勇者の不可分

たりきん

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夏目 晴斗11話その5 勉強 またムズいのでてきた……

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「はい、私の場合、状況というかアビリティが使えるようになった瞬間だけど、晴斗、アビリティを使えるようになった時のこと覚えてる?」 

姫凪乃は自分の経験を話す前に、晴斗に問いかけた。彼の体験と自分の体験を比較するために質問をしたのだ。

「使えるようになった時か……えっと、たしか……なんか、使い方と名前が急に頭に浮かんだ感じ、というか……」 

晴斗は一生懸命にその瞬間を思い出そうとするが、細かくは説明できない。

「そうよ。大体みんなそんな感じ。アビリティが目覚める状況はそれぞれ違うけど、名前とか使い方に関しては、なんとなく分かるっていう共通点があるの」 

姫凪乃は晴斗の話に同意しつつ、自分の体験が他とは少し違うことを伝える準備をしていた。

「ふーん、そうなんだ? でも姫凪乃の場合は何が違うんだ?」 

晴斗は好奇心から、彼女に詳しく聞こうとする。

「私の場合、使い方はわかったんだけど、名前がわからなかったのよ」

「名前? 俺のフォールドゲートみたいな名前がわからなかったってこと?」

「そう。使い方は問題ないけど、能力の名前が思い浮かばなかったんだよね。なんでかは分からないけど」 

姫凪乃は少し困った様子で肩をすくめる。

「え? でも火を操れるんだろ? それなら十分じゃん。名前が無いと何か困ることでもあるのか?」 

晴斗は疑問に思い、率直に尋ねた。

「いや、今のところは別に困ることは無いんだけど……ただでさえ未知の力なのに、他の人と違うって聞くと不安になるわよ」 

普段は自信満々の姫凪乃だが、この時ばかりは少し不安そうな表情を見せる。それを見て晴斗は、彼女がこんなに弱気になることが珍しいと感じた。

「へぇ、いつも強気な姫凪乃さんにも、そんな不安があるんですね」 

晴斗は、少し軽い冗談を交えて言ったが、彼女の反応を見てすぐに後悔した。普段は軽口で返す姫凪乃が、今回は少し沈んだ顔をしている。晴斗は彼女の不安が予想以上に深いことに気づき、気まずい思いを感じた。

「うるさい……」 

姫凪乃は、顔をそむけながら小さな声で呟いた。その態度から、彼女がこのことを深く気にしていることが分かり、晴斗はさらに申し訳ない気持ちになった。

「まぁまぁ、心配いらないさ!」

三神が明るく声を上げ、場の雰囲気を変える。

「今のところ体に問題はないんだから、きっとすぐに分かる時が来る! だいたい、今日の常識が明日には覆るかもしれないって言っただろう? 姫凪乃君のことも、近いうちに解明されるさ!」 

三神は豪快に笑いながら、再び大きなポーズを決めて見せる。

「よし、さぁ、話を戻そうか!」

三神はさらに元気を取り戻し、次の話題に移るために晴斗に振り返った。

「さぁ、晴斗君! 次は君に質問だ。アビリティの力の源、つまり、この力は何をエネルギーとして使っていると思う?」

三神は、今までの流れから新しい疑問を晴斗に投げかけた。晴斗は戸惑いながらも、しっかり考えて答えようとする。

「エネルギー……? うーん、体力とか、普通に生きるために使う力とかですかね……?」

晴斗は少し不安そうに答えたが、三神はその答えに満足したようだった。

「うむ! それも間違ってはいない!実際、体力や精神力を使ってアビリティを発動させることはある。しかし、それだけでは足りない。アビリティの発動に絶対的に必要な物質がある。それが“魔素”だ!」

「ま、まそ?」

晴斗は、ゲームや漫画でよく耳にする単語がここで出てきたことに驚きを隠せなかった。

「姫凪乃君! 魔素について説明できるかな?」

三神は姫凪乃に話を振り、彼女を元気づける意図も含めて説明の役割を任せた。

「えぇ、もちろん。魔素は空気中に含まれている成分の一つで、空気を構成する成分の中でも特に極微量しか含まれていないの。しかも視認できる人が限られていたから今まで発見されなかったのよ」

姫凪乃は自信を取り戻しつつ、落ち着いた声で晴斗に説明を始めた。

「そう! その通りだ!よく勉強しているね、姫凪乃君!」

三神は、満足げに微笑み、姫凪乃を褒めた。その瞬間、彼女の顔に少し得意げな表情が浮かんだ。晴斗は、少し複雑な気持ちでその表情を見つめながらも、いつもの彼女に戻ってくれたことに安心していた。

「(まぁ、またいつもの調子に戻ってきたか……)」

心の中で晴斗はほっとしたものの、質問はまだ終わっていなかった。彼は次に、姫凪乃の説明の中で最も気になった部分に焦点を当てることにした。

「あの、見えない人がいるっていうのは、どういうことなんですか?」

「うむ!それも、実は遺伝子が深く関わっているんだよ!」

三神が力強くそう言うと、晴斗は再び集中して話を聞き始めた。

「最初に判明したのが、アビリティを持っている人は魔素が見えなかった。そこで、遺伝子を調べたところ、ある特定の遺伝子を持つ人は魔素を視認できないことがわかったんだ」

「えぇっ、遺伝子の違いで見えるか見えないかが決まるんですか?」

晴斗は、突然また難しい話が出てきたことに少し困惑しつつも、真剣に耳を傾けていた。

「そうだ、アビリティの遺伝子を持っている人は全員魔素を視認できない。これはアビリティを使うための遺伝子のスイッチのオン・オフに限らず共通している。そしてその遺伝子を"Potentis-1"(ポテンティス1)と名付けたんだよ」

「ポ、ポテンティスワン……?」

晴斗は名前を反復しながら、まだ半信半疑のまま頭の中で整理しようとしていた。

「そう、そして逆に魔素を見える人は別の遺伝子を持っている。これを"Oculus-2"(オクルス2)と呼んでいるんだ」

三神は、あくまで科学的に説明しながらも、興味を引きつけるためにしっかりと話を進めていった。晴斗は再び頭を抱えそうになりながら、なんとか理解しようと努めていた。

「えぇっと、ポテンティスワンとオクルスツー……ですか?」

「そうだ! よく覚えたね! これが、魔素が見えるか見えないかの決定的な要因なんだ」

三神の言葉に、晴斗は少しずつ理解が進んでいるような気がしていたが、まだ完全には納得していなかった。

「三神さんは魔素が見えるんですか?」

晴斗は突然の疑問を口にした。それに対して、三神は胸を張って答えた。

「ああ! 私は幸運にもオクルス2を持っていて、魔素を視認できるんだ! もちろん空気中の成分だから普段から見えている、てわけじゃないよ!」

三神は誇らしげに答え、晴斗はその言葉に少し驚きながらも、最も気になっていた疑問をついに口にした。

「あの、そもそも魔素って、何なんですか?」

「ふふ、いい質問だ。よし、それについても説明しよう!」

三神は大きく笑いながら、次の重要なテーマに移る準備を整えた。

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