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しおりを挟む―また、失敗してしまった―
溢れ出る涙が止まらない。
今日もまたセドリックは月を見ながら、その綺麗な瞳から絶え間なく涙がこぼれ落ちていた。
――――――――――――――――――――――――
セドリックは、決して皆が思うような優秀な王太子ではない。
本当は誰よりも自信がなく、臆病で内向的だ。
しかし育ってきた環境が、本人の心を幼い頃にとうに壊してしまっていた。
幼い頃から王太子として、周囲から期待をかけられていた。
ましてや母であるマリアンヌ王妃からの期待は尚更だ。
なぜなら、第一王子であるセドリックが生まれた数ヶ月後には第二王子であるカールが誕生した。
セドリックとカールは他の兄弟と違い、数ヶ月の生まれの違いだけであった。
第一王子とはいえ、赤子の頃から争うべき相手が存在していた。
カールに負けないよう、王太子として、マリアンヌ王妃からの教育は厳しいものだった。
母に甘えることは許されず、ただひたすらに王になるための教育の日々であった。
そんなセドリックが3歳の頃、実弟であるヨハンが生まれた。
カールとも第三王子ロドリクとも、兄弟として仲を深めたり、遊んだりすることは母により禁じられていた。
その中で唯一、接するのが許されたのが実弟のヨハンだけであった。
幼い頃は、自分の後をついて回って、兄として慕ってくれたヨハン。
セドリックは、王太子としてではなく、兄として慕ってくれた幼いヨハンが好きだった。
しかしいつからだろう。
ヨハンはセドリックを避け始めた。
セドリックも最初は原因が分からず、自身が何かしてしまってそれを謝罪しようとしていたが、ヨハンの目を見て気づいたのだ。
自身を見つめる目には、兄としてだけでなく王太子としての羨望の眼差しも加わった。
嫉妬、妬み、怒り、寂しさ、決して言葉にはしないが、その重い重い眼差しに見つめられることがセドリックは恐怖だった。
自分が責められているようで、怖くて怖くて堪らなかった。
歳を重ねるにつれますます忙しく厳しくなる王太子教育。
失敗や間違いをすれば母から激しい叱責を受けた。
―それも怖い、怖くて堪らない―
周囲の期待を裏切ると落胆の眼差しで見られる
―怖い、怖い、そんな目で僕を見ないでくれ―
膨らみ続ける期待に、小さく弱いセドリックの心は既に壊れていた
壊れた心でもセドリックは周囲から求められ続ける。
どうやってそれが生まれたのかセドリックも覚えていない
いつの間にか自身の心の中にいた
自分と同じ顔をしているが、決定的に違う存在
セドリックの中には臆病で弱い本来の人格と、完璧な王太子として振る舞える別人格の自分が生まれていたのだ。
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