ヴィーナスリング

ノドカ

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5章 新型パペット

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 次の日も朝から皆が揃い有意義な訓練が出来たが、やはり僕だけは不甲斐ない戦いを続けていた。
 大会は2週間後、団体戦と個人戦が行なわれる。
 今回は大会の中学生の部、全国大会の予選も兼ねているから出場数もかなりのものになる。僕らの地区は大きな研究所もあることからこの町で行われることが多いが、珍しく、ちょっと離れた地方都市で行なわれることになった。
 普段遠征をすることがないので、我がチームは女子を中心に浮き足立っていた。
 「こらこら、パペット戦は遊びじゃないんでしょ? しっかり準備をしないと一回戦負けなんてこともあり得るんだから」 
 担任の新先生はそんな僕らの気持ちを引き締めてくれている、が、虎之介だけはまったく聞く気がなく、会場の近くのグルメスポットとか名所を歩きまわる順番を今からシミュレートしていた。
 「虎、まじで一回戦負けはかんべんしてくれよ。もう準備はいいのか? 」
 「当たり前よ。俺らのコンビならどんなやつだってちょちょいのちょい! 楽勝! 」
 「楽勝? なわけないでしょ? 私にも勝てないのにぃ」
 小町は虎之介のガッツポーズをはたくと、そのまま棺桶の中に連れて行ってしまった......

 「虎だけじゃないでしょ? 冬弥も準備出来てるの? 攻撃力アップできてないとあんただってあっという間じゃない、まったく。ライラ、正直どうなの? なんとかなりそう? 」
 「そうですね。美咲の言うこともよく分かります。ただ、私はあくまでもアドバイスをする側ですから、冬弥の自主性におまかせしてます」
 「はぁ......いい? 冬弥。推薦受けたかったら少なくとも全国にいかないとお話になんないわよ? 個人戦は私達も出るけど手を抜くつもりは無いからね」
 「わかってるって。まったく、美咲は心配しすぎなんだよ。そんなにガツガツやってるとシワが増えるよ」
 「な! なにをいってるの、私のぴちぴちの顔に、し、シワなんてないわよ。ねえ、ヤン! 」
 「ああ、問題ない、いつものきれいな顔をしているよ」
 ヤンは大げさに両手を広げて呆れていたが、こちらを見る視線は鋭いものがあった。
 「早くなんとかしろ」

 たしかにその通り。僕とライラのコンビは能力的には問題ないが、アタッカーとして前に出るか、後ろからスナイパーとして戦闘するか、はたまたステルスで臨機応変に戦うのか......戦闘スタイルを決めかねているのでライラも力を出せずにいるのだ。

 前に出るなら美咲や小町のように格闘戦のトレーニングをしなくちゃいけないし、スナイパーとして戦うなら経験が少ないから沙織にでも弟子入りしなくちゃいけない。ステルスで対応するなら小型ドローンの操縦、そして一撃必殺の格闘術を使えないとまずい。
 「冬弥は個人戦向きじゃないからなあ。俺らを手足としてこき使う戦略しかやってきてないんだし。この際、個人戦を捨てて団体一本にするってのはどうだ? うちには猪娘がいるし、後ろは沙織が守ってる。俺は遊撃でうろちょろして敵を惑わす。いいじゃないか」
 「あのなあ、それだと推薦の時にパペット戦で勝てないじゃないか。パペット戦での成績もかなり考慮されるって言うし、やっぱり個人戦をなんとかしないと......」
 「そうかぁ? 先輩から聞いてみたけど、一人や二人は毎年いるらしいぞ? 戦闘はできないが指示がうまくて合格する奴。まあ、現場で知らないメンバーにいきなり指令を出せないといけないわけだけど、パペット戦は絶対戦わないといけないルールはないからさ」
 「そりゃ、そうだけど、パペット戦で司令官役が2人いたらどうするんだよ? じゃんけんらしいじゃない? 負けたらパペット戦だぞ? やっぱり個人戦もやれないと......」
 「へえ。そりゃ知らなかった、わりぃ。でも、重要なのはその場で俺にやらせろ!っていう意思表示かもしれないぞ。メンバーの命預かる指令役になるんだから、それくらいの覚悟がないとなあ。でも、覚悟とか冬弥には一番似合わないな」

 僕は何もいいかえせなかった。沙織が「そんなことないよ! 」と励ましてはくれたが、確かに僕は覚悟があるわけじゃない......

 朝練が終わり、授業もそつなくこなしたが、授業の中身は頭にはいってこず、戦闘スタイルを決めるため、戦闘シミュレーションばかりしていた。ただ、どの武装にしたとしても美咲たちにはまったく勝てないのだ。ライラが時折思考に入ってきてシミュレーションに付き合ってくれたけど、ドツボにはまってライラにもまったく勝てなくなった。
 「ぅぅぅ......」
 「冬弥、気を落とさず、いろいろと考え過ぎなんですよ。冬弥の能力を数字だけで見れば美咲たちと同等の戦闘力があるんです。ただ、それを活かすも殺すも本人の気持ち次第です。
 あの能力を使う必要はないんですから、もっと気楽に、そう! パペット戦を楽しんではどうでしょうか? 」
 「ライラ、そうなんだけど、ここにきて僕だけまったく戦闘がうまくいかない。さすがに楽しむ余裕はないよ」
 「もう、仕方ありませんね。わかりました。タイミングは早いのですが、放課後、お祖父様の研究所に行きましょう。先日、お祖父様から冬弥に渡したいものがあると言われていました。本当なら戦闘スタイルを決めた後に来るようにと言われていたのですが、あまり余裕もないので今日行きましょう」
 「ライラぁ、あんまり行く気がしないんだけど? この間の件もあるし。別に今日じゃなくてもいいんじゃない? 攻撃スタイル決めるだけで頭がいっぱいだよ」
 「どのみち決められないでしょう? 気分転換も必要ですよ。いいですね。放課後ですよ。お祖父様には私から連絡します」
 「わかったよ。ライラ。それにしてもお前、どんどん性格がきつくなっていくんだけど? それも成長なの? 」

 ライラは何も答えずにやっと笑っただけだった。


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