悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo

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第48話『祝宴の後に』【カイとルーティアの夏休み編⑰】

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 豪奢な舞踏会も終わりに近づき、会場にはまだ賑やかな笑い声と杯を交わす音が響いていた。
 だが、先ほどの婚約発表とルーティアの宣言の余韻は冷めやらず、貴族たちの話題はもっぱら二組のカップルのことだった。

 「殿下とフィリア嬢……実に美しい」
 「ルーティア様とカイ先生も、驚くほど自然に見えた」
 「これから王国は安泰だろう」

 そんな声を背中に浴びながら、カイは広間の片隅に逃げ込んでワイングラスを傾けていた。

 「……いやぁ、逃げられん空気やったなぁ。ワイの意思なんかどこにも反映されてへんやん」
 小さくぼやきながらも、胸の奥にはほんの少し温かいものがあるのを、カイ自身も気づいていた。

 「旦那様、こちらにいらっしゃいましたのね」

 振り返ると、ルーティアが真紅のドレスの裾を揺らしながらやって来た。
 目尻はほんのり赤く染まり、いつもの誇り高い表情ではなく、どこか少女らしい笑みを浮かべている。

 「お、お嬢……あんだけ人前で爆弾発言かましたあとやのに、よう笑ってられるなぁ」
 「だって、幸せなんですもの」
 「幸せ言うなや……ワイ、まだ心臓バクバクやで」

 ルーティアは構わず隣に腰掛け、当然のようにカイの腕に絡みつく。
 「皆様の前で宣言できて、胸がすっとしましたわ。これで私と旦那様の絆は、誰にも否定できません」
 「いや、否定したいのはワイ自身やねんけどなぁ……」

 「ふふっ。旦那様、まだ観念なさらないの?」
 「せやかてワイ、ほんまはただの教師やで? 公爵令嬢と並ぶ器ちゃうやん」
 「器なんて、私が保証いたしますわ。――だって私が旦那様を選んだのですから」

 まっすぐな眼差しに、カイは言葉を失った。

 そこへ、穏やかな声がかかった。
 「お二人とも、随分と楽しそうだな」

 レオンとフィリアが姿を現した。
 レオンは柔らかく笑みを浮かべ、フィリアは少し照れながらも誇らしげに立っていた。

 「殿下……」
 カイは慌てて立ち上がろうとするが、ルーティアが腕を離さず座らせたままにする。

 「よい。形式ばった挨拶は不要だ。――改めて礼を言わせてくれ、カイ」
 レオンの声音は真剣だった。
 「私がこうしてフィリアと並んで立てるのは、君の支えがあったからだ。魔法も剣も、そして心も。君の助言がなければ、私はここまで来られなかった」

 「殿下……」

 「私の婚約を祝福してくれた妹同然のルーティアを、そして彼女が選んだ君を、私は信じる」

 そう言って、レオンは手を差し出した。
 カイは一瞬戸惑いながらも、その手をしっかりと握り返した。

 フィリアが続けて微笑む。
 「先生。私もお礼を言わせてください。――以前の私は、ただ守られるだけの存在でした。でも今は違います。殿下と並んで歩けるようになったのは、先生が教えてくださったからです」

 「いやいや、ワイはちょっと算数教えただけや」
 「その“ちょっと”が、私にとっては大きな一歩だったのです」

 彼女の澄んだ眼差しに、カイはむず痒さを覚え、頭をかいた。
 「ほんま……生徒に褒められるんは慣れてへんわ」

 ルーティアはここぞとばかりに胸を張る。
 「ご覧なさい。殿下もフィリアも旦那様を認めているのです。もう、逃げ道なんてございませんわ」
 「逃げ道ない言うなぁ!」

 そのやり取りに、レオンとフィリアも思わず笑みをこぼした。

 やがて、夜更けの鐘が鳴り、祝宴も終わりを告げた。
 人々は三々五々広間を後にし、静けさが戻りつつある。

 カイは大きく息をつき、残っていたワインを飲み干した。
 (……波乱含みの舞踏会やったけど、とりあえずは大団円、か)

◆◇◆

 だが――。

 広間の片隅では、仮面を付けた数人の男たちが、鋭い視線をこちらに向けていた。
 「……異邦人ごときが、王国の中心に立つなど」
 「次の一手は、我らが握る」

 その低い囁きは、カイの耳には届かない。

 外に出ると、夜空には満天の星が広がっていた。
 ルーティアは月明かりに照らされながら、カイの肩にそっと頭を預けた。

 「旦那様。……今夜は、本当に幸せでしたわ」
 「ワイは胃が痛かったで……」
 「ふふっ、そういう旦那様だからこそ、私は好きなのです」

 逃げ場のない言葉に、カイは再び天を仰いだ。
 (あかん。ほんまに、もう逃げられへんのかもしれんなぁ……)
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