19 / 91
第2章
17話
しおりを挟む
蓋を開けようと力を込めると、甲高い音と共に瓶は割れてしまった。
「「「……………」」」
与一、セシル、アニエス。沈黙。
何もない虚空をわきわきと掴もうとする与一。が、先ほどの割れた瓶の破片で指を切ったのか、鮮血がぽたりぽたりと床に垂れていくだけであった。『え、何が起きたの』と言いたそうな顔でふたりを見るが、アニエスは真顔のまま硬直しており、セシルはいそいそと床にこぼれた粉塵を集めると、手に取って彼の傷口へと振りかけた。
「あ、ありがとうな。セシル……って、どういうことだよ!?」
「なんで私に向かって大声出すのよ! 自分が割ったじゃない! 私に言われても困るわよ!」
「ん、握力化け物?」
与一の手をフニフニと触りながら、セシルが上目遣いに問いかける。
「いや、平均以下だぞ……全部。うん。んー、瓶を握力で粉砕するっておかしいだろ。はぁ、どういうことだ……?」
シビレ草の粉塵を多量摂取すれば身体の自由が奪われるが、微量の場合は痛みを感じないという結果がでただけでも大きな一歩だ。だが、痛みがなくなるという事は神経系統になにかしらの干渉をしたこと。となると、
「仮に、この麻痺毒が神経毒の類だとしよう」
「神経毒……?」
「あぁ。人間には神経ってものがあって、それが身体を動かしたり、痛みを感じたり、熱を感じたりと様々な役割があるんだ。神経毒ってやつは身体の自由を奪ったり、臓器などの活動を停止させたりと種類は多いが、シビレ草の場合は前者だと思う」
ある程度の知識は、生前に読んでいた本やアニメなどの雑学からだ。こういう時に役に立ったりするので、会社の後輩との会話や、上司との話題作りにも応用していた甲斐があった。と、与一は過去の自分に心の中で感謝をしていた。だが、
──力加減まで狂って、瓶を粉砕するほどの握力を手に入れる……?
与一の中に、ひとつ気がかりな点があった。本来、人間の身体というものは自身の力で怪我や細胞がおかしくならないように制限が掛かっている。もし、薄めた麻痺毒が痛覚神経の麻痺だけでなく、筋肉自体の枷を外してしまっているのなら、
「やばいだろうな……」
「先生?」
「あ、いや。なんでもない」
言えるはずがない。
そんな代物といやし草の治癒の粉塵を混ぜた場合、出来上がるのは『飲むだけで今日からあなたも狂戦士☆(治癒効果あり)』でしかない。そんなもの作るわけにいかない。だがしかし、ここは与一の知らない世界。もしものことがあった場合は頼らざるを得ないだろう。
「はぁ……今まで、出回っていなかったのがおかしいくらいだ」
与一がめんどくさそうに頭を掻きながらぼそりぼそりと呟くと、ふたりは揃って首を傾げた。
「いや、待てよ……出回っていなかったんじゃなくて、誰かがそれを阻止しているとしたら」
セシルとアニエスは教えてくれた。『調合師はどこかしらの国に重宝される』と。逆に考えれば、調合師の作り出す様々な種類のポーションが一般的に入手できないように、もしくはその存在自体を隠蔽したいような。となると、フリーな調合師がほいほいと現れたら場合、大きな組織、あるいは民間団体はどうする──もちろん、喉から手が出るほど欲しがるだろう。
そして、アニエスは言った。『まるで商人みたいなやり口』と。冒険者ギルドは、住民からの依頼や、旅人や商人からも依頼を受けていて、所属している冒険者達を養わなければならない。信用を第一と考える冒険者ギルドが、今回の依頼のように評判を下げるような行為をするのだろうか。
「あぁ──ッ!!! 考えるにも情報が足りない!」
「いきなりひとりで喋りだしたり、叫びだしたり。忙しないわね、あなたって人は……」
「…………?」
片眉を吊り上げて、呆れ口調で喋りながら物置部屋を後にするアニエス。
与一の隣で、困惑した表情を浮かべるセシル。
「まぁ、いろいろとわかったという事だ」
与一がにししと笑ってみると、彼女も少し口元を緩ませた。
和んでいる空気の中で、与一はふと目の前にある割れた瓶の破片と床にこぼれている粉塵を見た。
「カウンターに瓶がまだあったはず……」
「ん、いっぱい」
「そうかそうか。ひとつ減ってもばれないよなっ」
厨房で退屈そうにしているアニエスの前を通り、カウンターへと足を向ける与一。
宿に入ってすぐに正面にあるカウンター。その後ろにはいくつもの棚があり、アルベルトのコレクションとしている調味料や食器などが飾れている。その中から、手に収まりきらない大きさの瓶を手に取る与一。
「これでいっか。さぁ、て。こぼしたやつ全部入れないとなぁ……ん?」
「お、しっかりと店番していてって、なにまた瓶を持ち出してんだぁあああああ────ッッ!!!」
「ひ、ひぃいいいいい──ッ!!!」
タイミングよく戻ってきた持ち主に見つかり、逆鱗に触れてしまった与一の悲鳴が辺りに木霊した。
「「「……………」」」
与一、セシル、アニエス。沈黙。
何もない虚空をわきわきと掴もうとする与一。が、先ほどの割れた瓶の破片で指を切ったのか、鮮血がぽたりぽたりと床に垂れていくだけであった。『え、何が起きたの』と言いたそうな顔でふたりを見るが、アニエスは真顔のまま硬直しており、セシルはいそいそと床にこぼれた粉塵を集めると、手に取って彼の傷口へと振りかけた。
「あ、ありがとうな。セシル……って、どういうことだよ!?」
「なんで私に向かって大声出すのよ! 自分が割ったじゃない! 私に言われても困るわよ!」
「ん、握力化け物?」
与一の手をフニフニと触りながら、セシルが上目遣いに問いかける。
