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しおりを挟むなぜ、なぜだ?
わからない分からないわからない
父上はなぜ、今になって俺を選んだ?
セドリック兄上でも、カール兄上でもなく、なぜ俺なのだ?
なぜだ?何故、なぜナゼ、なぜだ?
わからないわからないわからない
理解が追いつかない、なぜなのだ
見ろ。
誰も俺を信じてなどいない、できると思っていない。
母上でさえも俺には無理だと思っているじゃないか
誰も俺に期待していない
俺には無理だ
誰も俺なんて見ていないのだ
わかっている。わかっている
生まれた時から今まで何一つ変わらない。
わかっていたはずなのだ
―なぜ、父上は今になって俺を選んだのだ―
――――――――――――――――――――――――
「やっぱりヨハンお兄様はすごいです。」
この1か月で聞きなれた耳に心地いい自身を慕う純粋な賞賛の声が届いた。
「あ、アディリナっ」
縋る声でヨハンはアディリナの名を小さな小さな声で口にする。
生まれた頃から自分より優れた兄が3人もいた。
まして実の兄はこの国で最も期待される人間だ。
***
『兄上、俺の話を聞いて!』
『母上、俺の事を見て!』
『父上、俺にも期待して!』
お願いお願い、お願い!
誰か僕に気づいて…
***
誰にもヨハンの声は聞こえていない、聞こえない
誰にもヨハンの姿は見えていない、見えない
誰にもヨハンは期待されない、期待しない
そんなはずだったのに。
彼女にはそんな声が届いてくれる。
ヨハンが必死に伸ばす手を取ってくれる。
「ヨハンお兄様」
ヨハンを安堵させるようにアディリナは優しく微笑んだ。
皆が王の言葉に戸惑いを隠せない中、アディリナだけはヨハンが選ばれることに何一つ異論はなかった。
なぜなら、ただアディリナはヨハンを慈しんでいる。それだけだ。
「ヨハンお兄様、絶対に大丈夫です。お兄様なら絶対にできますわ」
ヨハンに向けて、いつもの微笑みで告げる。
――――――――――――――――――――――――
そうだ、そうだそうだそうだ
そうだ!
アディリナだけはいつも俺を見てくれている
この笑顔は俺にだけ向けられているものだ
父上がなぜ俺を選んだか?
答えは簡単じゃないか。
―アディリナのためだ―
なんでこんな簡単な答えがすぐに分からなかったのだ。
父上からするとこれは俺に対する褒美なのだろう
―あの日、書庫で起きた事故でアディリナを助けたことに対する―
だがそんなことは関係ない。
俺が選ばれたことに対してアディリナは喜び、また俺に、俺だけに笑ってくれた!
今はアディリナと関わる機会が多いのが俺だけだから、セドリック兄上でもカール兄上でも、他の兄弟ではなく、俺だけに笑顔を向けてくれる。
それはわかっている
でもでもでも!
俺が親睦会を成功させたら、アディリナはもっと笑ってくれる?
アディリナはもっと喜んでくれる?
俺にだけもっともっと笑顔を向けてくれる?
俺だけを見てくれる?
――――――――――――――――――――――――
母上じゃない、父上じゃない
俺を信じてくれる、俺を見てくれるアディリナの言葉を信じよう。
俺はできる。
「父上、承知いたしました。ヨハン・ル・イヴァノフの名の下に必ず成功させてみせます。」
ヨハンはしっかりと皆の前で宣言した。
分かった、わかった!
やっとやっと理解できた!
アディリナが俺を慈しんでくれていると!
応援ありがとうございます!
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