異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮

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第4章

26話

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 少し時間を置いてから部屋の中へと足を踏み入れる与一とアルベルト。
 
 ギルドの制服でもある短めの黒いスカートに薄い桃色のシャツを着た彼女が、部屋の隅でなにやら険しそうな顔をしながらカミーユを見ていた。どこか、警戒しているようなその様は、隣でぺたりと座り込んで惚けた顔をして息を荒くしているカミーユを見ればおおよその事情は把握できた。

「ちょっとぉ、なんでこんな変態置いてったのよぉ!」

 眉を寄せ、身を守るかのように両腕で身体を抱く彼女がゆっくりとした口調で怒った。

「へ、変態とは失礼な! 私はただ、乙女の着替えを間近でじっくりとだね──」
「それが変態っていうのよぉ! 知らなかったわぁ、エルフがこんなに卑猥だなんて。もうエロフよ! エロフ!」

 昨夜まで敵対していたのだが、まるでその関係がなかったかの様なその態度に調子が狂ってしまいそうになる与一。そんな事を知ってか知らずか、アルベルトはのしのしとカミーユに近寄り、首根っこを掴み、窓を開け、外へと投げる。

「ちょ、アルベルトぉおおおお!?」
「これでよし。話を聞こうじゃねぇか」
「ちっともよくないだろ! なに、カミーユ投げ捨ててんだよ! 下手したら死ぬぞ!」
「あいつはそんな軟じゃねぇんだよ!?」
「えぇ、逆にキレられても……」

 目の前で言い合っている男ふたりに、彼女は気まずそうな顔をしていた。

「……あなた達っていつもこんな感じなのぉ?」
「おう! こんなの俺たちの中じゃぁ日常茶飯事だ!」
「そんな日常があってたまるかよ……」

 もう勝手にやってくれと言いたそうに、いつも以上に元気なアルベルトに呆れながらも目線を彼女に向ける。
 黒みを帯びた紅色のポニーテールに、少し垂れている目じりが特徴的な、紅蓮の炎を連想するほど鮮やかな灼眼。右の目じりの下には泣きほくろがあり、顔立ちは少し上品な雰囲気を感じさせ、健康的な黄色みがかかった肌をしており、明るい所で改めてみると与一がこれまでに見てきたヤンサの住民の顔つきや肌色と照らし合わせても、彼女が別の地方の出身だとひと目でわかるものだった。

「なぁに? 人の顔じろじろ見て、まさかあなたも変態なのぉ……?」
「いや、それはないから安心しろ。それより、どうしてそこまで落ち着いてるんだ? 普通、捕まったんだから慌てるなり焦るなりするよな?」
「そうねぇ。それなら、なんで私にとどめを刺さなかったのかを彼に聞いてみたらぁ?」

 彼女が目線をくいっとアルベルトへと送る。確かにあの状況でとどめを刺さなかったのは不自然だ。それに、カミーユもなんの疑問も持たずに彼女を連れて行ったのだ。それが普通なのか、もしくは自分自身がおかしいのかと与一の思考は混乱の渦を巻き始めた。

「そりゃぁ、こっちも聞きたいんだ。最初の一振り、ありゃぁ確かにカミーユを殺そうとしていたが……なぜ、声を出した? 一戦交えた俺から言わせてもらえば、おめぇみたいな手練れの暗殺者があんなミスをするはずがねぇんだ」

 アルベルトの豊富な経験あってこその分析なのだろう。カミーユは自身の『風精霊の声』が聞こえるのは意識している時と言っていた。もしあの時、彼女が声を発せずに斬りかかっていたらどうなっていたかなんて与一にもわからない。だが、わざと自分の存在を認識させた彼女にもなにかしらの理由があったのだろうか。

「……そ、それは、あまりに情報の収集量が違いすぎて頭に来たのよぉ」
「がっはっは! なるほどな!」
「え、それだけで納得できるようなものなの? もっとこう、あるだろ?」
「ないわよぉ?」
「ないんかい!」

 深く勘ぐっていた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた与一。しかし、彼女がここまで馴染んでいること自体が問題なのだ。もとはと言えば、彼女は与一を利用しようとしていた側の人間。それを『はいそうですか』と仲良くできるはずがないのだ。
 ふぅ、と。息を吐きながらクローゼットへと身を投げる与一を見て、アルベルトは任せろと言わんがばかリににししと笑ってきた。安心しろと言われれば安心できるかもしれないのだが……。正直、不安以外の要素がなかった。

