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しおりを挟む『コンコンコン』
ノックをする音が聞こえる。
イザベルが返事をするより前に扉が開かれた。
扉をあけ、部屋へと入ってきたのリアムである。
扉を閉め振り返ったリアムは、ベッドで起き上がったイザベルを見て目を見開く。
そして、それは普段の無表情のリアムでは考えられない表情だった。
「ご主人様っ!」
そう大きな声で口にして、リアムはイザベルのベッドサイドへ駆け寄る。
「お身体は!もう大丈夫なのですか?どこか痛むところ等はございますか!すぐに医者を呼びましょうか!?」
そんなリアムの様子にイザベルもひどく驚いた。
普段ほとんど感情を動かさないような態度であったのに、今のリアムはひどく取り乱している様だ。
「リアム、私は大丈夫だ。落ち着け」
そう言ってベッドサイドにしゃがみ込むリアムの手をイザベルは安心させるよう握る。
その手をリアムは強く握りしめた。
「…ご主人様、本当に本当にもう大丈夫なのですね?」
リアムはイザベルの瞳をまっすぐに見つめて問いかける。
その瞳は出会った時の何も写さない、何も感じないといった瞳ではなかった
ただ主人を純粋に案ずる瞳であるとイザベルには感じられた。
「…ああ、もう問題ない。心配をかけてすまなかったな」
イザベルは少し顔に笑みを浮かべ、返答する。
その答えを聞いて少しずつリアムの様子が落ち着いてきた。
「…2人もご主人様を心配しておりました」
リアムからイザベルが眠っている間の説明を受ける。
どうやらイザベルは約3日間眠っていたようだ。
思った通り、馬車で眠ってしまったイザベルをラウルが自室のベッドへと運び込み、そこから一度も目を覚まさず眠り続けていた。
イザベルは思ったよりも自分が長く眠り続けていたことに驚いた。
そして、自身を見ると出かけたままのドレスであることに気づく。
さすがにラウルもリアムもイザベルを着替えさせることはできなかったようだ。
「リアム、私は風呂に入ろうと思う。そして、その後食事をしたいが、風呂の準備と食事の事をルディに知らせてきてくれるか?」
イザベルは普段よりゆっくりとリアムに伝える。
頼まれたリアムは少し名残惜しそうにイザベルの手を離し、頷く。
「ご主人様、承知いたしました。すぐに準備いたします」
そう言って部屋から出ていくリアムの顔に浮かぶそれは小さい、とても小さいものだった。
しかし、リアムの顔には屋敷に来て初めての笑みが浮かんでいた。
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