「いや、平均以下だぞ……全部。うん。んー、瓶を握力で粉砕するっておかしいだろ。はぁ、どういうことだ……?」
シビレ草の粉塵を多量摂取すれば身体の自由が奪われるが、微量の場合は痛みを感じないという結果がでただけでも大きな一歩だ。だが、痛みがなくなるという事は神経系統になにかしらの干渉をしたこと。となると、
「仮に、この麻痺毒が神経毒の類だとしよう」
「神経毒……?」
「あぁ。人間には神経ってものがあって、それが身体を動かしたり、痛みを感じたり、熱を感じたりと様々な役割があるんだ。神経毒ってやつは身体の自由を奪ったり、臓器などの活動を停止させたりと種類は多いが、シビレ草の場合は前者だと思う」
ある程度の知識は、生前に読んでいた本やアニメなどの雑学からだ。こういう時に役に立ったりするので、会社の後輩との会話や、上司との話題作りにも応用していた甲斐があった。と、与一は過去の自分に心の中で感謝をしていた。だが、
──力加減まで狂って、瓶を粉砕するほどの握力を手に入れる……?
与一の中に、ひとつ気がかりな点があった。本来、人間の身体というものは自身の力で怪我や細胞がおかしくならないように制限が掛かっている。もし、薄めた麻痺毒が痛覚神経の麻痺だけでなく、筋肉自体の枷を外してしまっているのなら、
「やばいだろうな……」
「先生?」
「あ、いや。なんでもない」
言えるはずがない。
そんな代物といやし草の治癒の粉塵を混ぜた場合、出来上がるのは『飲むだけで今日からあなたも狂戦士☆(治癒効果あり)』でしかない。そんなもの作るわけにいかない。だがしかし、ここは与一の知らない世界。もしものことがあった場合は頼らざるを得ないだろう。
「はぁ……今まで、出回っていなかったのがおかしいくらいだ」
与一がめんどくさそうに頭を掻きながらぼそりぼそりと呟くと、ふたりは揃って首を傾げた。
「いや、待てよ……出回っていなかったんじゃなくて、誰かがそれを阻止しているとしたら」
セシルとアニエスは教えてくれた。『調合師はどこかしらの国に重宝される』と。逆に考えれば、調合師の作り出す様々な種類のポーションが一般的に入手できないように、もしくはその存在自体を隠蔽したいような。となると、フリーな調合師がほいほいと現れたら場合、大きな組織、あるいは民間団体はどうする──もちろん、喉から手が出るほど欲しがるだろう。
そして、アニエスは言った。『まるで商人みたいなやり口』と。冒険者ギルドは、住民からの依頼や、旅人や商人からも依頼を受けていて、所属している冒険者達を養わなければならない。信用を第一と考える冒険者ギルドが、今回の依頼のように評判を下げるような行為をするのだろうか。
「あぁ──ッ!!! 考えるにも情報が足りない!」
「いきなりひとりで喋りだしたり、叫びだしたり。忙しないわね、あなたって人は……」
「…………?」
片眉を吊り上げて、呆れ口調で喋りながら物置部屋を後にするアニエス。
与一の隣で、困惑した表情を浮かべるセシル。
「まぁ、いろいろとわかったという事だ」
与一がにししと笑ってみると、彼女も少し口元を緩ませた。
和んでいる空気の中で、与一はふと目の前にある割れた瓶の破片と床にこぼれている粉塵を見た。
「カウンターに瓶がまだあったはず……」
「ん、いっぱい」
「そうかそうか。ひとつ減ってもばれないよなっ」
厨房で退屈そうにしているアニエスの前を通り、カウンターへと足を向ける与一。
宿に入ってすぐに正面にあるカウンター。その後ろにはいくつもの棚があり、アルベルトのコレクションとしている調味料や食器などが飾れている。その中から、手に収まりきらない大きさの瓶を手に取る与一。
「これでいっか。さぁ、て。こぼしたやつ全部入れないとなぁ……ん?」
「お、しっかりと店番していてって、なにまた瓶を持ち出してんだぁあああああ────ッッ!!!」
「ひ、ひぃいいいいい──ッ!!!」
タイミングよく戻ってきた持ち主に見つかり、逆鱗に触れてしまった与一の悲鳴が辺りに木霊した。
101
あなたにおすすめの小説
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました
まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。
ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。
変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。
その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。
恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。
幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜
犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。
これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる
まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。
そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる