63 / 133
シャーロット編
We
しおりを挟む
ランスロットの剣戟は弾かれた。
「…!」
この男は何者だ。今まで誰にも押し負けた事などない私の剣を弾くものが、この時代にいたと言うのか。
「ふっ…!」
ノーマンは剣を振る。ランスロットの腕が飛んだ。
「む……」
空中で腕は繋ぎ直される。
すかさず繰り出された反撃を、ノーマンはあっさりとかわした。
「なるほど…ならば手加減は無しだ。」
アロンダイトの魔力が放出される。
「…ケインくん。」
魔力を貯めた一瞬の隙
ケインが懐に潜り込んだ。
ランスロットの肋骨が半壊する。
「ふー…あぶねー。」
ランスロットは未だ倒れる気配がない。
「何度も言うけど、僕は一度読み取った魔道具しか再現できない。…死霊に有効な魔道具とか今の時代ないからね。だから有効打はあくまで君だ、良いね?」
ケインは何も言わず、ただ一度頷いただけだった。
「流石にプレッシャーがデカいね。…行こう。」
二人はそれぞれ左右に分かれ、ランスロットを挟み込んだ。
「………」
物言わぬランスロットの脳裏には、身に覚えのない記憶が巡っていた。
あのエルフの女、何処かで…いや、どうでも良いだろう、そんな事は。今はただ戦うのみ。
「さあて…3体のドラゴン狩りか…しんどいね。」
クレアはため息をつく。
「良いですよ、僕もあれから色々改良したんだ。アレが通じればいけますよ。」
レドは銃をしまうと、腰についた装置を握りしめる。
「はあ…はあ…私は1人で倒す前提か?まあ良いだろう、やってやろうじゃないか。」
花織は刀を強く握る。
「2度と人など信じはせぬ。2度と誰とも分かりあわぬ。滅びろ、人間ども!!」
ドラゴンはそれぞれ攻撃を開始する。花織の剣戟をあっさりとかわすと、あらゆる鉱石を上回る強度の鱗を飛ばす。
速度は音速を超え、数は50以上。とても弾けるものではない。
花織の剣は砕け散った。
ヘルガの身体中から血が流れ出る。
クレアの防御壁はもはや意味をなさない。
「あの大言壮語は何処へ行った?人間よ。」
「………」
ヘルガは沈黙を貫く。
「運が悪かったな。我が名はテュポン。最強と言われた竜だ。あの頃よりは弱いがな。……貴様はその程度で勝てるとでも思ったのか?どこまで人間は我々を侮辱する!」
かつてわかり合った唯一の人間、ドラゴンクロウ。しかし最後には、奴らは私を裏切った。
「同胞を殺される痛みがわかるか?信じたものに裏切られる痛みがわかるか?のうのうと生きてきた貴様らにわかるものか!!!!」
テュポンの魔力が周囲を破壊していく。
「これは…先月のStage6.メルディベールのアレに匹敵する…!まずいよヘルガ氏……!君じゃどう考えても…」
「……」
それでも彼女は歩みを止めない。
血を流し、平衡感覚などとうに失っている。
「……だからなんだ、と言う話です。私は間違っていることは間違っているとしか基本的に考えられないんですよ。幾らテロリストに情を誘うような報道がされても、全くもってそれが理解できなかった。客観性というかなんと言うか、そう言うところが欠けてるんだと思います。
だからせめて私は、勧善懲悪に徹しようと思った訳です。理不尽な暴力には正義の建前を持って接するし、多分死刑囚の死刑執行のボタンは躊躇いなく押します。だけど今言ったように、別に正義を持ってやってる訳じゃない。ただ単に真っ当な人間でいたいだけなんですよ、私は。」
「何が言いたいんだ貴様はあ!」
「ああ、結論を先に言わないのは無能の証明、と言う奴ですよね。ごめんなさい。私はこの性質に反して、それを貫くだけの力がなかった。誰かを捌こうとしても、それに備わる力が無かったんです。実際貴方と私では力の差がありすぎる…。
だからこそ編み出したんです、この魔法を。」
ヘルガは魔力を身に纏う。
背中に5輪の輪が形成される。
『魔法陣…?いや違う、魔力がまるで放たれていない。』
テュポンは防御を固めた。
しかし、その警戒ももはや意味を為さない。
既に決着はついているのだから。
