悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo

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第130話『約束と指輪』最終回

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 魔界に朝はない。

 だが、塔の上から見える空がわずかに薄明るくなったそのとき、魔王城のあちこちに灯された魔晶灯がふっと静かに消えていった。

 それが、旅立ちの刻を告げる合図だった。

◆◇◆

 正門前には、カイとルーティア、リリシア、そして護衛の魔族19名が整列していた。
 城を包む空気は柔らかく、どこか晴れやかな緊張感が漂っている。

 その中、魔王がゆっくりと姿を現した。

 威風堂々たる黒の装束に、肩には金糸の刺繍。
 普段よりもどこか……“父親”の顔をしていた。

 魔王はまず、静かにカイの前へと立つ。
 そして、まっすぐに見つめる。

「……カイ・クロス。教師として、娘のそばに立ち続けてくれたこと、礼を言う」

 カイは少し驚いた表情を浮かべ、それでも真っ直ぐ頷いた。

「こちらこそ、リリシアのような生徒に出会えたこと、感謝してます」

 魔王の眼差しが、ほんのわずかだけ緩む。
 そのまま懐から、小さな銀の指輪を取り出した。

 装飾は控えめ。
 だが、石の中心には淡い紫の光が宿っている。

「これは、リリシアの母が遺したものだ。
 ……婿殿に、つけてもらえ」

「ぶ……婿……どの……!?」

 ルーティアとカイが、声を揃えて叫んだ。

 リリシアの手にそっと指輪が渡される。
 その指先が微かに震えているのを、カイは見逃さなかった。

「ま、待って、ちょっと、話が……」

「これ、つけてください……」

 リリシアが顔を赤くしながら、指輪を差し出そうとした瞬間、

「ちょっと待ったぁああ!!」

 ルーティアが勢いよく間に割って入る。

「第二婦人って言ったじゃないですか! 順番ってものがあります!」

 リリシアは首を傾げて、

「別に、順番とかどうでも良くないですか?」

「良くなくてよ!!」

「えぇ~~……」

 カイは両手をあげて後ずさり、わたわたしながら走り出した。
 そして、叫ぶ。

「とりあえず! 二人とも! もうちょっと落ち着こう!? 話し合おう!? な!?」

◆◇◆

 すぐさま、護衛の18人が一斉に動いた。

「先生~~~っ! どこへ行かれるのですか~~~!」

「指輪を拒否するということは、我らの姫を捨てるということと同義!!」

「追え! 追うのです!」

 嵐のような追走劇が始まった。
 塔の外階段を必死に駆け下りるカイ、その後を全力で追いかける19人、そしてその後ろを――

「待ってください、旦那様~!」

「ちょっと、リリシア! あなたのせいでごちゃごちゃになってますのよ!!」

 ルーティアとリリシアが仲良く(?)追いかけていく。

 その様子を、残った魔王はただ静かに見送る。
 ふと、傍らにいたツェイルが言った。

「……お許しを。王よ、本当にあの男を“婿”と?」

「“婿”ではなく、“婿殿”だ」

 魔王は、静かに笑っていた。

「面白かろう? 娘を笑わせる男なら、王にもなれる」

◆◇◆

 塔の下。

 花壇の前で息を切らしながら捕まったカイが、うなだれていた。
 両手はそれぞれ、恋人繋ぎ。
 左にリリシア、右にルーティア。

「もう、どっちが第一婦人とか、そういう話は……」

 カイが言いかけたとき、ルーティアがふと思い出したように言った。

「じゃあ、戻ったらまずは私が挙式をあげますわ。
 リリシアはその次ね」

「え、順番……」

「……だったら」

 リリシアが控えめに口を開く。

「三人で一緒に、挙式しちゃえばいいじゃないですか?」

「えぇっ!?」
 
「他の女が出てくる前に、私たちで決めちゃえばいいと思うんですよ。
 ……もう、逃がしませんから」

 ルーティアがしばし考えた末に、ふっと笑って、

「――それも、そうね」

 カイは真っ赤な顔のまま、振り返って全力で走り出した。

「いやもう! 頼むから待ってくれぇぇぇぇ!!」

「待ってぇ~~旦那様~~!」

「早いですわよ、足がっ!」

 その後を、楽しげに追いかけていく二人の少女。

 空は、何故か明るくなっていた。
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