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第62話『模擬戦の違和感』【魔族姫編②】
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十月の学園は、空気が澄み渡っていた。
雲が高く、木の葉が黄金に色づきはじめ、校庭の砂も乾いてさらさらと風に舞う。
新入生が入って数日。クロス組はにわかに活気づいていた。
「先輩って呼ばれるの、悪くないですわね。」
ルーティアは胸を張り、蒼い瞳を輝かせて言った。
「どや。いつも強気やけど、ほんまに頼られる立場になったら責任も重いんやで?」
「責任? 旦那様の妻にふさわしい態度を見せるだけですわ!」
「誰が妻や言うてんねん! まだ籍も入れてへん!」
昼休みの校庭に、いつもの夫婦漫才が響き渡り、二年生の笑いを誘った。
そこに新入生たちが歩いてきた。
リリシアを先頭に、整然と、けれどどこか軽やかに。
人目を引くのは彼女の容姿だけではない。
歩くときの重心の揃い方が異様に正確で、それでいて自由さを失っていない。
◆◇◆
「模擬戦、やりましょう。」
リリシアが柔らかく、しかし挑むような目で告げた。
「先輩方と手合わせすれば、もっと早く学べると思うのです。」
こうして、急遽「二年クロス組VS一年クロス組」の模擬戦が組まれた。
観客は大勢。ほかのクラスの生徒まで集まってきて、校庭の周囲は人だかりになった。
「ええか。ルールは簡単や。」
カイが笛を持ち、両陣の間に立つ。
「怪我させんように。結界はワイが張るから大丈夫やけど、校舎まで吹っ飛ばしたら減点やで。」
「先生の減点、容赦ないからなぁ……」
誰かがつぶやき、笑いが起こる。
互いに礼をして、模擬戦が始まった。
一年の中から三人が前に出た。
風、雷、氷――三種の魔法が同時に紡がれる。
詠唱の速さ、練りの正確さ、どれも新入生とは思えぬ完成度だった。
「――っ!」
二年生の前衛が盾を展開する。
轟音と閃光が走り、砂煙が舞い上がった。
しかし。
「……なに、これ。」
盾を張った二年が息を呑む。
防ぎ切ったはずの魔力が、表面を撫でるように流れていき、じわりと身体に圧を残していた。
正面衝突ではない。押し付けるでもない。
まるで水面に石を落とし、波が自然に広がるような力のかかり方だった。
次の瞬間、ルーティアとリリシアが同時に踏み込んだ。
ルーティアの炎剣が赤薔薇のように開き、リリシアの風剣がその形を乱さぬまま押し返す。
剣戟は金属音をほとんど立てず、ただ空気の振動だけが観客を震わせた。
「互角……!」
「二年と一年で、ここまで拮抗するのか!」
見物の生徒がざわめく。
だがカイは違った。
眉間に深い皺を寄せ、額に手を当ててじっと見ていた。
(……やっぱりや。揺らぎがない。普通の術者ならどこかに“ノイズ”が走るんや。それが見えん。式が滑りすぎてる。)
リリシアは笑っていた。挑発でもなく、純粋な喜びの笑み。
ルーティアも口元を引き結び、必死に応じる。
「止め!」
カイの声が鋭く響く。
二人はぴたりと剣を止め、砂粒ひとつ乱れぬ静止で終わらせた。
「……お見事。」
カイは笛を口から外し、深く息を吐いた。
「一年も二年も、よう頑張った。けど、ここで終わりや。」
生徒たちは拍手を送り、模擬戦は幕を下ろした。
戦いを終えたリリシアがこちらを振り向いた。
額に汗を光らせ、それを気にもせずに微笑む。
「先生。どうでしたか、私の式は。」
「……きれいすぎる。」
ぽつりとこぼす。
「普通やったら、小さなざらつきが残るんやけどな。アンタのは……水鏡みたいや。」
リリシアは答えず、ただ微笑んで視線を逸らした。
その一瞬、紫紺の瞳の奥に、深く閉ざされた扉の影が見えた気がした。
「カイ!」
ルーティアが割って入り、腕にしがみつく。
「どうしてリリシアばかり褒めるの。私だって頑張ったのよ!」
「お、おう。もちろんや。ルーティアの炎も見事やったで。」
「見事、だけ?」
「えっと……満点……いや、点数つけんほうがええな!」
「最初からそう言いなさい!」
観客席からは笑いと拍手が起こり、模擬戦の熱気は柔らかい空気に変わっていった。
(……正体は何や。いや、今はまだ追及せんでええ。黒板の前に座っとる限り、うちの生徒や。それで十分やろ。)