「これから行うのは窮鼠が猫を噛むような行為じゃない…不条理をもって不条理を壊す、そう言う一つの不条理ですよ。
……大胆不敵な見えざる手。これを私はそう名づけました。」
彼女が話し終えた頃には、テュポンの体は崩壊していた。
「な…ぜ…?!」
「相手自分より強ければ強いほど、こちらが放つ魔力攻撃が強くなる、それだけですよ。逆に私の方が強ければ私に跳ね返ってきて自滅しますが。…1ヶ月に1度なんですよ?これ。」
テュポンは地面に打ち付けられる。
「…貴様あ!」
体を再生させ、ヘルガを睨みつけた。
「この魔能力が一回だけ…そう思っているようですが、残念ながら『対象が死ぬまで』続きますよ。」
光が瞬く。
やはり攻撃の軌道が読めない。
いや、そもそも読むことが不可能な魔能力なのだ。
「ぐぅぅぅぅ…!」
ヘルガの放った魔法攻撃は、テュポンの体を理不尽に貫く。
「………!」
ヴァイオレットは、奴はどうなっている?彼の脳裏に、ふとそんな考えが浮かぶ。
後方の城の中、2人は戦いながら、会話していた。
ギルバートがいつああなったのか、それは大体察しがつくだろう。奴が救助活動に参加しなくなってからだ。
元々どこか納得しきれなかった、彼の無意識の隔たり。それが孤立によってあらわになってしまった。
『妾はそれに気づいておった。じゃが奴は何度もそれを誤魔化してな、結局ある日まで分かりあうことができなかった。』
ある日?ある日というのはいつだろうか。
『誰にも言っておらぬからの、今見せよう。』
ある日の救助活動、無事に終えたと思っていた。
だが
「フランソワ……ヴァレスティナ…何故…?」
幼い頃からの眷属二人が、無惨な姿で発見されたのだ。周囲の探索を命じてからしばらく戻ってこなかった。
それで探した結果がこれだ。
妾の近くに2人が居たことは殆どの者の目についていたはず。だが村人は助けられた事も忘れ、一方的な都合で2人を殺したのだ。蝿が既に集り始めているその体から、定着した魔力が放たれる。
「………!ああああああ!」
その時だった。妾の魔法が覚醒したのは。
その場に定着した魔力を読み取り、眷属として顕現させる。単純だが、契約の手順をパスした、実質的に無限の戦力を生み出す事も可能な魔法。だが同時に、それらの記憶の全てを読み取ってしまう。脳内に2人の記憶が逆流し、激しい頭痛が襲う。その惨状をその身に焼き付けることになったのだ。
『お前の目に映っていた2人。奴らの中身はとうに空じゃった。何せ不死者から不死者は生み出せんからの。』
何も答えられない。
どうして今の今まで理解できなかったのだろう。ギルバートの、ヴァイオレットの心情を。
俺は今まで味わって来たじゃないか。なんのために戦ったんだ。なんのために救ってきたんだ。
なんと情けない、ふざけるな。こんな生き方、誰も望んでなどいなかった。俺も、彼女も、あの人も。誰にも望まれず、誰にも認められず、誰のためにも戦わない。
なんと無価値な600年だ。
「ありがとうー!」
「この国も安泰だ!」
「マリアナ様ー!」
国民の歓声。それが2人には受け入れられなかった、
『出て行け!』
『この国の害虫が!』
『早くそいつを殺せー!』
連中の称賛は、2人にとっては罵詈雑言に他ならない。
今更掌を返して称賛する都合のいい民衆、それがどうしても許せなかった。
「貴様の計画は失敗だよ、マリアナ。」
「……そう、なのね。」
彼女に動揺は無かった。
「ごめんなさい…本当に。私の力不足よ。もう一度…チャンスを貰えないかしら?」
「できるものか、そんな事が。」
マリアナの腹部に刃が刺さる。
だが、それでも彼女は歩みを止めなかった。ジリジリとヴァイオレットから距離を詰めていく。
「……!」
途端に彼女を恐怖が襲った。
どうして、ここまで。もはや狂気と言っていい。
「ギルバート…なのね。もう一人いるんでしょう?」
尚も交渉を辞めない。
「っ……!」
気づけばその場から逃げ出していた。
わかり合おうとする事を、皮肉にも彼女は放棄してしまったのだ。
ギルバートは松明を持って村へと赴いた。
