美しきモノの目覚め

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「…あ、あの私…」

アディリナは祖父と伯父を前にして何を口にしていいか分からない。

「良い。何も言わなくとも良いのです。…その手を握っても大丈夫ですか?」

伯父が穏やかな笑みを浮かべ問いかける。

それにアディリナは小さく頷き、それを目に留めた2人は笑みを浮かべる。


おずおずと差し出されたアディリナの手をあまりにも嬉しそうに握る祖父とアディリナを見る伯父の微笑みは、会場の中でも抜きんでて美しかった。





――――――――――――――――――――――――




現宰相であるエメナド。
彼は幼い頃から、冷静沈着、優れた判断力で誰もが認めるその能力であった。
歴代の中でも5本の指に入るであろう若さで彼はこの国の宰相へと上り詰める。

そして未だに誰とも輿入れすることなく、浮ついた噂が立つこともない。


なぜならエメナドの愛はただ一人にだけ、その心が向けられるのだ。


フェリシナの実兄、テレンス・コスタ。
絶世の美女の兄として妹に引けをとらない、男性でさえも魅了する中性的な魅力を持つ。

コスタ家は一男爵家ではあったが、華やかな容姿を持つ当主、そして美しい兄妹の存在を知るものは多かった。



エメナドとテレンスとの出会いは、イスマエルがフェリシナを妃として城に迎えると言い出したときだ。

男爵家という身分もそうだが、秀でた権力も資産もないコスタ家がそれに反対できるわけはない。

ほぼ内定している輿入れに、父である男爵の代わりに交渉に来たのがフェリシナの兄のテレンスである。


エメナドが初めに出会ったのは皆と違いフェリシナではなく、テレンスである。

そして、美の前では性別等、あまりにも低い障害だった。


実質の婚姻の取り決めをするのは、王であるイスマエルに代わり宰相であるエメナドである。

だからこそ、エメナドは最もテレンスと関わる時間が多かった。

妹を思いやる優しい心を持つ兄、そしてその美しい表情でエメナドを頼りにしてくれるテレンスにエメナドが心惹かれるのは時間の問題だった。



しかし、エメナドは決してその想いをテレンスに伝えることはない。


聡明なエメナドは自分の想いが彼の負担となり苦しめることを理解しているからだ。



初めての恋であるエメナドにとって、恋は美しいモノである

愛する相手のために尽くす、それが彼の知る恋であった


フェリシナが第五妃として迎えられた後も、コスタ家との窓口はエメナドが進み出た。



イスマエルは愛するフェリシナに自分だけ見てほしく、フェリシナの世界を縮めたかったが、フェリシナを愛するテレンスのためにエメナドは男爵家であるコスタ家が王宮に来れるよう、そしてフェリシナ、その娘であるアディリナとの面会の機会を設けれるよう画作してきた。

すべては愛するテレンスのためだ。
想いは決して伝えることはないが、それでもエメナドは彼の微笑みを見れるだけで良かった。



しかしそんな小さな願いもフェリシナの死によって崩れさる

フェリシナの死だけでなく、幼いアディリナが受けた呪い。

フェリシナの死後、離宮に幽閉されているアディリナをコスタ家で引き取りたい、その声は、アディリナが呪いを受けてから11年ずっと聞こえてきた。

しかしイスマエルはそれを絶対に許可しなかった。
フェリシナの死を嘆き続けていたが、手厚い警備の城の敷地から出さない、それが当時の唯一イスマエルが娘を守ろうとした想いだったのだ。


アディリナが呪いが解けてからは今度は別の意味でそれを許可しない。
フェリシナの面影を大いに受け継ぐアディリナを今度は自身の傍に置くためだ。

そのためにも城内に極力人を入れることを拒み、アディリナへの面会もすべて拒否してきた。

デビュタントを迎えていないアディリナは公的な行事に出ることもない。




しかし、11年ぶりに今日のデビュタントがエメナドの愛するテレンスがアディリナに会う時間を作れるチャンスであったのだ。


その知らせを出したときのテレンスの喜ぶ返事が忘れられない
そして久しぶりにテレンスと再会するエメナドは彼の心から喜ぶような笑みが忘れらない


そして今、目の前で11年ぶりに自身の姪と再会する彼の嬉しそうな表情が忘れられない

隣で歓喜する彼の父の様子を見て、さらに笑みを深くする彼から目が離せない




エメナドに向き直って、最大の感謝、そして美しい笑みを向けてくるテレンス



11年ぶりにエメナドの心は狂喜し、満たされる






しかし、エメナドは決してテレンスに熱く燃え上り続けるこの想いを伝えることはない

彼はこれ以上は決して望まない



エメナドにとっての恋は、ただ相手の幸せを願う美しいモノでなければならないのだ





















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