カイは胸の内でそう結論を出し、吹き出す汗を拭った。
秋の空はどこまでも高く澄んでいた。
雲が高く、木の葉が黄金に色づきはじめ、校庭の砂も乾いてさらさらと風に舞う。
新入生が入って数日。クロス組はにわかに活気づいていた。
「先輩って呼ばれるの、悪くないですわね。」
ルーティアは胸を張り、蒼い瞳を輝かせて言った。
「どや。いつも強気やけど、ほんまに頼られる立場になったら責任も重いんやで?」
「責任? 旦那様の妻にふさわしい態度を見せるだけですわ!」
「誰が妻や言うてんねん! まだ籍も入れてへん!」
昼休みの校庭に、いつもの夫婦漫才が響き渡り、二年生の笑いを誘った。
そこに新入生たちが歩いてきた。
リリシアを先頭に、整然と、けれどどこか軽やかに。
人目を引くのは彼女の容姿だけではない。
歩くときの重心の揃い方が異様に正確で、それでいて自由さを失っていない。
◆◇◆
「模擬戦、やりましょう。」
リリシアが柔らかく、しかし挑むような目で告げた。
「先輩方と手合わせすれば、もっと早く学べると思うのです。」
こうして、急遽「二年クロス組VS一年クロス組」の模擬戦が組まれた。
観客は大勢。ほかのクラスの生徒まで集まってきて、校庭の周囲は人だかりになった。
「ええか。ルールは簡単や。」
カイが笛を持ち、両陣の間に立つ。
「怪我させんように。結界はワイが張るから大丈夫やけど、校舎まで吹っ飛ばしたら減点やで。」
「先生の減点、容赦ないからなぁ……」
誰かがつぶやき、笑いが起こる。
互いに礼をして、模擬戦が始まった。
一年の中から三人が前に出た。
風、雷、氷――三種の魔法が同時に紡がれる。
詠唱の速さ、練りの正確さ、どれも新入生とは思えぬ完成度だった。
「――っ!」
二年生の前衛が盾を展開する。
轟音と閃光が走り、砂煙が舞い上がった。
しかし。
「……なに、これ。」
盾を張った二年が息を呑む。
防ぎ切ったはずの魔力が、表面を撫でるように流れていき、じわりと身体に圧を残していた。
正面衝突ではない。押し付けるでもない。
まるで水面に石を落とし、波が自然に広がるような力のかかり方だった。
次の瞬間、ルーティアとリリシアが同時に踏み込んだ。
ルーティアの炎剣が赤薔薇のように開き、リリシアの風剣がその形を乱さぬまま押し返す。
剣戟は金属音をほとんど立てず、ただ空気の振動だけが観客を震わせた。
「互角……!」
「二年と一年で、ここまで拮抗するのか!」
見物の生徒がざわめく。
だがカイは違った。
眉間に深い皺を寄せ、額に手を当ててじっと見ていた。
(……やっぱりや。揺らぎがない。普通の術者ならどこかに“ノイズ”が走るんや。それが見えん。式が滑りすぎてる。)
リリシアは笑っていた。挑発でもなく、純粋な喜びの笑み。
ルーティアも口元を引き結び、必死に応じる。
「止め!」
カイの声が鋭く響く。
二人はぴたりと剣を止め、砂粒ひとつ乱れぬ静止で終わらせた。
「……お見事。」
カイは笛を口から外し、深く息を吐いた。
「一年も二年も、よう頑張った。けど、ここで終わりや。」
生徒たちは拍手を送り、模擬戦は幕を下ろした。
戦いを終えたリリシアがこちらを振り向いた。
額に汗を光らせ、それを気にもせずに微笑む。
「先生。どうでしたか、私の式は。」
「……きれいすぎる。」
ぽつりとこぼす。
「普通やったら、小さなざらつきが残るんやけどな。アンタのは……水鏡みたいや。」
リリシアは答えず、ただ微笑んで視線を逸らした。
その一瞬、紫紺の瞳の奥に、深く閉ざされた扉の影が見えた気がした。
「カイ!」
ルーティアが割って入り、腕にしがみつく。
「どうしてリリシアばかり褒めるの。私だって頑張ったのよ!」
「お、おう。もちろんや。ルーティアの炎も見事やったで。」
「見事、だけ?」
「えっと……満点……いや、点数つけんほうがええな!」
「最初からそう言いなさい!」
観客席からは笑いと拍手が起こり、模擬戦の熱気は柔らかい空気に変わっていった。
(……正体は何や。いや、今はまだ追及せんでええ。黒板の前に座っとる限り、うちの生徒や。それで十分やろ。)
カイは胸の内でそう結論を出し、吹き出す汗を拭った。
秋の空はどこまでも高く澄んでいた。
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