自分を迫害した村。ちょうどそこの近隣まで来ていた。
今がチャンスだった。彼の心は無色に染まっている。
「……」
炎は、油をかけた家に次々と燃え移っていく。
「………」
悶え苦しむ村人の声。
脱出した村人を、淡々と彼は殺していく。
「ははっ!」
虚しい。
「はははははは!」
虚しい。
「………」
虚しい、虚しい、虚しい。
復讐とはこんなに簡単だったのか
復讐とはここまで空虚なものだったのか。
もう辞めよう。面倒くさい。
ギルバートは生き残った者を放置し、村の外へと足を運んだ。
「助けて…」
少女の声が聞こえる。
「……?」
振り向いた先にいたのは、あの時魔族から救った少女だった。成長していたが分かる。確かに彼女だ。
「何故ここに…」
そうか、魔族に滅ぼされた村の生き残りは、他の所にたらい回しにされていくと聞く。そう言うことなのか。
「ギルバートさん…」
彼女は涙を流していた。
「………ごめん、本当に。」
「謝りたかったの、貴方に。」
ギルバートは顔を上げる。
「お母さん…貴方の事を悪く言ってた…だけど…ずっと貴方は辛そうで…悲しそうで…とてもそうは思えなかったの。お母さんが死んでからずっと考えてた…私の事を貴方が許してくれるのかって…」
ギルバートは少女を抱きしめた。
ああ、なんて事を。僕はなんて事をしてしまったんだ。
分かり合える人が居たのに。ここに居たというのに。
だけど、もう止められない。希望に縋っちゃいけないんだ。
放棄したからには、その道を歩まなければならない。
「…森の奥に逃げて。」
ギルバートは少女を突き放し、森の方を指差した。
「大丈夫、僕は必ず戻ってくるよ。」
少女は彼の前から去っていく。
そしてその直後、シャーロットが彼の視界に映る。
ああ、彼女は僕をどう思うんだろう。
怒るだろうか、悲しむだろうか、憐れむだろうか。
「ああ……なんだったんだろうなあ、僕の人生。」
一生僕は悪役で良い。うん、彼女が生きていられれば、それで良いのだ。
ギルバートは、涙を拭った。
「…!」
この男は何者だ。今まで誰にも押し負けた事などない私の剣を弾くものが、この時代にいたと言うのか。
「ふっ…!」
ノーマンは剣を振る。ランスロットの腕が飛んだ。
「む……」
空中で腕は繋ぎ直される。
すかさず繰り出された反撃を、ノーマンはあっさりとかわした。
「なるほど…ならば手加減は無しだ。」
アロンダイトの魔力が放出される。
「…ケインくん。」
魔力を貯めた一瞬の隙
ケインが懐に潜り込んだ。
ランスロットの肋骨が半壊する。
「ふー…あぶねー。」
ランスロットは未だ倒れる気配がない。
「何度も言うけど、僕は一度読み取った魔道具しか再現できない。…死霊に有効な魔道具とか今の時代ないからね。だから有効打はあくまで君だ、良いね?」
ケインは何も言わず、ただ一度頷いただけだった。
「流石にプレッシャーがデカいね。…行こう。」
二人はそれぞれ左右に分かれ、ランスロットを挟み込んだ。
「………」
物言わぬランスロットの脳裏には、身に覚えのない記憶が巡っていた。
あのエルフの女、何処かで…いや、どうでも良いだろう、そんな事は。今はただ戦うのみ。
「さあて…3体のドラゴン狩りか…しんどいね。」
クレアはため息をつく。
「良いですよ、僕もあれから色々改良したんだ。アレが通じればいけますよ。」
レドは銃をしまうと、腰についた装置を握りしめる。
「はあ…はあ…私は1人で倒す前提か?まあ良いだろう、やってやろうじゃないか。」
花織は刀を強く握る。
「2度と人など信じはせぬ。2度と誰とも分かりあわぬ。滅びろ、人間ども!!」
ドラゴンはそれぞれ攻撃を開始する。花織の剣戟をあっさりとかわすと、あらゆる鉱石を上回る強度の鱗を飛ばす。
速度は音速を超え、数は50以上。とても弾けるものではない。
花織の剣は砕け散った。
ヘルガの身体中から血が流れ出る。
クレアの防御壁はもはや意味をなさない。
「あの大言壮語は何処へ行った?人間よ。」
「………」
ヘルガは沈黙を貫く。
