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しおりを挟むそれからアディリナは、時間を見つけては書庫に本を読みに行った。
アディリナが書庫を訪れると、ヨハンはいつも同じ席に座って本を読んでいた。
アディリナは行くたびにいつもヨハンに挨拶をすることだけは欠かさなかった。
しかしヨハンからはいつも同じように「俺の機嫌を取るのはやめろ」とか「俺に関わるな」といった冷たい言葉しか返ってこなかった。
2人の間にそれ以上の言葉はない
2つテーブルを挟んた距離
ただ、本のページを捲る音だけがいつも響いていた
――――――――――――――――――――――――
そんなある日にアディリナはいつものように書庫で読む本を探していた。
アディリナは離宮にあった本を幼い頃から読んでいた影響か、物語や神話より、哲学理論や倫理学の本を読むことが多かった。
離宮にあった本は一部に偏った思想であったが、書庫には沢山の学者の思想を綴った本が保管されていた。
離宮にいた頃に自身がよく読んでいたシトラヴィスという学者の本を本棚の1番上の段に見つけた。
アディリナの身長そのままでは届かなかったが、高い所の本を取るための梯子が近くにあったのでそれを利用することを考えたのだ。
本を1冊取るためだけに、人を呼ぶことが躊躇われたアディリナは自身で梯子へ足をかけた。
―もう少しで届く―
お目当ての本を手に取った時にはすでに遅かった。
バランスを崩し、アディリナの乗っていた梯子は倒れようとしていた。
体を動かす機会が殆どなかったアディリナの身体は反応できず、自身にこれから訪れるであろう衝撃を恐れ、両目をぎゅっと瞑るしかなかった。
「――――――おいっ!」
誰の声だ?
アディリナは瞬時にその声の持ち主を判断することはできなかった。
聞こえてきたその叫び声にうっすら目を開けてみると、こちらに向かって走りながら、両手を広げている自身の兄ヨハンが見える。
「飛べっ!」
そう叫んだヨハンの声に従うことしかアディリナはできなかった。
倒れかけている梯子から手を離し、腕を広げるヨハンへと精一杯の力でジャンプした。
書庫一帯に金属の梯子が倒れる衝撃音が響き渡った。
――――――――――――――――――――――――
「何考えてるんだ!普通に考えろ!馬鹿なのか!」
アディリナは心臓の音の早まりが収まらなかった。
梯子の倒れる衝撃音の大きさから、寸前のところでヨハンの胸に飛び移ることができたからこそ、自身に怪我がない事を実感したのだ。
ヨハンが自分に向かって大きな声で何かを喋っているのが見えるが、アディリナは言葉の内容まで耳に入ってこなかった。
しばらくすると梯子の倒れる衝撃音が、近くの部屋にまで聞こえたのだろう。
次々と人が入ってくる。
『怖い』
自身に今起こったばかりの出来事は、アディリナにとってかなりの恐怖だった。
身体の震えが止まらない。
書庫に入ってくる大勢の人々は、倒れ込む王子と王女、そして倒れている梯子を見て起こった事実を予測するのは容易い。
周囲の人々の怪我を心配する声、医者を呼ぶ声、様々な声が響き渡る。
しかし、アディリナは動かなかった。
ただ震える身体でヨハンの腕を掴むことしかできなかった。
ヨハンも腕に抱えるアディリナの震えを感じ、アディリナの行為を叱責する言葉を止めた。
自身の腕に縋り震える妹。
慣れていないのであろう手つきで、ヨハンはそっとアディリナの背中をなでた。
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