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本編

照れてる

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 狼獣人のクロは分かる。
 牙も爪も鋭くて、足も速いし気も強いし強そうだ。
 でも、兎獣人のハンナやヤギ獣人の村長が強いイメージはあまりないなぁ。
 獣化しても、あまり戦いに向いてなさそうだ。

「魔法が使えなくても、魔法道具があるから困らないんだけどね? この村のみんなは必要最低限の魔法しか使えないし知らないのよ」
「そうなのか」

 肩を竦めるハンナを見ていると、俺と同じく魔法に興味があるのが分かる。
 使ってみたいよな、便利そうだしカッコいいしカッコいいし何よりカッコいい。

「アユムとハンナは魔法に興味がお有りですのね? わたくしでよろしければ、教えて差し上げます」

 マリーはとても空気を読むのが上手いみたいだ。
 優しい言葉に、俺とハンナは示し合わせたかのように万歳した。

「やったー! ありがとう!」
「嬉しいわ!」

 ハンナがマリーの腰に勢いよく抱きつく。
 長い耳がぴくぴくと動いていて興奮が伝わってきた。

「この村にはお世話になってますもの。お安い御用ですわ」
(俺はこの村とはほぼ無関係だなんて言えない……)

 マリーがハンナの頭を撫でるのを眺めながら、俺は一人で遠い目をした。
 そして、丁度その時。

「何やってんだテメェら」

 2つの人影が森から出てくる。
 王都に行っていたクロと、大きな斧を背負ったアクストが並んで帰ってきたんだ。

 クロがアクストと2人でいるなんて初めてのことだ。
 ついつい不思議に思って2人を見比べてしまう。
 俺の様子に気が付いたアクストが、何も言わなくても説明してくれた。

「森の見回りをしていたら、帰ってくるクロくんに偶然会いまして。折角だからお話でもと」
「クロドゥルフだ」
「この通り、まだ仲良くはなれていません」

 冷たい声で呼び方を訂正するクロの態度に、アクストは面白そうに肩を震わせた。

 アクストは18歳で大人だけど、背が低いせいで俺たちと年が近く見える。
 だからどう見ても大人のフィーバやマリーよりも親しみやすいと俺は思うのに、クロは3人の誰にも心を開かなかった。

「アユムくんは愛称で呼んでるじゃないですか」
「アユはうまく発言出来ねぇから略してるだけだ」
「まぁ。ではクロドゥルフはアユムときちんと発音出来ないんですの?」
「うるせぇ」

 マリーが少しかがんで、揶揄うようにクロの肩を突っつく。
 クロは手で指を振り払いながら舌打ちした。

 そんなクロらしいやり取りを見て、ハンナにまにまと口元に手を当てている。
 クロは眉を寄せてハンナを睨んだ。

「なんだよ」
「ううん、やっぱりクロドゥルフ楽しそうって」

 可愛らしく弾む声を聞いたクロは、口をへの字に曲げてしまう。

「意味わかんねぇ。おい、行くぞ」
「あ、待てよクロ!」

 皆に背を向けたクロは、乱暴な足取りで家ではない方へ向かう。
 銀の毛並みの尻尾が落ち着かなげに動いているから、

(もしかして、照れてるのかな)

 って後ろを追いかけながら思った俺であった。
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