勇者の不可分

たりきん

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夏目 晴斗3話 残念すぎる

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「行ったことがない場所か……」 

晴斗は少し頭をひねった。そもそも「行ったことがない場所」というのは、具体的にどう定義すればいいのだろうか?思い出せる限りでは、大学構内は自分の職場であり、毎日歩き回っている場所だ。

「んー、ここは全部『行ったことがある』判定になるのか?」 

職場である以上、大学構内は行ったことがある場所だ。しかし、細かく言うならば自分が担当している建物以外にはあまり入ったことがない。
だが、建物の外観や内部を知っている以上、完全に「行ったことがない場所」と言い切れるわけでもない。

「他の建物の屋上はどうだろう?」

 晴斗はふと思いついた。確かに、他の建物の屋上には行ったことがないし、見たこともない。大学構内全体では行ったことがある範囲だが、屋上のピンポイントで考えると、それはまた別の話だ。

「フォールドゲート」 すでに聞き飽きるくらいに唱えた言葉を再び唱えた。目の前の空間が歪み始める。期待を胸に、晴斗は一歩前へ踏み出した。しかし、次の瞬間、目の前に広がっていたのは、見慣れた自分のデスクだった。

「あぁ……ダメかぁ……」

 晴斗は思わずため息をついた。どうやら、ピンポイントで行ったことがある場所でなければならないらしい。だとすれば、「行ったことがある場所」の定義はなんだろうか?

「逆に行ったことがある判定って、どういう基準になるんだ?」

日常的に通う場所でも、細かいところまですべて覚えているわけではない。ましてや、普段行かない場所ならなおさらだ。

例えば、普段行かない屋上ならどうだろう?基本鍵が閉まっているので開けた時以外はノブチェックをする程度でわざわざ屋上に出ることはほとんど無い。

頭の中でその場所を思い浮かべてみる。「フォールドゲート」 再び唱えるが、目の前の光景は何も変わらなかった。
「あら、だめか」 どうやら、一度行った場所でも、その場所を細かくイメージできなければならないらしい。

「となると、行ける場所なんて限られてくるよな……」

 晴斗は頭を抱えた。今行けるであろう場所を考えてみると、家、実家、職場、通勤に使う道ぐらいしか思いつかない。

「うーん、グーグルアースや写真はどうなんだろう?」

 ふと考えが浮かぶが、グーグルアースで映っている場所は人がいる可能性が高い。移動できても、見つかるリスクがある。

「とりあえず、屋上の写真を撮って試してみるか」

晴斗は携帯で適当に何枚か写真を撮り、それを見ながら再度チャレンジしてみる。
「フォールドゲート」 再び空間が歪む。今度は成功した。晴斗はその場に立ち尽くし、驚きと興奮が混じった表情を浮かべた。

「おっ!行けた!」 どうやら、明確にイメージすることが重要で、写真や映像がその補助となることもあるらしい。

「でも、ここまで分かったはいいけど、微妙に使い道がないなぁ」 

晴斗は首をかしげた。人に見つからないことを前提にすると、職場から家に戻るときくらいしか使い道が思いつかない。確実に人がいない場所や時間が分かれば便利だが、現実はそう甘くはない。

「清掃が出勤早すぎるんだよ……」 

最初は屋上が良いと思ったが、周囲に高い建物があり、丸見えになってしまう可能性が高い。さらに、扉には鍵が掛かっているため、結局別の場所に移動しなければならない。
屋上がダメならトイレと考えたが結局人がいたら使えない……。

「こりゃ無理だな……」 
晴斗は天井を見上げ、期待外れの結果に落胆するしかなかった。
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