Heavens Gate

酸性元素

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地獄編

洛陽②

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「まーたベクターの機械いじりだぜ?」
「飽きねーよなあ、あいつ。」
僕にとっての周囲の人間は、単なる陰口でしか無かった。
幼い頃から魔装兵器に興味を示していた僕は、魔装機関師の祖父のところで、日夜問わずに機械いじりに興じていた。
祖父が死に、機関師の免許を取ろうが、それは変わらなかった。認めてもらえなくても、褒めてもらえなくても、そんなのどうでも良かった。本当にそうだったんだ。君に出会うまでは。
「………」
村の大きな木。子供達の溜まり場となっているその場所は、その日は珍しく人っ気が無かった。ただ1人を除いては。
木陰に、1人の女性が座り込んでいたのだ。
一目惚れだった。とても綺麗な彼女に、僕は一眼で惚れ込んでいた。
「こんにちは。貴方もなんですか?」
「え?!あ、え、いや…その………風車を作ろうかなーってなってそれで作る高さの参考のためにこの木のところに…」
しまった、明らかに緊張している。早口で何を言ってるか聞き取れないだろう。
「フウシャ…?なんですか、それ。」
「え?知らないの?風車ですよ?」
「教えてくださらない?ね?」
急に顔を近づけられ、僕は思わず後ずさった。
「あ…はい。風車っていうのは…風をこうやって受け止めて…その動きを利用してですね…」
僕はなるべく丁寧に説明する。
「へぇ……物知りなんですね。」
「い、いや…僕なんかただの機械バカって言うか…」
「ねえ、教えてくださらない?また他の話。」
興味津々な顔で彼女は言う。
そして僕は流されるように、その提案を承諾してしまった。
それから、彼女…マリーに僕の機械の知識を話すのが日課になった。周囲からの目線なんか気にならなかった。初めてだったんだ。誰かに僕を見てほしいなんて思ったのは。彼女の笑った顔が好きだった。その為だったらなんでもできたんだ。聞くに彼女は都会の金持ちの家出身らしく、どこか浮世離れしたのもそのためらしい。

彼女の為に、色々作るようになった。今まで役立たずだと言われていた僕は、以降村で認められるようになっていった。
だけど、全部がおかしくなったのはそこからだった。
「………」
マリーはその日、泥だらけで現れた。
「ねえ…それどうし…」
「良いの、大丈夫。」
何かがおかしい、と思った。この時何かしていれば、きっとああはならなかったんだろう。
「ねぇ……マリーはどこに行ったか知らない?」
父に聞く。
「マリー…?ああ、あの都市から来た家族の娘か。聞いたぞ。その娘とよく会っているらしいな。良いか、今後一歳近寄るんじゃないぞ。」
「え?」
嫌な予感がした。彼女の家へと僕は走る。
そこに広がっていた光景は、まさしく地獄だった。
村中のゴミがぶちまけられた屋敷。そこら中には落書きが塗りたくられている。
「なんで……」
うちの村は相当な田舎。故に古くからの習慣が根付いていた。
「父さん!どう言うことだよ!なんであんな事…!」
僕は父につかみ掛かった。だが、屈強な父の前には敵わず、そのまま地面に押さえつけられた。
「お前を部屋から出す訳にはいかん。」
そう言って、父は僕を部屋に閉じ込めた。
淡々と刺し出される食事、ジメジメと湿つく空間。全てが苦痛だった。どうにかして…どうにかして出なければ…!
すると、どこからか声が聞こえて来た。
「ここまでする必要…ないんじゃあないですか?」
母の声だ。
「森の開発に賛成なんぞするからだ。」
父の声もする。
何が起きたって言うんだ。答えを知るために、僕は後日、行動に移した。
食事が差し出される時、扉が一瞬開く。そのタイミングを見計らい……僕は母に突撃し、部屋から脱出した。

