、魔法発動の鍵や。ちょっと試してみ?」
生徒たちが試す。すると、いままで一度も魔法が光らなかった銀髪の少女の手から、小さな火の玉がふわりと浮いた。
「……えっ……わ、私、できた……!」
「お、おい! お前、魔力ゼロって言われてたんじゃ――」
「う、うるさいっ! でも……ほんとに……!」
それを皮切りに、次々と生徒たちが魔法を成功させていく。
小さな火。光。風。
どれも弱々しいが、それでも確かに「初めての魔法」やった。
「……やった……! 俺、魔法、使えた……!」
「すげぇ……カイ先生、マジで魔法使いや……!」
(……ちゃうねん。ワイは魔法使いやない。数学教師や)
でも、心の奥が、ほんのりとあったかくなった。
◆◇◆
その日の放課後、カイが中庭で休んでいると、ルーティアが現れた。
いつもの勝気な顔じゃない。どこか不安そうな目をしていた。
「……皆、あなたの授業、褒めてたわよ。貴族生徒たちが、庶民教師に敬意を持つなんて……前代未聞」
「ほな、ちょっとは学園に役立てたってことやな」
「……あなたって、なんなのよ」
「え?」
「誰でもないはずなのに、どんどん、皆の中で“特別”になっていく。……そんなの、ずるいわ」
カイは、黙って彼女にアメちゃんを差し出した。
「甘いもん食べたら、考えすぎるのも、ちょっとだけマシになるで」
ルーティアはそれを受け取り、ほんの少し、口元をほころばせた。
「ねぇ……私、もしかしたら……あなたと居る時間が、けっこう――」
「ルーティア!」
そこに、声が割り込んだ。
金髪の青年――王子レオン・アーデルハイト。
怒気を抑えた声で、ルーティアを見つめる。
「明日、王城に来い。父が、君とこの教師について、話があるそうだ」
ルーティアの顔が引きつる。
「……王宮に?」
「“王家の縁”を切った君が、どんな選択をしたのか。……その責任を、問われることになるだろう」
王子は、カイにも鋭い視線を向けた。
「君が、ただの教師ではないことは……すでに明白だ」
夜。カイはベッドの上で、天井を見つめながら呟いた。
「ワイ、ただの数学教師のつもりやってんけどな……なんでこんな事になってもうたんや……」
同じ頃、ルーティアもベッドの中で一人呟いていた。
「……もう、仮初めじゃいられないのかもしれないわね」
王家の紋章を掲げた、漆黒の四輪馬車。
教師も生徒も、そして使用人までもが緊張に包まれる。
「王宮直属の使者が……まさか学園に来るなんて」
王族が直々に動く。それは、戦争が始まるのと同義や。
そしてその使者が真っ直ぐに向かった先は――
「……ルーティア・フォン・ヴァレンシュタイン嬢に関する件で参上した」
学園長室にて。
使者は冷たく言い放つ。
「貴族の令嬢が、身分不明の平民教師と“恋人関係”を結んだ、という噂。王子殿下の耳にも届いております」
ルーティアの表情は凍り付いていた。
その横で、カイは溜息をついて呟いた。
「……なんや、王子さんのプライド傷つけてもうたんかいな。めんどいこっちゃな」
「黙れ、下賤の者が」
使者は、凍てつくような目でカイを睨んだ。
「教師としての立場を利用し、令嬢を弄んでいるのでは? そのような行為が許されるとお思いか」
「弄ぶて……ワイ、アメちゃんしか配ってへんで?」
「その軽口が不敬なのだ」
ルーティアが立ち上がった。
「もういいわ! 私の判断で“契約”したこと。彼に非はない!」
その瞬間、使者の口元がゆがんだ。
「つまり、あなた自身が、王家との縁を切る選択をなさったと……?」
ルーティアの手が震えた。
◆◇◆
その日の午後、ルーティアは姿を見せなかった。
カイは一人で教壇に立ち、生徒たちの前で授業を始める。
「よっしゃー、ほな今日は“三角関数”の応用をやるで。なんや、難しそうや思てるやろ? せやけど安心しいや。今日は“魔法陣の重ねがけ”について、数字で説明するからな」
生徒たちの顔に、わずかに光が差す。
彼らの中には、“魔法が使えない”と烙印を押された者も多かった。
貴族であっても、“魔力操作ができない”という理由で、半ば諦めかけている生徒たちや。
「魔法ってな、言うたら“数式で出来たパズル”みたいなもんや。魔力を文字にして、式に当てはめて、法則に従って操作するんや」
「たとえば、この円の中に流す魔力の量を“X”、その角度を“θ”、重ねる魔力陣を“f(θ)”としたら、こないな感じになる」
カイは魔法黒板に、見慣れぬ“関数”と“ベクトル式”を描き出す。
「このXとf(θ)のバランスが、魔法発動の鍵や。ちょっと試してみ?」
生徒たちが試す。すると、いままで一度も魔法が光らなかった銀髪の少女の手から、小さな火の玉がふわりと浮いた。
「……えっ……わ、私、できた……!」
「お、おい! お前、魔力ゼロって言われてたんじゃ――」
「う、うるさいっ! でも……ほんとに……!」
それを皮切りに、次々と生徒たちが魔法を成功させていく。
小さな火。光。風。
どれも弱々しいが、それでも確かに「初めての魔法」やった。
「……やった……! 俺、魔法、使えた……!」
「すげぇ……カイ先生、マジで魔法使いや……!」
(……ちゃうねん。ワイは魔法使いやない。数学教師や)
でも、心の奥が、ほんのりとあったかくなった。
◆◇◆
その日の放課後、カイが中庭で休んでいると、ルーティアが現れた。
いつもの勝気な顔じゃない。どこか不安そうな目をしていた。
「……皆、あなたの授業、褒めてたわよ。貴族生徒たちが、庶民教師に敬意を持つなんて……前代未聞」
「ほな、ちょっとは学園に役立てたってことやな」
「……あなたって、なんなのよ」
「え?」
「誰でもないはずなのに、どんどん、皆の中で“特別”になっていく。……そんなの、ずるいわ」
カイは、黙って彼女にアメちゃんを差し出した。
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ルーティアはそれを受け取り、ほんの少し、口元をほころばせた。
「ねぇ……私、もしかしたら……あなたと居る時間が、けっこう――」
「ルーティア!」
そこに、声が割り込んだ。
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怒気を抑えた声で、ルーティアを見つめる。
「明日、王城に来い。父が、君とこの教師について、話があるそうだ」
ルーティアの顔が引きつる。
「……王宮に?」
「“王家の縁”を切った君が、どんな選択をしたのか。……その責任を、問われることになるだろう」
王子は、カイにも鋭い視線を向けた。
「君が、ただの教師ではないことは……すでに明白だ」
夜。カイはベッドの上で、天井を見つめながら呟いた。
「ワイ、ただの数学教師のつもりやってんけどな……なんでこんな事になってもうたんや……」
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「……もう、仮初めじゃいられないのかもしれないわね」
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