いつか囚われるその日まで

萩の椿

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第2話

 時はあっという間に過ぎ、一月中旬。

 柊の誕生日当日になった。朝から雪が降りしきり、凍える寒さの今日、柊は晴れて奈美と結ばれる。

 朝からうきうきで仕事をこなし、バイトが終わると、奈美に指定されたホテルへと向かった。奈美は、改札を出て、割とすぐの場所にあると言っていたが、方向音痴な柊は、ナビを見ながらホテルへと辿り着いた。

「ここって……」

 腰をそって見上げるほどの、この立派なホテルは、どう見ても高級ホテルである。てっきり、お手頃価格なホテルなのかと思っていた柊は、入り口で立ち止まった。

「本当にここであってるよな……?」

 奈美に確認を取ろうと思い、スマホに目を落とした時だった。

「田中様ですか?」

 ふと、声がした方に目を向ければ、物腰柔らかそうな男性が立っていた。

「はい……、そうですけど」

「お待ちしておりました。お連れ様にご案内するようにと、仰せつかっております。どうぞ、こちらへ」

 男性は、柊を中へと招き入れエレベータに乗せると、最上階のボタンを押した。こんな豪華な場所に来たことがない柊は、途端に自分の格好が恥ずかしくなってきた。

 Tシャツに、ジーンズ、そして少し泥のついたスニーカー。こんなことなら、少しでも、磨いて来ればよかったと、後悔している内にエレベーターの到着音が鳴った。


「こちらでございます」

 案内された部屋は、どう見てもスウィートルームで、二人で使うにはもったいないくらいの広さと豪華さだった。豪勢に盛り付けられたフルーツが置かれてある机に、奈美は腰掛け、腕を組んで、恐る恐る部屋に入ってきた柊を見つめていた。


「奈美さん……?」


 いつもと雰囲気が違う奈美に、柊は戸惑った。トレードマークのような、あの人懐っこい笑顔は消え去り、まるで鷹の様に鋭い双眸で柊を見ている。

「あの……。こんな高級ホテルびっくりしちゃいましたよ。僕、少し、緊張しちゃって……、あっ、もちろん嬉しいですけど……」

 背負ってきたリュックを降ろしながら、柊はもじもじと言った。いつもの奈美なら、笑ってくれるところなのに、今日はやけに空気が重い。


 やはり、「セックスをしたい」なんて言ってしまったから、緊張しているのだろうか。心配した柊が、奈美の肩に手をかけた時だった。

 がちゃり、後ろでドアが開いた。

 後ろを振り向いた柊は、一瞬、頭を鈍器で叩かれたような衝撃が走った。そこに、二人の部下を引き連れて姿を現したのは、遊馬利一。柊が、命がけで逃げてきた男だった。





「なんで……、ここに……」



 上手く息が吸えていない気がした。足先から、震えが全身に伝わっていく。遊馬はじっとりと舐めるように柊を見ると、奈美に視線を移した。


「もういいぞ、奈美」

 遊馬に言われると、奈美はため息をついて鞄を肩に掛けた。


「ごめん、柊君。私嘘ついてた。私に関することは、全部嘘だって思ってくれていいから」


「え……」

 すっと、自分の前を去っていく奈美を、柊はただ見つめることしかできない。奈美は、遊馬の前で立ち止まり、二言、三言、会話を交わしたのち、遊馬の後ろにいた部下と共に部屋を出て行った。




「さて」

 呆然と立っている柊に、一歩、また一歩と遊馬が近づく。


「久しぶりだな、柊」

 167センチの柊に対して、遊馬の身長は189センチ。見下ろされた柊は、蛇に睨まれた蛙のように、体が硬直する。


「元気そうで、安心した」


 血の気のひいた柊の頬に触れ、遊馬は満足そうに笑った。遊馬の手は、頬から顎先、そして肩へと滑るように移動していき、ゆっくりと、柊の体を包んだ。


 途端に、柊の脳裏に封じ込めていた記憶が思い浮かんでくる。






 暴力的で、一方的な遊馬のセックス。



 繰り返される、辱め。


 気を失うほどの快楽に狂わされる。

 そこから、逃げ出したくて柊はもがいたのだ。






「やめてっ」




 柊は、遊馬の体を全力で突き放した。大して、よろけもしない遊馬は、少し驚いたような顔をしていた。

 柊は、出口に向かって走り、ドアノブに手をかける。


「あれっ、なんでっ」


 しかし、いくら開けようともがいても、ドアは一向に開かない。

「無駄だ。外から俺の部下が鍵をしている。明日の朝になるまで開けるなと言っている」



 後ろから聞こえた遊馬の言葉に、柊は半狂乱になって叫んだ。


「開けてっ、開けてくださいっ! 誰かっ……」


 カツカツと後ろから聞こえてくる足音が、さらに柊を責め立てる。

「奈美さんっ、助けてっ、助けて!」


 柊の願いもむなしく、ドアが開かれることはなかった。


 遊馬は柊の体を持ち上げてベットへと運んでいく。

「やだっ、やめてっ」

 抵抗する柊の言葉を塞ぐように、遊馬が乱暴に口づける。歯列を割って入ってきた舌に、柊は思いっきり噛みついた。

「っつ」

 遊馬の口の端から、血が垂れる。それを親指で拭うと、遊馬は柊を見下ろして口角を上げた。


「大分、従順になってきたと思っていたが、この一年間で元に戻ったな」


 遊馬はネクタイを緩め、それで柊の手首を縛り上げた。


「まあ、いい。今日は時間がたっぷりとあるんだ」

 柊のTシャツをまくり上げ、あらわになった胸の尖りを指ではじきながら、遊馬は微笑む。

「お前を抱くのは、久しぶりだからな。俺も自分を押さえられるかどうか」
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