悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo

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第6話『学園に戻ってきた“二人”と、ヒロインの視線』

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 王宮から戻ってきた日の夕方。

 ロゼリア王立魔法学園の門をくぐるカイとルーティアは、まるで異物のような視線に包まれていた。

 「……あれが、王の特例で“魔導官”の資格を得た教師……」
 「令嬢と馬車で並んで……まさか、ほんまに付き合っとるんか……?」
 「いや、でも王子が婚約破棄を先に言い出したって……噂ちゃう、本物やったらしいで?」

 (うわぁ……視線、刺さる刺さる……ワイ、いきなり学園内の有名人やんけ)

 もともとカイは“関西弁の変な教師”という程度の扱いやった。
 それがいまや、“令嬢と恋仲の異世界人教師”、“王国最高難度の魔導理論を解いた男”という肩書付き。

 「……正直、落ち着かんなぁ。こういう注目、好きちゃうねんけど」

 「慣れなさい。そのうち、嫌でも静かになるわ。たぶん」

 ルーティアは淡々と歩きながらも、どこか得意げやった。
 口元はきゅっと締まっているのに、頬がほんのり赤いのがバレバレ。

 (……この子、嬉しいんやな。ワイのこと、ちょっとは……)

◆◇◆

 翌朝。
 カイが教室に入ると、空気が明らかに違った。

 席に着いていた貴族生徒たちが、誰一人としてヤジを飛ばしてこない。
 むしろ、背筋を伸ばして整列している。

 「お、おはようございます、カイ先生……!」

 「こ、こんにちは! 先日の“干渉式”の続きをお願いします!」

 (おおおお!? なんやこの急な敬語ラッシュ!?)

 授業が始まると、その変化はますます明確になる。

 カイの黒板に描く“魔導数式”を、皆が必死で写し取っていく。
 かつて小馬鹿にされていた“数学式による魔法解説”が、今や最先端の魔導理論とされ、教室の目はキラキラと輝いていた。

 「魔力の流れは“感覚”や“才能”やと今まで言われとったけど、実は“法則”なんや。つまり、再現可能ってことや」

 「式で導き出せば、魔力が弱くても、構造さえ理解すれば使える。……ほんで、それをワイは、ここで教えたいんや」

 教室の隅で、かつて“魔法が一度も成功しなかった少年”が、そっと手を上げた。

 「せ、先生……あの、昨日教えてもらった式で……ちょっと試してみても、ええですか……?」

 「ええで。落ち着いて、ゆっくりいきや」

 少年は震える手で詠唱する。

 光の粒が、ふわりと彼の手のひらに集まり、淡い球体となった。

 「……っ! できた……ぼ、僕、できました……!」

 教室に、拍手が起こる。

 カイは微笑んだ。

 「せやろ? ワイは言うたやん。“魔法ってのは、考え方次第で誰でも使える”って」

◆◇◆

 その日、廊下で声をかけてきたのは――
 柔らかなブラウンの髪と、優しい瞳を持った少女。

 フィリア・エストレア。
 この世界の“本来のヒロイン”。

 「カイ先生……あの、少しお話、いいですか?」

 「おぉ、フィリア嬢。どうしたん?」

 「あの……先生の授業、私もこっそり後ろの席で聴いてたんです。……数学って、すごく不思議で、面白いなって」

 「そりゃうれしいわ。興味持ってくれる子、だいぶ増えてきてなぁ。関西弁やから覚えやすい言う子もおって……」

 フィリアは、ほんのり笑って頬を赤くした。

 「それに……先生、すごく“優しい目”で、生徒たちを見るんですね。私、それが、好きです」

 「……は?」

 「えっ、あっ、ご、ごめんなさい! そういう意味じゃなくてっ! ……じゃ、じゃあ失礼しますっ!」

 フィリアは走って去っていった。
 カイはしばしポカンとしてから、苦笑した。

 (……この子、ゲームの中やと“ヒロイン”やったよな)

 でも――
 “本来の主人公”は、どうやら違う道を歩き始めてるらしい。

◆◇◆

 一方その頃。

 図書室の窓際、ルーティア・フォン・ヴァレンシュタインは、一人で本を読んでいた。

 が、ページをまったくめくっていない。

 (……最近のあの男、何なのよ。妙に注目されて、女の子にまでモテ始めて……)

 (でも、なんか楽しそうに授業してる顔見てると……ううっ、なんか、ムカつく。……いや、羨ましい? うぅぅぅ……)

 頬を赤くして、両手で顔を隠す。

 そんな彼女に、専属メイドがぽつりと声をかけた。

 「お嬢様。最近の表情、柔らかくなられましたね」

 「は!? そ、そうかしら!? そう見えたなら、それは……こ、恋人役を演じるために、訓練してるだけよ!」

 (……誰に言い訳してるのよ私!)

 王宮から帰還し、学園が再び動き出す中。
 生徒たちも教師たちも、“あの教師”をただの“異邦人”とは思わなくなっていた。

 そして――
 ヒロイン・フィリアの視線が、確実に“カイ・クロス”を追い始めていた。

 だが、彼が“モブ”ではないことに、気づいていたのは……まだごく一部だった。
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