「はあ…はあ!マリー!」
たどり着いた屋敷は、もはや限界がなかった。真っ黒に染まったそれは、黒い炭の塊にしか見えない。
しまっていた扉を蹴破り、中に入る。
すると、そこには
首吊り死体が転がっていた。
「あ…あああ……!」
胃液を思いっきり吐き出す。
死体には蝿がたかり、ウジが湧いている。その殆どが腐敗し切っているようだった。
マリーは、マリーは何処にいるんだ。
2階へと駆け上がる。
「マリー!」
彼女は、痩せこけた様子でベッドに座り込んでいた。
まさか、あの死体は……
「なんで……」
まさか何日もの間、このままだったと言うのか。
生きてはいる。生きてはいるが……。
父と母の会話を思い出した。
まさか、あいつらのせいで。
あいつらのせいで…………!
気づけば行動に移していた。
父と母の頭を後ろからナタで切り付ける。
2人の脳が飛び出ても、不思議と動揺することはなかった。
そこからは単純な作業。女、子供、ありとあらゆるものを、僕の魔装兵器で殺していく。血飛沫、悲鳴。それら全ては最早陰口ですらない。五月蝿い鳥の鳴き声でしか無かった。

「…マリー、やったよ。」
そう彼女に言っても、何も答えない。
それから、必死で彼女を介抱した。もう一度笑ってくれるように。
「私ね…学校で虐められてたの。それでここに来たの。」
「……」
「でも結局…叶わなかったね。何処に行っても救いなんてない。」
「大丈夫。僕がいるから。」
何度も何度も励ました。だけど、次第に僕の中で、一つの考えが浮かぶようになった。
彼女は虐められてここに来た。そしてそれはここでも同じだった。彼女を救うには、社会そのものを壊すしかないんじゃないのか?と。何処に行っても救いがない。なら、新しく救いを作るしかないじゃないか。
そしてある日のこと、彼女はベッドにいなかった。
「まさか……!」
屋敷の屋上へと駆け上がる。
そこには、彼女がいた。
「マリー!戻ってくるんだ!」
「ベクター…ごめんね。」
そうして彼女は飛び降りた。
「ああああああああ!」
叫んだところで何も残らない。あるのは虚しい自分だけ。
結局僕は、彼女を笑わせることができなかった。
「そうだ……そうだ!僕は…社会を怖そう!君を甦らせよう!そうすれば…そうすればきっと….笑ってくれる!はははは!」
それから、僕の数十年に及ぶ計画が始まった。から技術を仕入れ、セリアム国内にてテロを起こした。
村の一件は、ジャニスによって消されたので、どこの資料にも残っていない。
きっと、もう少しで君は笑ってくれる。僕の前で笑ってくれる。
あれ、そう言えば、なんで君は死ぬ間際に謝ったんだっけ。
ああ、そうか。君が謝ったのは、僕に対してじゃない。
なんだ。

シャーロットに襲いかかるはずだったベクターの半身は崩れ去り、魔力が漏出した彼は地面へと落下した。
地面に叩きつけられたベクターは天を眺めた。
「ははは……ダメだなあ…僕は。ダメだなあ。」
「お前の勝ちだよ、ベクター。」
シャーロットはベクターの前に立つ。
「俺はお前の計画を止められなかった。お前の計画を完了できるギリギリの魔力が既に送られちまった。」
「そうか……だがどうでも良い。気づいてしまった。彼女を死なせたのは僕だ。」
「おい、いい加減にしろよ。」
ベクターの胸ぐらをシャーロットは掴んだ。
「?!」
「お前がやった事だろうが!自分の信念くらい最後まで通せ!何があろうと、なんだろうとな!じゃなきゃいつか壊れちまう!」
「そうか……そうか。では、私は私なりに見届けよう。」
「そうかよ……。あばよ、ベクター。俺にここまでやったのはお前が初めてだぜ。」
「……」
シャーロットはベクターから手を離すと、去っていく。フッとベクターは笑う。意味がなくても、間違っていても、やり遂げる。なんだ、今まで僕がやってきた事じゃないか。マリー、君はそんな僕が好きだったのかな。消えゆく体の中、彼は考える。考えたところで意味はなかった。
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