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しおりを挟む「国王陛下、王妃殿下のご到着でございます。」
今日の食事会では、国王イスマエルと、マリアンヌ王妃がともに現れた。
現れたマリアンヌ王妃はアディリナに一瞥する。
国王と王妃が共に食事会に現れるのはここ数年ほとんどなかった。
これはマリアンヌ王妃による一種のアディリナに対する牽制であった。
――――――――――――――――――――――――
マリアンヌ王妃は誰よりも恐れている。
イスマエルの妻たちの中で誰よりもフェリシナの恐ろしさを身体が覚えている。
普通で言えば自身の子供より幼い子供だ。
嫉妬し、牽制する相手にもならないはずなのに。
―フェリシナの再来―
そう言われているアディリナによって、また再び王妃として成功が約束されている自分が狂わされるのではないか
イスマエルとフェリシナが出会うまで、マリアンヌの立場が揺るがされることは一度としてなかった。
約束された王妃への道。
国随一の公爵家の生まれという身分。強い後ろ盾。
自身も誇る美貌。王妃としての高い教養。
マリアンヌは多くのものを持っている
ただ一つの例外が、夫としての国王イスマエルの愛以外。
ああ、憎きフェリシナ
お前にないモノすべて持っているのに、お前は私が唯一手に入れられないモノそれをあまりに容易く奪っていった。
なんなのだ
お前にあって私にないものはいったいなんなのだ
――――――――――――――――――――――――
そして2人が席につくのを確認すると、他の家族たちも席へと座る。
全員が座ると、卓へ次々と料理が運び込まれた。
「イヴァノフ神の祝福を」
イスマエルはグラスを高く掲げた後、グラスに口をつける。
それに続いて皆が同様に言い、グラスを高く掲げた後口をつけた。
その後はそれぞれの前に置かれる食事へと口をつけ始める。
基本的に王家の食事会で話題を持ちかけるのは、イスマエルの妻たちである。
彼女たちが話題を持ち掛けない限り、基本的には会話はなく、静かに食事が進む。
「陛下、次のサンチェス国との親睦会については、どのように取り仕切りますか?」
マリアンヌ王妃が声をかける。
サンチェス国とは現在第三王子が留学している国である。イヴァノフ王国から北に位置し、長年交流を続けている。
サンチェス国はイヴァノフ王国より信仰心の強い国で、宗教感を重んじている。
そのため、交流の際はマナーやしきたり等がとても重要視される。
「陛下、昨年はセドリック王子が取り仕切られましたが、今年はカールにお任せいただけないでしょうか?」
第二妃イーダが提案する。
国の重要な催しを取り仕切ることは、自身の息子の能力の高さをアピールできる重要な機会だ。
「親睦会の時期は、騎士団の遠征の時期と近く、カール王子が主催するのは難しくありませんか?」
マリアンヌ王妃がすかさず、提案を阻止しようとする。
「い、いえ、カールももう遠征への参加は3度目です。親睦会の主催と並行して務めることもできましょう。」
第二妃イーダもそう簡単には引き下がることなどできない。
第三王子不在の今、王位争いは第一王子のセドリックと第二王子のカールの二代派閥が繰り広げていた。
「…ふむ」
マリアンヌ王妃と第二妃イーダの水面下での争いが繰り広げられている中、国王イスマエルはおもむろに口を開いた。
「今回のサンチェス国との会は、ヨハンへ任せようと思う。」
「―――っ!」
卓についている全員の動きが驚きによって止まる
名前を出された渦中のヨハン本人はあまりの驚きに声も動くこともできなかった。
「へ、陛下?セドリックではなくヨハンですか?」
実の母であるマリアンヌ王妃でさえ、今の言葉を信じることができず、戸惑いを抑えきれず再度問いかける。
「うむ。ヨハンももう17だ。そろそろセドリックやカールのように王子として責務を真っ当すべきだろう。」
イスマエルはヨハンに視線を向けながら告げる。
「し、しかし、ヨハンではあまりにも経験が不足しております…何か問題を起こすことになっては…」
王の言うことが突拍子すぎる。
セドリックやカールならいざ知らず、なぜ今ヨハンであるのか。
マリアンヌ王妃も第二妃イーダも急な王の言葉に苦言を呈さずにはいられなかった。
「サンチェス国は、信仰心の厚い国。それに今回の会には大聖堂からの使者も参列すると聞く。この間ヨハンと話をしたが、神学を理解しているのは2人よりもヨハンだ。」
まさか信じられない、という表情を浮かべる。
「…ち、父上…」
驚きのあまり気が動転しそうなヨハンがやっとの思いで声を発する。
「ヨハンよ、これは王命である。」
断ることは許さないというように、イスマエルの声が食卓に響いた。
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