公爵様が信じるのは奴隷だけ

ccm

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痛めつけられた男は、その後必死な形相で振り返ることなく逃げ帰っていった。


屋敷へとやっと入ったイザベルは、再び屋敷の敷地に結界を張る。

暫くは結界を解除しないほうがいいだろうと思い、今度は以前より念入りに魔法を唱えあげた。

そうしてやっと一つ息を吐いた後、無言で階段を上った。

イザベルの後には変わらずに3人の奴隷たちがついてきている。





そうして向かったのは、かつての使用人たちが寝泊まりしていた個室の並んでいるフロアだった。

「ここが、これからお前たちが使う部屋だ。お前は…」

そう言おうとしてイザベルは彼らの名前すら知らないことに気づいた。

「お前たちの名を聞いていなかった。名はなんというのだ」

そう言って、イザベルは3人へと尋ねる。


3人は、また服屋で見せたようなイザベルの発言に心底戸惑った表情を浮かべる。

そして今回は誰も何も言わなかった。



「…どうした?名がないわけではないだろう。これからお前たちを呼ぶ際にどう呼べばいいのだ」



そこまで一切口を開かなかった黒髪の男が一番先に名を名乗った。

「…ルディと申します」

「姓はないのか?」

イザベルは不思議に思い、尋ねる。

「ご主人様、奴隷となったものは姓は取り上げられるのです。…私は…リアムでございます」

栗色の髪の男が助言を出し、そして名を名乗った。

イザベルはあまり奴隷に詳しくないため、そんなものなのかとさほど気には止めなかった。


「ラウルでございます。ご主人様」

最後に赤髪の男が名を名乗る。


「ルディ、リアム、ラウルだな。よし、ルディの部屋はここ、リアムはその隣、ラウルはその向いの部屋を使え」

そして、3人の部屋割りを決める。

「お前たち、まずは部屋にある風呂に入れ。今お前たちが着ているものはあまりに汚い。先ほど購入した服に着替え、その後先ほど上がってきた階段の傍にあった食堂に集まるのだ、良いな」


そう指示を出し、イザベルは固まったままの3人に踵を返して自室へと向かう。


「あっ!あのご主人様!」

リアムが思い出したようにイザベルを呼び止める。

「どうした?」

「こちらを」

リアムが差し出してきたのはイザベルが先ほど買った露店での食べ物の入った袋だった。

イザベルはリアムの方に向かい、その袋の中からハムと野菜のサンドイッチの入った容器を取り出した。


「あとは、お前たちで食べろ。風呂に入り着替えたら、食堂に集合だ。良いな?」

そう言って今度は振り返らずにイザベルは、自室へと去っていった。
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