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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
3 火力の試験
しおりを挟む項目としては、大きく分けて技術、学問、火力の3種である。
技術は、武術、剣術や短距離走、長距離走、ジャンプ力など、体を使った試験。
学問は、語学、数学から、食べられる薬草の選定、他民族に関わるものまでいろいろ。
火力は、火を崇める一族として最も重要な試験で、火の石を使用しての試験となる。
技術と学問は、1回目の試験で、無難に、特に優れているとも、劣っているともいえない普通の成績で合格した。
一度合格した試験については、次回から免除される。
残される試験は火力。
この試験は、ファルス村に唯一伝わる宝石である火の原石を触れることができるのが本試験のみであり、他の試験とは違って練習が出来ない。
また、この火力の試験については、代々父親が子供にその試験の解答法を伝承する方法がとられているため、父親のいないシフィルは、全くわからない。
さらに、この試験は、閉ざされた部屋でファルス長老と一対一での試験となるため、他の人がどのように行っているのかを見ることもできない。
そのため、過去2回試験を合格することができなかった。
不安な表情を浮かべながらゆっくりと道場に到達すると、既にファルス長老が待ち構えていた。
シフィルの身長とほぼ同じぐらいであるが、この村の最年長者である。
ファルス :火の村ファルスの長老。シフィルの父親的存在。老人といってもシフィルと同じぐらいの身長で足腰
もしっかりしている。
全身を赤いローブで覆い、手には飾りの杖を持っている。足腰が丈夫なのは村の誰もが知っていることであり、この杖はあくまで威厳を示すためのものである。
長老の実際の年は謎であったが、シフィルが小さいころから今と変わらなく老人だった記憶はある。
家が道場に近いこともあり、年は離れているけれども父親のように慕っていた。
試験の日は、いつもの長老の表情とは大きく異なり、笑顔を見せず、恐ろしい雰囲気を漂わせている。
初めての試験の日は、この空気に飲み込まれて、大きく緊張して、技術と学問の試験に合格はしたけれども、試験のことは、ほぼ覚えていなかった。
覚えているのは初めてみる恐ろしいその長老の表情だけである。
シフィルはファルス長老に促され、道場の奥にある窓の無い、真っ暗闇に閉ざされた狭い部屋に共に入っていった。
もんちきは、シフィルが部屋に入る前に床に飛び降り、心配そうな顔つきで見送った。
扉が閉まる。
部屋に入ると、暗闇の中心に一本のロウソクが、かよわい炎をふるわせており、その横に薄く赤色に輝く、綺麗な球体をした石が飾られていた。
それ以外はこの部屋の中には何もない。
その赤色の石は、シフィルの手のひらにすっぽりと収まるような大きさであり、宝石の知識のないシフィルでも、すばらしいと感じる美しさと威厳を併せ持った宝石であった。
これがこの村に伝わる火の原石であり、村の外に出すことはおろか、この部屋からも持ち出されることはない。
窓のないこの部屋は、密閉されていることによる嫌なカビ臭さを感じるが、ほこりなどは床に無くきれいに整えられている。
この場所はよほど大切にされているのであろう。この部屋には、特別な用事が無い限りは入ることができない。
そのため、過去2回の試験を含め、今回の入場が3度目となる。
ここの空気を吸うだけで心臓がドキンと強く鼓動する。
ファルス長老が入り口のドアを閉めることにより、外の光が完全に遮られ、弱々しく感じていた二つの明かり、ろうそくと、火の原石の小さな明かりが、大きな心の支えとなる。
入り口の扉を背にして腕を前で組み、静かに真顔でその火の原石を一点に凝視しているファルス長老に、シフィルがちらっと視線を移すと、ファルス長老が軽くうなずく。
それを試験の合図と認識したシフィルは、ゆっくりと火の原石を飾っている装飾に近づくと、両手を同時に差し出し、落とさないように大切に石を掴み包み込んだ。
だが、そこから先に、どうしたらよいかという明確な答えは持ち合わせていない。
「じゃあ、いきます。」
ファルス長老に試験開始を告げると、神経を統一して力を込めたり、勢いよく手を振りまわしてみたり、何かを心で念じてみたり、息を吹きかけたり、手で温めたり、考えられることを試みたが、火の原石に何も変化が無かった。
そもそも、どのような変化を変化とするのか、何をしたら合格なのかさえもわかっていないのである。
何をしたら合格なのかだけでも教えてもらえたら、対処のしようもあるのであるが。
わからないということは、考えてもしょうがないのと同じだと捉え、開き直り、その場で考えつくことを試した。
振ってみたり、回してみたり、祈ってみたり、仰いでみたり、強く握ってみたり、叫びながら前に押し出したり、ブルンブルンと遠心力を与えてみたり、舐めてみたり、全集中して火の原石にエネルギーを注いだり。
どのくらい経っただろう。明確な制限時間の無いこの試験は、あきらめなければいくらでも試すことができるが、打つ手が無くなりファルス長老が駄目だと判断したら、即刻打ち切られる。
いろいろと試し頑張ってみたが、何も変化がなかった。
そのたびに、ファルス長老の顔を見ては、ビクビクと怯えるように次の動作を急ぐ。
閉鎖されたの部屋で、激しくからだを動かしていると、息苦しくもあり全身に汗がにじみ出てくる。
それを服で拭っては、手に息を吹きかけて火の原石が滑るのを防止する。
「あっ・・」
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