114 / 136
第113話『観測式・反転起動』【魔眼の徘徊者編⑬】
しおりを挟む
夜、湖畔の小聖堂にて。
新月前夜の空は、月光もなく、星すら雲に隠れていた。
それでも聖堂の内部は、幾何学式に従って編まれた魔導灯が天井を淡く照らしていた。
床には、カイとクロス組が描いた《観測反転陣》が広がっている。
複雑な曲線と角、流束と誤差丸め、等高式と干渉線。
そこには“見られる”ための陣ではなく、“見るため”の陣が刻まれていた。
術式の中心に立つカイは、理手の掌を床にかざした。
そこに、小さな白銀の光が灯る。
「ほな、始めるで。
“観測の向こう側”を見るための、目の合わせ合いや」
「はい、先生!」
クロス組全員が所定の位置に立ち、ツェイルとカサは遮蔽と視界制御の結界を展開。
リリシアは風の循環を整え、ルーティアは外縁の護衛として紅剣を抜いた。
「メリル、魔素投入口、流量一定で維持や」
「はい!“薄めのむずむず粉”から始めますっ」
「それはいらん!」
周囲に笑いが起こったが、それでも陣の中心の空気は、次第に張り詰めていく。
カイは一歩、前に出て、床に描いた数式を視線で追いながら言葉を紡いだ。
「“観測”ちゅうのは、ただ見るんやのうて、そこに“意味”を載せることや。
けどな、その“意味”を歪める目もある。
ワイらは今から、その歪んだ目に、理で睨み返したる」
掌をゆっくりと伏せる。
術式が起動する。
空気が震え、聖堂の内部がわずかに歪む。
目に見えない何かが、こちらを“見返している”。
◆◇◆
一方、遠く離れた異界の狭間。
漆黒の空間に、無数の“目”が浮かんでいた。
白銀の、歪な眼球。
すべてが一点――地上の“湖畔の聖堂”に向いている。
その“観測者”たちの中心。
ひときわ大きな“目”が、不快そうに震えた。
そして。
その“目”が、強制的に“見返された”。
白銀の視界に、理の式が侵入してくる。
侵蝕のような数式。
“こちらからの視線”。
『――干渉ッ!』
観測者の一体が悲鳴のように呟く。
『逆観測式!?』
『この世界の理で、こちらを……!?』
『干渉点、数十……いや、百超え!?』
『誰だ……この数式を操る者は……』
白銀の“目”たちが一斉にざわめいた。
◆◇◆
聖堂の中、カイは理手をゆっくりと開いた。
掌の面が光り、式が構造を伝って空間へと拡がっていく。
「反転式、干渉成功や」
「やったのか……」
リリシアの瞳が驚きに揺れ、ルーティアも手の剣をわずかに下げる。
だが、直後。
床に描かれた円の一部が、じわりと滲むように変質した。
侵入。
観測者のうち、ひとつがこちらへ“手”を伸ばしてきた。
黒い線。
それはまるで、空間そのものをなぞるペンのように、空中に軌跡を残して伸びてくる。
「くるで。
こっちの“目”を通して、奴らの“意志”が」
カイは理手を前に出し、術式を展開。
同時に、双子が飛び出す。
「兄者!」
「弟よ!」
「せやな!」
「反転護陣、せやな!」
彼らの剣が術式の縁を斬り、反転保護式を形成。
ツェイルがその影に紛れ、黒い線の接近方向を読み上げる。
「西端、斜め三時の方向。濃度、三段階上昇」
「捻って歪めて流せ!」
カイが叫び、ルーティアがそこに剣を突き立てた。
炎が走る。
反転式が黒線を打ち返す。
◆◇◆
短い沈黙の後、カイは息を吐いた。
「……観測者の“目”、一つを潰した」
「やったの!?」
「いや……“覗かれとる目”のうち、一つを潰しただけや。
本体は……まだ奥や。
けど、次は向こうも警戒するやろ。
次はもっと強く出てくる」
その言葉に、全員が静まりかえった。
そして、ルーティアがぽつりと言った。
「……でも、ロケットパンチよりはマシですわね」
「どの文脈でやねん!」
カイが突っ込むが、リリシアも頷いていた。
「私も、あれは流石に……飛びながら数式描くって、どういう感性なんですか」
「ええやろ! 夢のある発想や!」
「夢より現実を見てください」
「威力だけは本物だったわね……」
「ちょっと! 褒めてるのかディスってるのか分からへん!」
そんな掛け合いの裏で、リリシアはふと、手帳にメモを取っていた。
(観測者。
次の目。
“対話”の可能性……)
彼女は感じていた。
あの視線には、ただの敵意だけではなく、“何か”を探っている気配があった。
その“何か”が――もしかすれば、今後の鍵になるかもしれない。
