悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo

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第7話『偽りの恋人契約と、本物の嫉妬』

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 「カイ先生ー! 今日の授業、めちゃくちゃ面白かったですー!」

 「この前教えてくれた“魔法陣の回転対称性”、実験で成功しました!」

 ロゼリア王立魔法学園――
 今や、学内で“カイ・クロス”という名前を知らぬ者はいない。

 王宮で“未解決魔導問題”を解いて帰ってきた男。
 魔法が使えなかった生徒に火を灯した数学教師。
 そして、公爵令嬢・ルーティアの“恋人”。

 (……いやぁ、なんか話がどんどん盛られてる気ぃすんねんけど……)

 「ワイ、ただの数学教師やからな。勘違いせんといてなー」

 と苦笑しても、周囲は「またまたご謙遜を~」と受け取ってくる。
 完全に、“モブ枠”からは脱落してしまった。

◆◇◆

 一方その頃、学園中庭のカフェテラス。

 ルーティアは、いつものように紅茶を口に運びながら、落ち着かない顔をしていた。

 目の前のカイは、隣の席でフィリア・エストレアと魔導書を広げ、楽しげに談笑している。

 「……この“n次関数”のやつ、これって魔力波形にも応用できるんですか?」

 「できるで。むしろ“それ”が鍵や。今度、実験室で試してみよか」

 「わぁ……カイ先生って、ほんとすごいですっ!」

 「そ、そうか……まあ、普通や思うんやけどな……」

 (……なにあれ、あんなデレ顔、私には見せたことないくせに)

 ルーティアは、じっと紅茶のカップを見つめる。

 (って、なに考えてるのよ私……! これは契約! 仮初め! なにを……なにをヤキモチみたいな……!)

 「……くっ」

 膝の上のハンカチをぎゅっと握る。

 そこへメイドのクラリッサが、そっと言った。

 「お嬢様、もしや……“お心が、揺らいで”おられます?」

 「っ……そんなわけないでしょうっ!!」

 「なるほど、“動揺してない”が“怒鳴ってる”でございますか……」

◆◇◆

 その日の夕方。

 カイは中庭で、フィリアに呼び止められていた。

 「先生……あの、私、今日の放課後……実験室、一緒に行ってもらってもいいですか?」

 「ええでー。今日は授業も空きあるしな」

 「……ありがとう、先生。私、先生の授業を受けて……自分にもできること、あるんだって思えたんです」

 「そら、ええこっちゃ」

 「だから……もっと、先生のこと、知りたくて」

 その言葉に、カイが少し目を見開いた瞬間――

 「……なんのご用かしら?」

 割り込むように、ルーティアの声が響いた。

 フィリアは一瞬たじろぐが、にっこりと微笑む。

 「ルーティア様。いえ、ただ授業の延長で……」

 「へぇ、授業の“延長”で、そんなに近い距離で話すの? どこで学んだのかしら、その技術」

 (お、お嬢様、トゲ強すぎるぅぅぅ……)

 空気がギスギスしたその時――

 「やめとけ」

 割って入ってきたのは、第一王子――レオン・アーデルハイト。

 「ルーティア。君も、もう少し“分を弁えた”ほうがいい。これ以上、見苦しい真似はやめろ」

 「……なんですって?」

 「教師との関係も、“仮初め”だと言いながら、君はもう――」

 「……黙りなさい。何を知っているというの、あなたが」

 ルーティアの瞳に、鋭い怒りが宿る。

 レオンは、彼女から目を逸らし、カイの方へと向き直った。

 「カイ・クロス。君が、数学を用いて魔法を教えるのは結構だ。だが――」

 その声が、わずかに震えていた。

 「君が“誰かの未来”にまで踏み込むことは……果たして、それでいいのか?」

 「……なんやそれ。脅しのつもりか?」

 「忠告だ。“運命”に手を出せば、君も“運命”に裁かれるぞ」

 言い残して、レオンは立ち去った。

◆◇◆

 その夜。

 カイは、教師寮の自室でぼんやり天井を見つめていた。

 (……ワイは、ただ数学を教えたかっただけやったんにな)

 (でも、気づけば誰かの“運命”を変えてもうてる)

 あの少年。あの少女。フィリア。ルーティア。
 彼らが魔法を使えるようになったのも、勇気を持てたのも、たぶん――

 「……ワイのせいやな」

 そこへ、静かにドアがノックされた。

 「……誰や?」

 「……私よ」

 ルーティアだった。

 カイは無言でドアを開ける。

 ルーティアは、珍しく視線を合わせず、もじもじと立っていた。

 「な、なんかあったん?」

 「……ねぇ、カイ」

 「うん?」

 「……あなたに、“私の運命”を変えるつもりなんて、あった?」

 「……あらへん。最初から、ワイはただ“隣におる”だけやった」

 「……ふふ」

 ルーティアは、ほんの少し、微笑んだ。

 「じゃあ……この気持ちも、“自分で選んだ”ってことね」

 「気持ち……?」

 「っ……な、なんでもない! 今のなしっ! 忘れなさい! アホ!」

 「え、えぇ……」

 顔を真っ赤にして去っていく令嬢を、ぽかんと見送る。

 (……あかん。これ、ワイ、ほんまに巻き込まれとる)

 “運命”という言葉が、少しずつ現実味を帯びていく。

 そしてこの世界は、また一つ、分岐しようとしていた。
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