異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮

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第7章

58話

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 ギルドへと足を踏み入れたカルミアを出迎えたのは、小さな人だかりと彼らに指示を出すひとりの少女の姿だった。
 特筆すべきは、その髪型と服装であろう。腰の辺りにまで伸びている、艶やかな深みのある青黒い髪。少し大きめな黒い生地に、赤いレースで飾られた織物で髪を両側で結っており、その身に纏うは黒をベースとした薄着のドレスコート。ふわりと軽い質感を感じさせながらも、胸部周辺から背中に向けて、赤いレースにて細かな刺繍が施されており、血管を思わせるそのデザインを何度も見ているカルミアでさえ、ごくり、と。唾を飲み込むほど不気味でありながらも、どこかこだわりに近いものを感じる。
 きり、と。流し目であるにも関わらず、彼女の灰色に近いその瞳からは力強い何かを感じ、色白く、幼い印象を受ける顔立ちをしておりながらも、自身の立場を理解して周りの者たちへとあれやこれや。と、指示を出している。
 一目で、彼女が今のギルドにおける最高位の立場に位置していることが理解できた。

「違う、あんたは北西の村の記録を調べて! え? えぇ、それで間違いないと思う。うん、そうね」

 若く、高い声音。幼いと言えば噛みつかれてしまいそうだ。
 彼女がサブマスターなのは間違いないだろう。が、与一からの頼まれごとを彼女に話さなければならないと考えたカルミアは、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。一見、仕事をそつなくこなしているようにも見えるのだが、今のギルドはギルドマスター捜索のために人員を割いている状態である。故に、指示を仰ぎに何人もの冒険者が入れ違いに彼女の元を訪れており、彼女は表情を崩すことなく、受付嬢たちと情報を整理しながらも対応しているのだ。
 そんな、忙しい雰囲気が漂う人だかりの中へと、カルミアは小さく微笑みながら進む。

「それで? 報告がある人はもういないの?」
「サブマスター、ひとつよろしいでしょうか?」

 仕事の時になると口調が変わるカルミア。職柄、潜入などで培った経験から成るものなのであろう。

「カルミアさん、だっけ? あんたは捜索の枠じゃないけど……」
「はい。関係のない報告ですけど、これを」

 そう言い、カルミアは一粒の黄緑色の物体を取り出した。

「ふん! これが、報告? わざわざ飴を渡しに来るなんて、今の状況がまるっきしわかってないじゃない」

 鼻であしらわれ、睨みつけられるカルミア。
 彼女とて逆上するような性格ではない。だが、近くにいた受付嬢やら冒険者やらが、遠巻きに彼女を嘲笑っていることに対しては、苛立ちを覚えていた。

「私たちは、呑気に飴を舐めてる余裕なんてないの。マスターがどこに行ったのかわからない今、探すことで精一杯の状況なの。からかいに来たのなら、他所でやってちょうだい」
「そう……ですか。なら、これを渡してくださった調合師様に、返してきますね」
「──へ?」

 ぴしゃり、と。カルミアの周囲で、嘲笑っていた人たちとサブマスターが凍り付いた。

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 今調合師って……」

 カルミアの腕を掴み、眉を寄せる彼女。
 調合師と言っただけでこの変わりようだ。少し、仕返しがてらに放った言葉であったのだが、思いのほか大きな反応をする彼女らを見て、与一の職業が実際にどれほどの影響力があるのか。と、いうことを改めて実感するカルミアであった。

「はい、彼からこれを受け取りまして」
「事情はわからないけど、彼が納品しようと物を寄越してきた。って、ことなの?」
「そうです。ですが、今はそんな時ではない。と、伝えておきますね」
「い、いえ。詳しい話を聞かせてちょうだい。無下にでもしたら、後々困るのは私たちかもしれないもの」

 全体的なものが見えている。彼女はカルミアよりも年下だ。それも、下手したら与一よりも、ルフィナよりも年下なのだ。そんな少女が、断ったときに生じる自分らの不利益がどれほどのものなのか。と、考え、行動へと移したのだ。調合師だからと言わずとも、時と場合によっては受け取ってくれていたのかもしれない。だが、主観的にものを言わず、客観的に物事を見るその器量。それは、紛れもなく上に立つ者に相応しいものであった。

「場所を変えて、詳しく聞かせてもらうわ。あんたたち! なにぼさっとしてるの!」

 切り替えの早いサブマスター。彼女の一言で、こちらを窺っていた者たちは忙しなさそうに行き交う。
 カルミアの持ち込んだ代物が気になっているのか、先ほどから視線を感じる。しかし、誰ひとりとして話題には出さず、黙々と指示されたことを行動に移していた。

「奥で聞かせてもらうから、先に行っててもらえる?」
「わかりました」

 ぺこり、と。頭を下げて、カルミアは受付へと足を向けた。
 どこか清々しい表情を浮かべて、彼女は棚の手前を横切り、奥へと広がる厨房兼休憩できる空間を設けた部屋へと入り込んだ。
 冒険者ギルドで食事を頼んだ際。受付嬢がそれらの代金を受け取ってから、こちらの部屋にて調理されるのだ。だが、カルミアの目指している部屋は更にその奥。ギルドマスターやサブマスターが仕事をするときに使用している書斎のような部屋であった。
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