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第68話『陰謀の囁き』【魔族姫編⑧】
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秋が深まり、学園の空気も日に日に澄んでいった。
授業、演習、昼の笑い、夜の雑談。
クロス組はどこを切っても賑やかで、他のクラスの生徒からは羨望と嫉妬の入り交じった視線を向けられるようになっていた。
「クロス組ってほんま楽しそうやな。」
「楽しそう、だけじゃなくて……強すぎるんだよ。」
そんな声が、学園の廊下や食堂の隅で囁かれ始める。
そして、そこに小さな悪意が紛れ込んだ。
「聞いたか? あの一年の連中……人じゃないらしい。」
「人じゃない?」
「魔力の質が違いすぎるんだと。ほら、模擬戦のとき見ただろ?」
「じゃあ何だっていうんだよ。」
「――魔族、らしいぞ。」
◆◇◆
噂は最初は小さな種だった。
けれど、それは湿った土に落ちた種火のように、一夜にして芽を伸ばした。
「魔族なんてお伽噺だ」と鼻で笑う者もいたが、魔法の出来が段違いである事実が、その笑いをすぐに凍らせる。
「昨日の体術授業、見た? あれ、常識じゃ説明できないだろ。」
「先生の前だから大人しくしてるだけで、本当は危険なんじゃ……。」
「クロス組に近づかない方がいいかもな。」
囁きは、やがて避ける視線に変わり、一部の生徒の心に確かな距離を作った。
「カイ先生。」
放課後の廊下で、別のクラスの教師が声をかけてきた。
「一年のクロス組……あれは、いささか異常ではありませんか。教務会議でも話が出ています。あの力は、もはや……」
「異常ちゃう。元気や。」
カイはあっさりと言い切った。
「元気が度を超えてるだけや。けどな、それを抑えるんも伸ばすんも教師の仕事やろ。」
「……しかし、生徒たちから恐れられているのも事実です。」
「恐れは無知から来る。せやから“知らす”のが授業や。ワイが引き受ける。」
教師は口を開きかけたが、結局何も言わず、ため息を残して去っていった。
◆◇◆
その日の帰り道。
中庭の石畳を歩いていると、背後でひそひそ声がした。
「――やっぱりあいつだ。異邦人って噂、ほんとらしいぞ。」
「先生まで怪しいんじゃないのか。」
「クロス組は全部……」
わざと聞こえるように放たれる陰口。
ルーティアが振り返り、凛とした声で言い放った。
「くだらない。根拠もなく、陰でしか言えないなんて卑怯ですわ。」
その気迫に、陰口を叩いていた生徒たちは肩をすくめて逃げていった。
「……旦那様、気にしないで。」
ルーティアがこちらを振り返り、やわらかく笑う。
「あなたが先生でいてくれる限り、私は迷いません。」
カイは鼻の奥で小さく笑った。
「心強いな。けど、ほんまはワイのことよりお前らや。あの噂が一年に届いたらどうなるか。」
◆◇◆
翌朝。
案の定、一年の数人が不安そうに教室に集まっていた。
「先生……僕たち、何か悪いことしたんでしょうか。」
「悪いこと? なんでそう思うんや。」
「街で、“お前ら人じゃない”って……。」
「気にせんでええ。」
カイは腰を落とし、生徒たちと同じ目線に座り込む。
「誰が何を言うてもな、ワイにとっては黒板の前に座ってノート開いとるお前らが“生徒”や。それ以外の何者でもない。」
言葉は短い。けれど、生徒たちの肩から力が抜けていくのがはっきりと分かった。
「……先生。」
「はい、先生。」
その返事の響きは、昨日までの不安を洗い流すように澄んでいた。
(噂を流したやつがおる。偶然やない。……陰謀派閥の残り火か。)
カイは心の奥で、見えない相手の輪郭を睨む。
(けどな。クロス組は壊れん。ワイがそう決めとるからや。)