「ちょ、ちょっとアルベルト? 面貸してもらおうか?」

 ごごごと怒りを体現するかのように、どずどずと大きな足音を立てながらカミーユが戻ってきた。

「おぉ、やっと戻ったか。ほら、話を聞くんだろ?」

 自分のやったことを忘れたのか、にぃっと笑いながらカミーユに近づくアルベルト。すると、その態度に怒りがピークに達したのか、カミーユが右足を大きく振り上げ、彼の脳天目掛けて振り下ろす。

「……なんのつもりだ?」

 両手を重ね、それを受け止めたアルベルトが腕の間から鋭い目つきでカミーユを見た。
 見ただけだ。見ただけで先ほどまで怒っていたカミーユが目をそらして小さく縮こまっていく。

「い、いやぁ。これでお相子ってことで……はは、ははは、は……はぁ」
「なんだぁ? そういうことか。がっはっは!」

 その時、与一はなんとなくて察してしまった。アルベルトを怒らせてはいけない、と。
 それから、居心地悪そうに苦笑いを浮かべていた彼女の話を聞くべく、一同は再び肩を揃えた。

「も、もう茶番は終わりってことでいいのかしらぁ?」
「あれが、茶番だったら命がいくつあっても足りないと思うぞ。うん、まじで」
「そ、そう……んー、どこから話せばいいのかしらぁ」
「まず名前から教えてくれないか? なんて呼べばいいのかわからないんだ。あ、私はカミーユ。で、このでっかいのがアルベルトだ。与一君のことは……既に知っているだろうね」

 ベットに腰を下ろしている彼女に対して、カミーユが一歩前に出てひとりひとりの名前を言っていく。すると、彼女はふふっと鼻で笑い、足を組んで前かがみになった。

「私は、カルミア。2か月前にこっちに来た……というよりも、連れて来られたって言ったほうがいいわねぇ」

 彼女は──カルミアはギルドで起こった一部始終と、それによってギルド内に潜り込んだことについて話し始めた。結論から言えば、2か月前の失踪事件は仕組まれたものであり、それを実行したのは彼女の上司にあたる人間だそうだ。

「なるほど、ね。それから今日こんにちまで受付嬢に成りすまして生産職の人たちから利益を得ていた。と」
「そうそう。それでねぇ、私以外にももうひとり連れて来られたのよ」
「もうひとり? ってことは、他にも仲間がいるってことだよな?」
「えぇ、いるわぁ。森の狩人──『遠見えんけんの弓師』と呼ばれた老人よ」

「「────ッ!?」」

 カルミアの口からでた『遠見の弓師』と言う単語に、アルベルトとカミーユはびくりと反応した。それも、知っているだけの反応ではない、なにかに怯えるかのような感じだ。カミーユは肩を震わせ、アルベルトは今まで見た事のない絶望を知ったかのような表情を浮かべていた。

「ま、待ってくれ。いくらなんでも、彼が悪事を働くなんて思えない。なにかの間違いではないのか?」
「間違いではないわぁ。上から聞いた話だもの、本物だと思うわよぁ」
「な、なぁ。その遠方のなんちゃらってすごいのか?」

 流石に自分だけ除け者なのは落ち着かなくなった与一は、恐る恐る尋ねた。

「あぁ。あの爺さんだけはやべぇ……俺じゃまず近づくだけで眉間を撃ち抜かれるだろうな」
「たぶんだけど、風精霊達が彼を見つけることはまず不可能だと思う……離れすぎてるんだ、距離が……」

 ふたり揃って勝てないと遠まわしに言い出した。 
 どんな相手なのかすらわからない与一は、文字通りの遠距離から弓を使って狙撃する人なのかと考えた。だが、

「あの老人はね、遥か遠くから一寸のズレもなく急所を狙う事のできるのよぉ」

 まさに百発百中だ。狙った獲物を逃さない。それが森の狩人の由来であり、遠くから射ることを称して遠見の弓師なのだろう。あまりにも現実離れしている。と、与一は身体全体を駆け抜ける悪寒に身震いを覚えた。



 
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