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番外編④:藁人形の森
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夜の神社は、
昼とは別の顔を持つ。
音が、
少ない。
虫の声。
風に揺れる木々。
遠くの車の走行音。
それらが、
境内の外側で止まり、
中までは、
あまり入ってこない。
五寸釘零子は、
提灯をひとつ手に、
境内の奥へ向かっていた。
(……見回り、ですねぇ)
誰に言うでもなく、
心の中で呟く。
◆
藁人形の森。
神社の敷地の、
ほんの一角。
だが、
結界の内側にあるため、
普通の人の目には映らない。
見えたとしても、
違和感として、
意識の外へ押し出される。
零子が足を踏み入れると、
空気が、
わずかに重くなる。
森の木々には、
無数の藁人形。
胸。
腹。
背中。
五寸釘で、
打ち留められている。
「……こんばんはぁ」
零子は、
小さく声をかけた。
返事はない。
だが、
沈黙ではない。
ここには、
声にならなかった思いが、
まだ、
残っている。
(……今日は、
静かですねぇ)
零子は、
一体ずつ、
藁人形を見ていく。
◆
ある藁人形は、
釘が、
深く打ち込まれている。
(……これは、
成就しましたねぇ)
呪いが、
役目を果たし、
外へ流れたもの。
もう、
ここには、
執着がない。
別の藁人形。
釘は、
途中で止まっている。
(……途中、
やめましたかぁ)
打とうとして、
やめた。
それは、
呪いよりも、
重い決断だ。
零子は、
その藁人形に、
そっと手を合わせた。
さらに奥。
釘が、
一本も打たれていない藁人形。
森の中でも、
一番影が濃い場所。
(……最初の、
子ですねぇ)
それは、
零子が、
初めて打たなかった藁人形。
呪いに、
ならなかった思い。
零子は、
提灯を置き、
その前に座った。
(……あの人、
どうしてますかぁ)
答えは、
返らない。
だが、
それでいい。
◆
藁人形たちは、
誰かを恨むために、
ここにあるわけではない。
選ばれなかった思いを、
一度、
置いておく場所だ。
(……居場所、
ですねぇ)
零子は、
小さく息を吐いた。
風が、
森を抜ける。
藁が、
わずかに擦れる音。
それは、
悲鳴でも、
嘆きでもない。
ただ、
存在している音。
「……ここは」
零子は、
静かに言った。
「出口じゃ、
ありません」
「でも……」
「溜まり場にも、
しません」
それが、
この森の役割。
零子は、
立ち上がり、
最後に、
全体を見渡した。
ここにある呪いは、
もう、
誰も呼ばない。
呼ばれなければ、
育たない。
(……大丈夫)
それは、
藁人形に向けた言葉であり、
自分自身に向けた言葉でもあった。
◆
森を出ると、
空気が、
少し軽くなる。
提灯の灯りが、
揺れる。
零子は、
境内を振り返らず、
社務所へ戻った。
藁人形の森は、
今日も、
誰にも見られない。
だが。
選ばれなかった思いを、
確かに、
抱えている。
それで、
十分だった。
昼とは別の顔を持つ。
音が、
少ない。
虫の声。
風に揺れる木々。
遠くの車の走行音。
それらが、
境内の外側で止まり、
中までは、
あまり入ってこない。
五寸釘零子は、
提灯をひとつ手に、
境内の奥へ向かっていた。
(……見回り、ですねぇ)
誰に言うでもなく、
心の中で呟く。
◆
藁人形の森。
神社の敷地の、
ほんの一角。
だが、
結界の内側にあるため、
普通の人の目には映らない。
見えたとしても、
違和感として、
意識の外へ押し出される。
零子が足を踏み入れると、
空気が、
わずかに重くなる。
森の木々には、
無数の藁人形。
胸。
腹。
背中。
五寸釘で、
打ち留められている。
「……こんばんはぁ」
零子は、
小さく声をかけた。
返事はない。
だが、
沈黙ではない。
ここには、
声にならなかった思いが、
まだ、
残っている。
(……今日は、
静かですねぇ)
零子は、
一体ずつ、
藁人形を見ていく。
◆
ある藁人形は、
釘が、
深く打ち込まれている。
(……これは、
成就しましたねぇ)
呪いが、
役目を果たし、
外へ流れたもの。
もう、
ここには、
執着がない。
別の藁人形。
釘は、
途中で止まっている。
(……途中、
やめましたかぁ)
打とうとして、
やめた。
それは、
呪いよりも、
重い決断だ。
零子は、
その藁人形に、
そっと手を合わせた。
さらに奥。
釘が、
一本も打たれていない藁人形。
森の中でも、
一番影が濃い場所。
(……最初の、
子ですねぇ)
それは、
零子が、
初めて打たなかった藁人形。
呪いに、
ならなかった思い。
零子は、
提灯を置き、
その前に座った。
(……あの人、
どうしてますかぁ)
答えは、
返らない。
だが、
それでいい。
◆
藁人形たちは、
誰かを恨むために、
ここにあるわけではない。
選ばれなかった思いを、
一度、
置いておく場所だ。
(……居場所、
ですねぇ)
零子は、
小さく息を吐いた。
風が、
森を抜ける。
藁が、
わずかに擦れる音。
それは、
悲鳴でも、
嘆きでもない。
ただ、
存在している音。
「……ここは」
零子は、
静かに言った。
「出口じゃ、
ありません」
「でも……」
「溜まり場にも、
しません」
それが、
この森の役割。
零子は、
立ち上がり、
最後に、
全体を見渡した。
ここにある呪いは、
もう、
誰も呼ばない。
呼ばれなければ、
育たない。
(……大丈夫)
それは、
藁人形に向けた言葉であり、
自分自身に向けた言葉でもあった。
◆
森を出ると、
空気が、
少し軽くなる。
提灯の灯りが、
揺れる。
零子は、
境内を振り返らず、
社務所へ戻った。
藁人形の森は、
今日も、
誰にも見られない。
だが。
選ばれなかった思いを、
確かに、
抱えている。
それで、
十分だった。
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