窓の外では、秋の雲が高く流れていた。
風は冷たさを増していたが、教室の中には揺るぎない熱が残っていた。
授業、演習、昼の笑い、夜の雑談。
クロス組はどこを切っても賑やかで、他のクラスの生徒からは羨望と嫉妬の入り交じった視線を向けられるようになっていた。
「クロス組ってほんま楽しそうやな。」
「楽しそう、だけじゃなくて……強すぎるんだよ。」
そんな声が、学園の廊下や食堂の隅で囁かれ始める。
そして、そこに小さな悪意が紛れ込んだ。
「聞いたか? あの一年の連中……人じゃないらしい。」
「人じゃない?」
「魔力の質が違いすぎるんだと。ほら、模擬戦のとき見ただろ?」
「じゃあ何だっていうんだよ。」
「――魔族、らしいぞ。」
◆◇◆
噂は最初は小さな種だった。
けれど、それは湿った土に落ちた種火のように、一夜にして芽を伸ばした。
「魔族なんてお伽噺だ」と鼻で笑う者もいたが、魔法の出来が段違いである事実が、その笑いをすぐに凍らせる。
「昨日の体術授業、見た? あれ、常識じゃ説明できないだろ。」
「先生の前だから大人しくしてるだけで、本当は危険なんじゃ……。」
「クロス組に近づかない方がいいかもな。」
囁きは、やがて避ける視線に変わり、一部の生徒の心に確かな距離を作った。
「カイ先生。」
放課後の廊下で、別のクラスの教師が声をかけてきた。
「一年のクロス組……あれは、いささか異常ではありませんか。教務会議でも話が出ています。あの力は、もはや……」
「異常ちゃう。元気や。」
カイはあっさりと言い切った。
「元気が度を超えてるだけや。けどな、それを抑えるんも伸ばすんも教師の仕事やろ。」
「……しかし、生徒たちから恐れられているのも事実です。」
「恐れは無知から来る。せやから“知らす”のが授業や。ワイが引き受ける。」
教師は口を開きかけたが、結局何も言わず、ため息を残して去っていった。
◆◇◆
その日の帰り道。
中庭の石畳を歩いていると、背後でひそひそ声がした。
「――やっぱりあいつだ。異邦人って噂、ほんとらしいぞ。」
「先生まで怪しいんじゃないのか。」
「クロス組は全部……」
わざと聞こえるように放たれる陰口。
ルーティアが振り返り、凛とした声で言い放った。
「くだらない。根拠もなく、陰でしか言えないなんて卑怯ですわ。」
その気迫に、陰口を叩いていた生徒たちは肩をすくめて逃げていった。
「……旦那様、気にしないで。」
ルーティアがこちらを振り返り、やわらかく笑う。
「あなたが先生でいてくれる限り、私は迷いません。」
カイは鼻の奥で小さく笑った。
「心強いな。けど、ほんまはワイのことよりお前らや。あの噂が一年に届いたらどうなるか。」
◆◇◆
翌朝。
案の定、一年の数人が不安そうに教室に集まっていた。
「先生……僕たち、何か悪いことしたんでしょうか。」
「悪いこと? なんでそう思うんや。」
「街で、“お前ら人じゃない”って……。」
「気にせんでええ。」
カイは腰を落とし、生徒たちと同じ目線に座り込む。
「誰が何を言うてもな、ワイにとっては黒板の前に座ってノート開いとるお前らが“生徒”や。それ以外の何者でもない。」
言葉は短い。けれど、生徒たちの肩から力が抜けていくのがはっきりと分かった。
「……先生。」
「はい、先生。」
その返事の響きは、昨日までの不安を洗い流すように澄んでいた。
(噂を流したやつがおる。偶然やない。……陰謀派閥の残り火か。)
カイは心の奥で、見えない相手の輪郭を睨む。
(けどな。クロス組は壊れん。ワイがそう決めとるからや。)
窓の外では、秋の雲が高く流れていた。
風は冷たさを増していたが、教室の中には揺るぎない熱が残っていた。
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