勇者の不可分

陽生 光輝3話 再会

気づくと、自分は地球に戻っていた。だが、そんな実感を抱く間もなく、目の前に現れた魔物たちとの戦闘が始まり、次々と襲いかかる異常事態に追い詰められていった。
ここにはいるはずのない魔物たち、一体何がどうなっているのか、頭の中で混乱が渦巻く。だが、戦闘によって逆に冷静さを取り戻すことができた。

「ふぅ……一体なにがどうなっているんだ…… 」

「そもそもここは地球のどこなんだ？日本ではあるようだが……。」

荒い息を整えながら、光輝は呟く。自分がどこにいるのかさえ定かではないが、周囲を見渡すと、確かにここは地球の風景であり、その中でも見覚えのある日本の街並みが広がっていた。
しかし、その街は異様に静まり返り、人の気配が全く感じられない。魔物が跋扈しているためか、あるいは何か他の理由があるのか、閑散とした街の風景が不気味さを際立たせている。

「早くニサの元に戻らないと……。」

不安と疑問が入り混じる中、光輝は自分の置かれている状況を理解しようと懸命に思考を巡らせた。だが、今自分がすべきことは、まず現状を把握することだと考え、かつての仲間たちの顔が浮かんだ。

「日本なら勁亮（けいすけ）と りあ莉愛（りあ）がいるはずだ、彼らなら何か知っているかもしれない。」

勁亮と莉愛、彼らの名を口にした瞬間、光輝の胸にかすかな希望が灯った。二人と再会できれば、きっとこの混乱の中にある何かを見つけ出すことができるはずだ。光輝はその希望を胸に、再び足を動かし始めたその刹那―――。

「―――ッッ！！」 「これは……ニサのッ！！！」

まさにその瞬間、光輝は肌に感じるほどの微かな波動を捉えた。それは紛れもなくニサの魔力であった。記憶の中で何度も感じたそのエネルギーに、光輝の心臓は一気に高鳴った。距離は遠くない――すぐにでも辿り着ける場所だと直感で感じ取った。

「レゼクッ！」「無事でいてくれ！！」

魔力は少ないが、先ほど吸収した光球の影響で多少は回復している。光輝は再び身体に魔力を巡らせ、筋肉を活性化させた。その瞬間、彼の身体は再び青白い光を放ち、瞬間的な加速力を得た。
心の中でニサの安否を祈りながら、光輝はその場所へと駆け出した。数分後、光輝はニサの魔力を感知した地点に到着した。

「―――なッ！！」

しかし、そこに広がっていたのは、想像を絶する光景だった。周囲には無数の魔物が暴れ回り、建物は無残にも崩れ落ち、炎が勢いよく燃え広がっていた。焼け焦げた破片が舞い上がり、煙が空を覆い尽くしている。
目を背けたくなるような光景が広がり、すでにこと切れている人々の姿が視界に飛び込んできた。生々しい死の光景が広がり、町全体が地獄絵図のようだった。

「……酷い。」

光輝はその場に立ち尽くし、あまりの惨劇に一瞬虚無感にも似た感覚が走る。
目の前の光景が信じられない現実のように、心が冷たく固まっていく―――しかし、その刹那、光輝の中に怒りと悔しさが広がり、渦巻いていく。心臓が激しく鼓動し、全身に熱が広がった。

「こいつら……好き勝手暴れやがってッ！！」

怒りが光輝を突き動かし、彼は拳を固く握りしめた。産後まもないとはいえ、ニサも一緒に戦った仲間だ。そう簡単にやられるはずはない。光輝はそう信じ、焦る気持ちを抑えた。
まだ希望があると信じる心が彼を動かす。助けを求める人もどこかにいるかもしれない。自分がここで立ち止まっているわけにはいかないと、光輝は強く心に刻む。

「大丈夫だ……いけるッ！」

光輝は短く息を吐き、冷静さを取り戻す。魔力は限られているが、確認できる限りの魔物の種類や数を即座に見極め、今の自分ならレゼクによる身体強化で十分に対処可能だと判断する。

「一瞬で終わらせてやるッ！！」

その瞬間、光輝が動き出そうとした時、微かに声が聞こえた。彼の耳に届いたその声は、戦闘の喧騒の中でも確かに響いた。

「今のは……！？」

光輝は耳を澄ませ、周囲の音に集中する。すると、再びその声が聞こえてきた。これはただの幻聴ではない――光輝はその方向へと足を向ける。

「―――あれはッ！？」

視界の先には、中学生くらいの男の子が見えた。彼は倒壊した建物の前に立ち、懸命にその背後を守ろうとしていた。その姿は、まるで身を挺して何かを守っているかのようだった。

「クソッッ！！あっちいけッ！！！」

少年の声が響き渡る。目の前の危機に立ち向かう彼の姿は勇敢だが、その背後には恐怖が滲んでいた。倒壊した建物の中からは、さらに別の声が聞こえてくる。

「明瑠（ある）……！！もういいから……逃げて！！」

建物の中にいる少女の声が少年の名を呼び、必死に彼に逃げるよう訴えている。光輝は状況を把握、危機的状況ではあるが一瞬の安堵ののち、彼らを守るために走り出す。