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本編

変な呼び方

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「ジュウジンって、獣人か!!!」

 ゲームで出てきたことがあるのを思い出した。「獣」の「人」、で獣人。
 動物と人が合わさったような生き物だ。

 狼だったその男子は、ほとんど俺と同じ人間だった。
 でも、耳は本来あるべきところにはなく、頭に髪と同じ銀色の耳があった。
 尻からはふさふさとした尻尾が生えている。
 少しキツめの目といい、空色の瞳といい、首輪の黒い飾りといい、間違いなくさっきの狼と同一人物だろう。

(人間がしてるのは首輪じゃないか……銀色の首のベルト? チョーカー?)

 信じられないことだけど、声も全く一緒だしな。
 俺の大きな声を聞いた狼男子は、不愉快そうに口をへの字に曲げて腕を組んだ。

「なんだ、知ってんじゃねぇか。知らないなんて嘘つきやがって」
「嘘はついてない! 思い出しただけだ。見るのも初めてなんだ!」

 慌てて訂正する。嘘つき呼ばわりはごめんだ。

「ふーん」

 狼男子はしゃがんで俺と目を合わせながら、腑に落ちないような声を出す。
 見るのは初めてどころか、実在しないはずなんだけど。
 夢だから仕方ない。

(夢にしては、なんか痛みとかくすぐったいのとかリアルすぎな気がするけど…)

 あんまり深く考えると、怖くなりそうだ。
 取り合えず今は、夢だと信じてこのファンタジックな世界を楽しもう。

「俺さ、なんでこの場所にいるのか、ここがどこなのかとか、なーんにも分からないんだ。」
「頭でも打ったのかお前」

 呆れ返ったように、狼男子は俺の頭を人差し指でつっついた。
 まぁそりゃ、そういう反応になるよな。
 もう少し心配そうにしてくれても良いんじゃないかとは思うけど。

「そうじゃなくて。いや、そうかもしれないんだけど」
「はっきりしろよ」

 そんなこと言われても、俺にだって何が何だか分からないんだから仕方ない。
 でも今、この狼男子に置いてかれたら、路頭に迷ってしまいそうなことだけは確かだ。

 俺は拝むように両手のひらを合わせて、必死に頭を下げた。

「と、とにかく! 自分が誰かしか分からないんだ!色々教えてくれよ! 頼むこの通りだ!」
「……変なヤツ拾っちまった……」
「そう言わずに!」

 完全にドン引き顔になってしまった狼男子に、俺は更に畳み掛ける。
 逆の立場なら、こんな不審者には絶対に関わりたくないと思うけど。

 置いていこうとしても追いかけてやる、という気合が伝わったのだろうか。
 狼男子はジッと俺を見つめて悩んだ後、頭をボリボリ掻いて諦めたようなため息を吐いた。

「ったく、しゃーねぇな。とりあえず村に移動すんぞ。こんなとこ居たらまたドラゴンに襲われるかもしれないからな」

 一緒に連れて行ってくれるらしい!
 俺は狼男子の手を両手で握りしめ、声を弾ませた。

「ありがとう狼男子!」
「なんだその変な呼び方は!」

 強い口調でつっこまれた上に、手を振り払われてしまった。
 確かに俺も「人間男子」って呼ばれたら「何だそれ!」ってなるもんな。

「じゃあ、名前教えてくれよ」

 そう伝えてから、「相手に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀」とよく聞く台詞が頭を過ぎる。
 俺は慌てて自分を指差した。

「俺は望月歩夢、11歳だ!」
「クロドゥルフ。12歳だからオレのが年上だな」

 いや、俺だってあと1週間で12歳だし同い年だよ。
と、言いたいところだけどそれどころじゃない。
 なんだか難しい発音の名前だ。

「クロヂュ……?クロな!よろしく頼む!!」
「いきなり略してんじゃねぇ!」

 狼男子改めクロは尻尾を逆立てて怒鳴ってくる。
 さっきからずっと怒ってるけど疲れないのか。

「そんな怒るなってー!呼びにくい発音なんだよ!」
「1回で諦めんじゃねぇよ!」

 クロの言うことはもっともだ。
 でも、もうクロって呼び方が俺は気に入ってしまった。
 髪は銀だし目は銀だし肌は白いし、服も焦げ茶色だから「黒」要素は全然無いけど。

「チッ。もういい行くぞ」
 舌打ちされた。
 立ち上がって歩き出してしまったクロの後ろを、俺は早足で追いかけた。

「あ!じゃあ俺のことはモッチーかアユでいいから!」
「じゃあってなんだ!」

 本当にずっと怒ってるな。

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