「運が悪かったな。我が名はテュポン。最強と言われた竜だ。あの頃よりは弱いがな。……貴様はその程度で勝てるとでも思ったのか?どこまで人間は我々を侮辱する!」
かつてわかり合った唯一の人間、ドラゴンクロウ。しかし最後には、奴らは私を裏切った。
「同胞を殺される痛みがわかるか?信じたものに裏切られる痛みがわかるか?のうのうと生きてきた貴様らにわかるものか!!!!」
テュポンの魔力が周囲を破壊していく。
「これは…先月のStage6.メルディベールのアレに匹敵する…!まずいよヘルガ氏……!君じゃどう考えても…」
「……」
それでも彼女は歩みを止めない。
血を流し、平衡感覚などとうに失っている。
「……だからなんだ、と言う話です。私は間違っていることは間違っているとしか基本的に考えられないんですよ。幾らテロリストに情を誘うような報道がされても、全くもってそれが理解できなかった。客観性というかなんと言うか、そう言うところが欠けてるんだと思います。
だからせめて私は、勧善懲悪に徹しようと思った訳です。理不尽な暴力には正義の建前を持って接するし、多分死刑囚の死刑執行のボタンは躊躇いなく押します。だけど今言ったように、別に正義を持ってやってる訳じゃない。ただ単に真っ当な人間でいたいだけなんですよ、私は。」
「何が言いたいんだ貴様はあ!」
「ああ、結論を先に言わないのは無能の証明、と言う奴ですよね。ごめんなさい。私はこの性質に反して、それを貫くだけの力がなかった。誰かを捌こうとしても、それに備わる力が無かったんです。実際貴方と私では力の差がありすぎる…。
だからこそ編み出したんです、この魔法を。」
ヘルガは魔力を身に纏う。
背中に5輪の輪が形成される。
『魔法陣…?いや違う、魔力がまるで放たれていない。』
テュポンは防御を固めた。
しかし、その警戒ももはや意味を為さない。
既に決着はついているのだから。
「これから行うのは窮鼠が猫を噛むような行為じゃない…不条理をもって不条理を壊す、そう言う一つの不条理ですよ。
……大胆不敵な見えざる手。これを私はそう名づけました。」
彼女が話し終えた頃には、テュポンの体は崩壊していた。
「な…ぜ…?!」
「相手自分より強ければ強いほど、こちらが放つ魔力攻撃が強くなる、それだけですよ。逆に私の方が強ければ私に跳ね返ってきて自滅しますが。…1ヶ月に1度なんですよ?これ。」
テュポンは地面に打ち付けられる。
「…貴様あ!」
体を再生させ、ヘルガを睨みつけた。
「この魔能力が一回だけ…そう思っているようですが、残念ながら『対象が死ぬまで』続きますよ。」
光が瞬く。
やはり攻撃の軌道が読めない。
いや、そもそも読むことが不可能な魔能力なのだ。
「ぐぅぅぅぅ…!」
ヘルガの放った魔法攻撃は、テュポンの体を理不尽に貫く。
「………!」
ヴァイオレットは、奴はどうなっている?彼の脳裏に、ふとそんな考えが浮かぶ。
後方の城の中、2人は戦いながら、会話していた。
ギルバートがいつああなったのか、それは大体察しがつくだろう。奴が救助活動に参加しなくなってからだ。
元々どこか納得しきれなかった、彼の無意識の隔たり。それが孤立によってあらわになってしまった。
『妾はそれに気づいておった。じゃが奴は何度もそれを誤魔化してな、結局ある日まで分かりあうことができなかった。』
ある日?ある日というのはいつだろうか。
『誰にも言っておらぬからの、今見せよう。』
ある日の救助活動、無事に終えたと思っていた。
だが
「フランソワ……ヴァレスティナ…何故…?」
幼い頃からの眷属二人が、無惨な姿で発見されたのだ。周囲の探索を命じてからしばらく戻ってこなかった。
それで探した結果がこれだ。
妾の近くに2人が居たことは殆どの者の目についていたはず。だが村人は助けられた事も忘れ、一方的な都合で2人を殺したのだ。蝿が既に集り始めているその体から、定着した魔力が放たれる。
「………!ああああああ!」
その時だった。妾の魔法が覚醒したのは。
