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「ヨハンお兄様、あの教えてくださった神語理論の本とても分かりやすかったです。ありがとうございます!」
「もう読み終わったのか。」
あれから、アディリナとヨハンは書庫でお互い本を読んだ後夕方前に1時間ほどお茶をするのが恒例になった。
最初はアディリナの言葉に戸惑ったり冷たく返してしまうことがあったが最近ではヨハンも穏やかな表情をしている。自覚がないのか時には小さく微笑みまで浮かべているのだ。
アディリナはそれがとても嬉しかった。
アディリナはヨハンを慈しみ癒し、その心を自身で埋めてきた。
それがこうして目に見える形で感じられて嬉しかったのだ。
アディリナは父のイスマエルが好きだ
兄のヨハンが好きだ
護衛騎士のリチャードが好きだ
乳母のマーサが好きだ
『自身を守ってくれる存在』が好きだ。
―ヨハンお兄様も私の事を慈しんでくれている!―
そう、アディリナは母の言葉の通り『自身を守ってくれる存在』を探していたのだ。
――――――――――――――――――――――――
その日も普段の様にヨハンが勧めてくれた本や、離宮にあった本について語り合っている時だった。
突然の予期せぬ来訪者が現れたのだ。
「アディリナよ、政務が落ち着いてな。少しお茶でもどうだ?」
ドアを開けながら、声をかける。
予期せぬ来訪者の正体はアディリナとヨハンの父、イスマエルであった。
―全員が驚愕した表情を浮かべた―
「お父様、お忙しい中ありがとうございます。今、ヨハンお兄様とお茶をしていたのです。お父様も良ければいかがですか?」
アディリナもイスマエルの登場にとても驚いたが、すぐに顔に微笑みを浮かべ、イスマエルを歓迎した。
「ふむ…ヨハンか…」
普段狼狽える事等ほとんどないイスマエルも流石にヨハンの存在には驚いた様だった。
「…父上。ご機嫌うるわしゅうございます。私はここで退室しますので、父上はこのままこちらに。」
―この空間で異物なのは自分だ―
父上が必要としているのは妹であるアディリナだけだ。
俺はわかっている。
今までだってずっとそうだったじゃないか
母も父も呼ぶのはいつも王太子であるセドリック兄上なのだ
大丈夫、これは分かっている、理解している。
ヨハンはすぐにそう思い、急ぎ退室しようとして立ち上がる。
「ヨハンお兄様っ…」
そのヨハンの動きにアディリナは声をかける。
しかし退室しようとしたヨハンをそれより先にイスマエルが制した。
「ヨハンよ、よい。其方もそこに座りなさい。」
そしてイスマエルも空いていた席に腰掛ける。
「え…」
ヨハンは自身の同席が許されるとは露程思っておらず、すぐに席に着くことができなかった。
そんなヨハンの手を取って、アディリナは座る様に促した。
そしてヨハンがやっと席に腰掛け直すのを見て、イスマエルは用意されたお茶を口に含んだ。
「さて、2人で何を話していたのだ?」
イスマエルの質問を聞いて、アディリナは嬉々として応える。
「本のお話ですの!お父様、ヨハンお兄様はとても凄いのです。」
「あ、アディリナ…」
ヨハンはアディリナが自身の話を父にしようとするのを止めようとするが、アディリナは父にヨハンの話をし続ける。
「お兄様は、もうすでに書庫の中の半分以上の本を読んでしまっているのです。哲学理論も語学理論も、それに神語理論も、どんな本も一度読まれるだけで全て理解してしまって!」
イスマエルもアディリナの話すヨハンの評価を黙って聞いていた。
「ヨハンよ。」
アディリナのヨハンの話がひと段落した所で、唐突にイスマエルはヨハンへと話を振った。
「はっ、はい。」
ヨハンは父であるイスマエルとこうして、近くで語り合ったこと等一度もなかったため、ひどく緊張していた。
「お前は、神学はどの程度まで理解している?」
父の質問の意図が分からなかったが、すぐにヨハンは答えた。
「…書庫にある神学の本は全て読みました。神学上級までの内容は頭に入っております。…また城にある大聖堂に保管されているという聖書の写し、大聖堂の発行している書物や新聞も一通り目を通しております。」
王の質問に偽りを答える程愚かではない。ヨハンは自身が身に付けている神学についての知識を伝えた。
「…ふむ、そうか…」
そう言ってイスマエルは腕を組んで、少し考える様だった。
――――――――――――――――――――――――
お茶会が終わった後、ヨハンは何を自分が話したのか
あまり覚えていなかった。
なぜ、父は同席を許した?
なぜ、父は自分に話しかけてきた?
―ヨハンはやはり分からない―
今まで本を読めば分からない事などなかったはずなのに。
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