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しおりを挟む「陛下は、今日もアディリナ姫の所?」
第四妃テレーゼが、窓の外に視線を向けながら、何を見るわけでもなく侍女に尋ねる。
「……はい」
訪ねられた侍女はひどく言いにくそうに肯定の言葉を返す。
「…そう」
それでもテレーゼの表情が変わることはない。
視線はずっと窓の外を向いたままだ。
テレーゼは変わらない。
イスマエルに嫁いできてからずっと。
イスマエルの訪れをただただ待つことしかしない。
――――――――――――――――――――――――
テレーゼは平凡な女だった。
容姿も能力もあまりにもごく平凡であったのだ。
しかし、テレーゼは代々王家に仕え、重役を輩出してきた伯爵家の生まれである。
そのため王家と関わることの多い家柄であったため、イスマエルの事は幼い頃より知っていた。
いや、知っていたというのは間違いだろう。
テレーゼはひどく内気な少女であったため、一方的にテレーゼがイスマエルを見つめていただけだが。
テレーゼが妻となる前にイスマエルと話したことは両の手で数えられるほどしかない。
それも別段大した内容ではなかった。
事実、イスマエルはその一切を覚えていないだろう。
イスマエルを取り巻くのはあまりにも多くの人間だから。
しかし、テレーゼはそれもすべて覚えている。
テレーゼは幸運であっただろう。
彼女は念願の焦がれるイスマエルの妻になることができた。
多くの妻の一人、それでもテレーゼは人生で一番の幸福だった。
イスマエルの妻となり、プリシナを身ごもった。
長年恋焦がれたイスマエルの妻となり、そして子供まで授かった。
幸福だ。
愛を囁かれることはなくとも、テレーゼは幸福のはずだったのだ。
それも、イスマエルとフェリシナが出会うまでの話だが。
フェリシナが王の妻として王宮に迎えられたのは、あまりにも突然で異例の早さだった。
そして他の妻たちとは比べ物にならないほどの身分の低さ。
それでも類まれなる美。
そしてイスマエルから一心に受ける愛。
フェリシナがアディリナを身ごもるのに、そう時間はかからなかった。
それからだ、フェリシナが来てから、イスマエルがテレーゼの元に訪れることはなかった。
いくらテレーゼが出産間近だったとしてもだ。
それはプリシナが生まれてからも変わらない。
イスマエルにとって最優先はフェリシナ。
そしてこれから生まれてくるアディリナだけだった。
テレーゼは何もしない。何もしてこなかった。
イスマエルとの結婚もテレーゼを愛する家族が動いてくれた。
テレーゼは自身では何もせず、ただイスマエルを恋焦がれるだけでよかったのだ。
それだけで、テレーゼは愛するイスマエルの妻の座を手にできた。
しかし、テレーゼが王家に入り、1人になった時、当然のごとくテレーゼは何もできなかった。
いや、何もしなかったの方が正しいだろう。
他の妃のようにイスマエルに存在を示すこともしない。
フェリシナに対抗するための行動をするわけでもない。
テレーゼは何もしない。
ただ愛するイスマエルの訪れを部屋で待つのみだ。
いくら愛する娘が父を求めても、テレーゼは何もしなかった。
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嫌い。
母も、私を見てくれない父も大嫌い。
私の立場を奪った妹はもっと嫌い。
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