その場に定着した魔力を読み取り、眷属として顕現させる。単純だが、契約の手順をパスした、実質的に無限の戦力を生み出す事も可能な魔法。だが同時に、それらの記憶の全てを読み取ってしまう。脳内に2人の記憶が逆流し、激しい頭痛が襲う。その惨状をその身に焼き付けることになったのだ。
『お前の目に映っていた2人。奴らの中身はとうに空じゃった。何せ不死者から不死者は生み出せんからの。』
何も答えられない。
どうして今の今まで理解できなかったのだろう。ギルバートの、ヴァイオレットの心情を。
俺は今まで味わって来たじゃないか。なんのために戦ったんだ。なんのために救ってきたんだ。
なんと情けない、ふざけるな。こんな生き方、誰も望んでなどいなかった。俺も、彼女も、あの人も。誰にも望まれず、誰にも認められず、誰のためにも戦わない。
なんと無価値な600年だ。
「ありがとうー!」
「この国も安泰だ!」
「マリアナ様ー!」
国民の歓声。それが2人には受け入れられなかった、
『出て行け!』
『この国の害虫が!』
『早くそいつを殺せー!』
連中の称賛は、2人にとっては罵詈雑言に他ならない。
今更掌を返して称賛する都合のいい民衆、それがどうしても許せなかった。
「貴様の計画は失敗だよ、マリアナ。」
「……そう、なのね。」
彼女に動揺は無かった。
「ごめんなさい…本当に。私の力不足よ。もう一度…チャンスを貰えないかしら?」
「できるものか、そんな事が。」
マリアナの腹部に刃が刺さる。
だが、それでも彼女は歩みを止めなかった。ジリジリとヴァイオレットから距離を詰めていく。
「……!」
途端に彼女を恐怖が襲った。
どうして、ここまで。もはや狂気と言っていい。
「ギルバート…なのね。もう一人いるんでしょう?」
尚も交渉を辞めない。
「っ……!」
気づけばその場から逃げ出していた。
わかり合おうとする事を、皮肉にも彼女は放棄してしまったのだ。
ギルバートは松明を持って村へと赴いた。
自分を迫害した村。ちょうどそこの近隣まで来ていた。
今がチャンスだった。彼の心は無色に染まっている。
「……」
炎は、油をかけた家に次々と燃え移っていく。
「………」
悶え苦しむ村人の声。
脱出した村人を、淡々と彼は殺していく。
「ははっ!」
虚しい。
「はははははは!」
虚しい。
「………」
虚しい、虚しい、虚しい。
復讐とはこんなに簡単だったのか
復讐とはここまで空虚なものだったのか。
もう辞めよう。面倒くさい。
ギルバートは生き残った者を放置し、村の外へと足を運んだ。
「助けて…」
少女の声が聞こえる。
「……?」
振り向いた先にいたのは、あの時魔族から救った少女だった。成長していたが分かる。確かに彼女だ。
「何故ここに…」
そうか、魔族に滅ぼされた村の生き残りは、他の所にたらい回しにされていくと聞く。そう言うことなのか。
「ギルバートさん…」
彼女は涙を流していた。
「………ごめん、本当に。」
「謝りたかったの、貴方に。」
ギルバートは顔を上げる。
「お母さん…貴方の事を悪く言ってた…だけど…ずっと貴方は辛そうで…悲しそうで…とてもそうは思えなかったの。お母さんが死んでからずっと考えてた…私の事を貴方が許してくれるのかって…」
ギルバートは少女を抱きしめた。
ああ、なんて事を。僕はなんて事をしてしまったんだ。
分かり合える人が居たのに。ここに居たというのに。
だけど、もう止められない。希望に縋っちゃいけないんだ。
放棄したからには、その道を歩まなければならない。
「…森の奥に逃げて。」
ギルバートは少女を突き放し、森の方を指差した。
「大丈夫、僕は必ず戻ってくるよ。」
少女は彼の前から去っていく。
そしてその直後、シャーロットが彼の視界に映る。
ああ、彼女は僕をどう思うんだろう。
怒るだろうか、悲しむだろうか、憐れむだろうか。
「ああ……なんだったんだろうなあ、僕の人生。」
一生僕は悪役で良い。うん、彼女が生きていられれば、それで良いのだ。
ギルバートは、涙を拭った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる