悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo

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第3話『仮初めの恋と、王子の揺れるプライド』

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 ロゼリア王立魔法学園の朝は、噂から始まる。

 今日は特にひどかった。
 カイが教室に入るなり、貴族生徒たちのざわめきが耳に飛び込んできた。

 「例の教師……あの平民教師やろ?」
 「公爵令嬢が、“付き合ってる”って……本気なんか?」
 「なんでやねん!? ありえへんやろ、身分差ありすぎやん……」

 (……うわぁ、もう噂になっとる)

◆◇◆

 事の発端は昨日の“契約”。
 ルーティアから頼まれて、王子との婚約破棄後の立場を守るための「仮初めの恋人役」。

 もちろん、本当に付き合ってるわけやあらへん。契約や。偽装や。演技や。
 ……やのに。

 「……おはよう、カイ」

 朝の廊下で、ルーティア・フォン・ヴァレンシュタイン本人が――
 花の香りをまといながら、笑顔で寄ってきた。

 「……お、おはようさん」

 「今日の授業、楽しみにしてるわ。あなたの“あの声”、結構好きなのよね」

 周囲の生徒が一斉にこちらを見てくる。

 (ちょ、待てや。ほんまにやる気か、この子……!?)

 「せやけどなルーティア、ワイ、言うとくけど演技苦手なんや。自然に振る舞われへんタイプやで?」

 「私がリードするわ。あなたは黙って、飴でも配ってればいいのよ」

 「おい。なんでそこだけ知っとるんや」

 「昨日、私の部屋にもあめちゃん持ってきたでしょう?」

 「いや、それは関西の嗜みとしてな……!」

 午前の授業が終わる頃には、噂は確定情報として学園中に広がっていた。

 『公爵令嬢と平民教師が恋人関係』
 『実はあの教師、令嬢と秘密裏に婚約している』
 『子どもまでいるらしい(※完全なデマ)』

 (ええええぇぇぇ!? 誰や広げたん!? 誰が“もう子どもいる”言うたんや!)

◆◇◆

 一方その頃、王子――レオン・アーデルハイトは、玉座の間の一角で報告を受けていた。

 「……ルーティア嬢が、学園の教師と交際を……?」

 「はい。少なくとも学園内では、彼女が“自ら望んで”彼と親密になったという噂が立っています」

 レオンの眉間に、ピクリと皺が寄った。

 「……あの女が? あの、誇り高く、男を見下していたルーティアが、あの男に――?」

 王子は思わず唇を噛んだ。

 (……彼女が“自分を捨てて”、他の男に……? それが、教師……だと?)

 カイはというと、そんな王子の心情など露知らず、昼食をとるため食堂へ向かっていた。

 いつもの席に腰を下ろした瞬間、すぐさま隣にルーティアが座る。

 「こ、ここは貴族席ちゃうんか……?」

 「恋人の隣に座るのは、当然でしょう?」

 「いや、これ“契約”やで!? 本気にすなや!」

 「わかってるわよ。でも“演技”は、徹底しないと意味がないでしょう?」

 カイが頭を抱える横で、彼女は微笑みながら料理を口に運ぶ。
 優雅な所作、堂々とした姿勢。だが、時折ちらりとカイの顔を見るその目には、どこか不思議な光があった。

 「……ほんま、なんでワイなんやろな」

 ぽつりとカイが呟いた。

 「もっとマシな相手、おったやろ? 例えば、あの王子とか、剣士の坊ちゃんとか、魔法の天才とか……」

 「……うるさいわね」

 ルーティアはナイフとフォークを置き、カイをまっすぐに見つめた。

 「“誰でもない”からよ。あなたは、私を“貴族令嬢”としてじゃなく、“人間”として見てくれるから」

 「……!」

 その瞬間、カイの口から言葉が出ぇへんようになった。

 (……この子、ほんまはええ子なんちゃうか……?)

◆◇◆

 その日の午後。

 カイは中庭で休憩していた。そこへ現れたのは――

 「……教師カイ・クロスか」

 第一王子レオン・アーデルハイト。

 金髪に碧眼、整った顔立ち、王族特有の気品。見る者すべてを魅了する美しき王子。

 そして、乙女ゲームの本来の“攻略対象”。
 ――ルーティアの“元婚約者”。

 「……用かいな?」

 「……君、ルーティアとどこまでの関係なんだ?」

 「どこまでて……“協力関係”やで」

 「協力……?」

 「せや。貴族の体裁やら、婚約やら、複雑な話があるやろ。ワイはあんまり深入りしたくないんやけどな……」

 王子の顔が険しくなった。

 「彼女を……玩具にしているわけではないよな?」

 「誰が玩具にするかいな! ワイ、そんなんちゃうわ!」

 「ならいい」

 それだけ言って、王子は去っていった。
 背中から漂う微妙な“嫉妬”の気配に、カイはひとりごちた。

 「……なぁルーティア、あんた、ほんまに王子に未練ないんか?」

◆◇◆

 その夜。

 ルーティアの部屋のバルコニーで、ふたり並んで夜空を見上げていた。

 「空、綺麗やな……月が二つもあるの、なんか不思議やわ」

 「あなたの世界には、一つしかなかったの?」

 「せや。けど……なんやろ、ここもだんだん悪くない気がしてきた」

 「……ねぇカイ、もしこの“契約”が終わったら、あなたはどうするの?」

 「そら……また静かに数学教えて、たまに飴配って、平和に暮らしたいわ」

 「……そう。じゃあ……終わらせない方が、いいかしらね」

 「……は?」

 「……ふふ。冗談よ」

 (ほんまか……?)

 まだ誰も知らへん。

 この“仮初めの恋”が、やがて王国を揺るがす本物の嵐へと育っていくことを。
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