新月前夜の空は、月光もなく、星すら雲に隠れていた。
それでも聖堂の内部は、幾何学式に従って編まれた魔導灯が天井を淡く照らしていた。
床には、カイとクロス組が描いた《観測反転陣》が広がっている。
複雑な曲線と角、流束と誤差丸め、等高式と干渉線。
そこには“見られる”ための陣ではなく、“見るため”の陣が刻まれていた。
術式の中心に立つカイは、理手の掌を床にかざした。
そこに、小さな白銀の光が灯る。
「ほな、始めるで。
“観測の向こう側”を見るための、目の合わせ合いや」
「はい、先生!」
クロス組全員が所定の位置に立ち、ツェイルとカサは遮蔽と視界制御の結界を展開。
リリシアは風の循環を整え、ルーティアは外縁の護衛として紅剣を抜いた。
「メリル、魔素投入口、流量一定で維持や」
「はい!“薄めのむずむず粉”から始めますっ」
「それはいらん!」
周囲に笑いが起こったが、それでも陣の中心の空気は、次第に張り詰めていく。
カイは一歩、前に出て、床に描いた数式を視線で追いながら言葉を紡いだ。
「“観測”ちゅうのは、ただ見るんやのうて、そこに“意味”を載せることや。
けどな、その“意味”を歪める目もある。
ワイらは今から、その歪んだ目に、理で睨み返したる」
掌をゆっくりと伏せる。
術式が起動する。
空気が震え、聖堂の内部がわずかに歪む。
目に見えない何かが、こちらを“見返している”。
◆◇◆
一方、遠く離れた異界の狭間。
漆黒の空間に、無数の“目”が浮かんでいた。
白銀の、歪な眼球。
すべてが一点――地上の“湖畔の聖堂”に向いている。
その“観測者”たちの中心。
ひときわ大きな“目”が、不快そうに震えた。
そして。
その“目”が、強制的に“見返された”。
白銀の視界に、理の式が侵入してくる。
侵蝕のような数式。
“こちらからの視線”。
『――干渉ッ!』
観測者の一体が悲鳴のように呟く。
『逆観測式!?』
『この世界の理で、こちらを……!?』
『干渉点、数十……いや、百超え!?』
『誰だ……この数式を操る者は……』
白銀の“目”たちが一斉にざわめいた。
◆◇◆
聖堂の中、カイは理手をゆっくりと開いた。
掌の面が光り、式が構造を伝って空間へと拡がっていく。
「反転式、干渉成功や」
「やったのか……」
リリシアの瞳が驚きに揺れ、ルーティアも手の剣をわずかに下げる。
だが、直後。
床に描かれた円の一部が、じわりと滲むように変質した。
侵入。
観測者のうち、ひとつがこちらへ“手”を伸ばしてきた。
黒い線。
それはまるで、空間そのものをなぞるペンのように、空中に軌跡を残して伸びてくる。
「くるで。
こっちの“目”を通して、奴らの“意志”が」
カイは理手を前に出し、術式を展開。
同時に、双子が飛び出す。
「兄者!」
「弟よ!」
「せやな!」
「反転護陣、せやな!」
彼らの剣が術式の縁を斬り、反転保護式を形成。
ツェイルがその影に紛れ、黒い線の接近方向を読み上げる。
「西端、斜め三時の方向。濃度、三段階上昇」
「捻って歪めて流せ!」
カイが叫び、ルーティアがそこに剣を突き立てた。
炎が走る。
反転式が黒線を打ち返す。
◆◇◆
短い沈黙の後、カイは息を吐いた。
「……観測者の“目”、一つを潰した」
「やったの!?」
「いや……“覗かれとる目”のうち、一つを潰しただけや。
本体は……まだ奥や。
けど、次は向こうも警戒するやろ。
次はもっと強く出てくる」
その言葉に、全員が静まりかえった。
そして、ルーティアがぽつりと言った。
「……でも、ロケットパンチよりはマシですわね」
「どの文脈でやねん!」
カイが突っ込むが、リリシアも頷いていた。
「私も、あれは流石に……飛びながら数式描くって、どういう感性なんですか」
「ええやろ! 夢のある発想や!」
「夢より現実を見てください」
「威力だけは本物だったわね……」
「ちょっと! 褒めてるのかディスってるのか分からへん!」
そんな掛け合いの裏で、リリシアはふと、手帳にメモを取っていた。
(観測者。
次の目。
“対話”の可能性……)
彼女は感じていた。
あの視線には、ただの敵意だけではなく、“何か”を探っている気配があった。
その“何か”が――もしかすれば、今後の鍵になるかもしれない。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる