勇者の不可分

たりきん

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鬼彰 勁亮6話 変わりゆく姿に隠せぬ絆

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「なんだよ、黙ってちゃ分かんねーだろ」

勁亮はイラつきを隠せずに問いかけた。勁亮たちは、ただでさえ素性をあまり知られたくないにも関わらず、目の前の男はなぜか自分の名前を知っている。それだけでなく、やけに馴れ馴れしい態度だ。さらに、こちらの質問にすぐに答えるでもなく、ただ黙っている。勁亮の警戒心は一気に高まった。

その様子を見た中年の男性は、にやりと笑みを浮かべながら一歩近づいてきた。

「なんだよ、俺のことを忘れちまったのか?」

冗談めかした言い方だが、その言葉にはどこか懐かしさと期待が込められていた。勁亮と莉愛は顔を見合わせ、じっとその男性を見つめた。彼の表情には、何かしらの記憶を呼び起こすような雰囲気があるが、2人はすぐには思い出せなかった。

「えっと……どこかでお会いしましたっけ?」

莉愛は慎重に問いかける。中年男性は少し寂しげな笑みを浮かべたが、それを隠すように陽気に笑った。

「まぁ、そんな反応も無理ないか。俺も随分と姿が変わっちまったからな」

その言葉に、勁亮の眉間にはさらにしわが寄った。姿が変わった?確かにどこか懐かしい感じがするが、全く見覚えのない人物だ。

その微妙な空気に耐えきれず、晴斗が焦った様子で割り込んできた。

「あ、えっと、こちらForeSight Securityの代表、真取快和です。お知り合い……ですか?」

「真取?知り合いにそんなヤツいないぞ」

「私も……知らないかも」

「あ、あれ?」

勁亮も莉愛も首をかしげた。真取という名前に聞き覚えはなかった。晴斗は、2人の反応を見てさらに焦り出し、小声で真取に状況を打開するよう促した。

「ちょ、真取さん、どういうことですか!?なんとかしてくださいよ!」

真取は笑いながら晴斗の肩を軽く叩き、落ち着かせるように言った。

「あっはっは、大丈夫だよ晴斗。2人は俺の戦友だからさ」

「戦友?」

その言葉に、勁亮はさらに眉をひそめた。地球で勁亮のことを戦友という言葉で呼ぶ知り合いはいない。となると、思い当たるのは異世界ムアルヘオラ。しかし、この中年男性には全く見覚えがない。だが、どこか懐かしさを感じるのも事実で、勁亮は困惑を深めていた。

「あっ!……え!?……いやぁ~さすがに……」

突然、莉愛が何かに気づいたように大きな声を上げたが、すぐに言葉を飲み込んだ。

「気づいたのはやっぱり莉愛か、だからお前はモテないんだぞ、勁亮」

「んな!かんけーねーだろ!」

勁亮は顔を真っ赤にして真取に食ってかかる。それを見て、真取は呆れながらもどこか嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「てか誰だよ、このオッサン!気づいたなら教えろよ!」

勁亮は莉愛に強く問い詰めた。だが、莉愛は戸惑った様子で、晴斗の方をチラッと見た後、小さな声で答えた。

「ニサの……お兄さん……?」

「ニサ?……ニサ!!?」

勁亮は一瞬何を言われたのか理解できなかったが、言葉が頭の中で繋がると同時に衝撃が走った。ムアルヘオラという異世界の推測は当たっていたが、この男の外見は、彼の記憶にあるニサの兄とは全く違う。かつてのニサの兄は、勁亮より少し年上の頼りがいのある人物だったが、この男はまるで別人だ。

「晴斗、そろそろ現場に戻った方がいいんじゃないか?」

真取は、勁亮と莉愛に話しやすい状況を作るため、晴斗を促した。だが、晴斗は真取の正体が気になり、もう少しこの場に残りたそうだった。

「え、いや……でも」

「早く戻らないと、ぶっ飛ばされるぞ?」

「うっ……戻ります」

晴斗は、今の好奇心よりも地獄のような未来を回避することを優先し、しぶしぶ現場に戻ることにした。

晴斗がフォールドゲートを使って現場に戻ったのを確認すると、真取は表情を引き締め、少し真剣な顔つきになった。

「じゃあ、改めて自己紹介する。アティード・リリヨンだ。久しぶりだな」

その名前を聞いた瞬間、勁亮と莉愛は驚きに目を見開いた。記憶が一気に蘇り、彼がかつての仲間であることを理解した。まさか、本当にあのアティードが目の前にいるとは思いもしなかった。

「アティード!?お前が……!」

勁亮は言葉を失った。驚きと戸惑いが混じり合い、頭の中で渦巻いていた。「アティード・リリヨン」という名前が彼の記憶に深く刻まれているにもかかわらず、目の前にいる中年の男がまさかその本人だとは信じ難かった。

「アティード……お前が……!?」

彼の脳裏には、異世界ムアルヘオラで共に戦った若き日のアティードの姿が鮮明に浮かんでいた。だが、目の前の男はその面影を持ちながらも、何か大きな出来事によって変わり果てていた。

隣にいた莉愛も同じように衝撃を受けた様子で、眉をひそめながら小さな声で呟いた。

「本当に……アティードなの……?」

彼女の声には、かつての戦友を懐かしむ気持ちと、信じられないという感情が入り混じっていた。彼女にとっても、アティードはただの仲間以上の存在だった。それが、こうして全く違う姿で現れるとは夢にも思わなかった。

「ああ、俺だ。こんなオッサンになったけどな……間違いなくアティードだよ。」

中年になったアティードは、少し苦笑しながら自分の体を見下ろした。その姿からはかつての面影をわずかに感じられたが、異世界で共に過ごした年月以上の何かが全てを変えてしまったことは明白だった。

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