INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh

文字の大きさ
112 / 293
第3章 死者の都

黄泉へ 2

しおりを挟む
「ったく!ゲイは構わんけど!相手は選べっつーの!あいにくこっちはノン気だっつーの!」急ぎシャワーを浴びるティムは、インストラクターに触られたあたりをじっと見つめた。

LGBTはすっかり市民権を得た時代である。自分も彼らに理解は持っているつもりだ。だが、その趣向を持ち合わせない自分が、いざ対象とされれば、理性では割り切れない感覚が込み上げてくる。インストラクターの指導は的確で、コーチとしては申し分なかった。いわゆる「オネエ」様的口調や時折見せるナヨナヨした仕草も別段気にもとめていなかったのだ。最近、露骨な態度を示されるまでは……

「ジム……変えっかなあ……」ボヤきながら着替えを終え、更衣室を出る。気持ちを切り替えジムの玄関へ向かおうとした矢先、何かが横から勢いよく突っ込んできた。

「きゃあ!!」ちょうどインストラクターに撫でられた左腕の中ほどに強烈な一撃を加えたその者は、反動で尻餅をついていた。へそ周りが空き、腰にコイン状の装飾をぶら下げたオリエンタル風の衣装、ベリーダンスクラスの会員だということは一目でわかる。……が、レッスンでこんなフル装備をしているのも珍しい。

「っつぅ~~もぅなんなの!」ぶつかってきた女性客は打った尻をさすりながら、よろよろと立ち上がる。

「大丈夫ですかっ……て!オマっ!!」

「げっ、ティム!?」外れたベールから覗くその顔は、よく見知ったサニだった。

「な……なんであんたここに居んのよ!?」「なんでって、ここ、オレ通ってるジムだし。それよか、緊急集合だぞ!」

「だから急いでんでしょ!あんたがそんなとこつっ立ってるから!……あーヤバい!もう、これ着替えんの大変なのよぉ~~!」

そこへサニの連れらしき、女性客が二人、追ってくる。

「サニちゃん、ゴメンね、付き合わせちゃって!」「衣装、脱いだらそのままでいいってよ!……あっ?……ティムさん」面識はないが二人はティムを知ってるようだ。

ティムの顔を見るなり恥ずかし気にもじもじと俯く。二人ともサニよりもだいぶ簡素な衣装を身につけている。

「いいよ、二人とも楽しんでって!じゃ、アタシ、急ぐから!!」スカートを膝上までたくし上げ、サニは更衣室へと走る。「ティム!二人に変なことしたら許さんからね!」「はぁ?」サニの捨て台詞にティムが顔をしかめる間に、サニは更衣室へと姿を消した。

「アレ……何?」ティムは呆然となって、サニの連れに問いかける。「あたし達、体験で来たんですけど、先生がスジがいいからって……」
「せっかくだから衣装も着てみる?って言われて……そしたらサニちゃん……次から次へと……」「あっ……そう、そゆこと」

……上手いこと乗せられたってわけね……

ふと壁の時計を見ると集合指定時間まで20分足らず。今急いで出れば何とかギリギリ間に合う計算だ。

「やっべ、アイツ完全アウトじゃん!お二人さん、アイツを待っててやりたいとこだが、生憎、オレはすぐ行かなきゃならん……」神妙な面持ちで、二人の肩に手を添えると、囁くように語りかける。「……すまんが、アイツの着替え、手伝ってやってくれ」二人の目を交互にじっと見つめると、「頼んだよ」と目を細めて念を押す。頬を紅潮させた二人は伏せ目がちに「はい」と返すと、連れ立って更衣室へと駆けて行った。

「やれやれ」少なくとも彼女達には、「黙ってサニを置き去りにした薄情者」の烙印は押される心配はないだろう。後顧の憂いを絶ったティムは、足速にジムを出ると、二輪の愛車に跨がりIN-PSIDを目指す。


自動ドアを抜けると、そこは四畳半ほどの小さなブリーフィングルームだった。直人は、IMSに指示されるまま、<イワクラ>に備え付けられたインナーノーツ予備ユニフォームに着替えると、この部屋に通された。予備ユニフォームは、インナーノーツの他4人分も常備されており、ユニフォームに必要なパーソナルデータも本部のサーバーと常にリンクし、常時アップデートしてある、との説明を受けた。インナーミッションに臨むにあたり、予備ユニフォームによる支障はないとのお墨付きだ。

この部屋の奥に、今は硬く閉ざされているスライドドアがある。この先には<アマテラス>がインナースペースから一時寄港するコネクションポートがある。
脇の小窓からは、PSI精製水で満たされたポート内部が窺えた。

何度か接続訓練はしたものの、実際のミッションで使用するのは今回初めてだ。ぼんやりそのドアを眺めていると、呼び出しのコールが鳴る。

直人がブリーフィングルームのモニターを立ち上げると、藤川が画面に現れた。

「ユニフォームの具合はどうだ?」「特に何も……いつもと変わらないです」直人は淡々と返事を返す。

「うむ……直人」「は……はい」

藤川はモニターにぐっと顔を近づける。

「行って……くれるな?」藤川には心の奥をいつも見透かされている。そんな気がする。

「……オレには……あのフネに乗る資格は無いのかもしれない……でも……」

「……あのフネしか……オレには無いんです」

「……そうか」直人の言葉を瞑目して受け止めた藤川は、それ以上、何も語りかけようとはしなかった。直人にはそれで十分だった。

「IMCとのコンタクト、準備できてます!モニターに出しますよ」オペレーターが藤川に呼びかける。藤川の了承を得ると、オペレーターは、早速、IMCからの通信映像をモニターに出す。<イワクラ>ブリッジ、IMC、直人の居るブリーフィングルームの三箇所が一つのモニターに表示された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...