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第5話
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翌朝、全身に走る痛みで、柊は目覚めた。
体が重く、特に腰のダメージが大きい。横を見れば、気持ちよさそうに眠る遊馬の姿がある。
ひどく喉が渇いていたので、水を飲もうと体を起こした時、テーブルにフルーツと共に置かれている小型のナイフへと目が留まった。
柊は、足音を消して歩き、そのナイフを手に取った。
絶望的な状況から這い出る方法があるとすれば。
柊は、遊馬へと体重をかけずにまたがり、遊馬の喉ぼとけへと刃先を向けた。
しかし、振り下ろそうと心の中では思っているのに、体が言う事を聞かない。
今、ここで殺せば、もう逃げ惑う生活には戻らなくていい。遊馬にやられた仕打ちは今でも、鮮明に覚えている。それを思えば、十分な動機になるはずだ。
けれど、柊には度胸がなかった。ナイフを持った手の震えを止めるのが精いっぱいで、勝手に鼓動が早くなっていく。
「やらないのか」
ふと、遊馬の声が聞こえたかと思えば、ぐっとナイフを持っている手を掴まれる。
「お前になら、殺されてやってもいい」
さっきまで、気持ちよく寝息を立てていたはずの遊馬がいつのまにか目を覚ましていた。
遊馬が、自ら喉ぼとけに刃先を近づける。次第に刃先は皮膚に食い込み、血が垂れてきた。
「あ……、ち、血が……」
それでも、遊馬は柊から視線をそらさない。じっと、試すかのように柊を見ていた。何秒見つめ合っていたのか、長い時間そうしていたような気もするし、一瞬だったようにも感じる。
「ヤる度胸もないなら、そんなものは持つな」
「いたっ」
遊馬は柊の手首を捻り上げて、ナイフを奪った。
「で、できるわけないだろっ。俺は、普通の人間なんだから! お前みたいに、人を殺めるような人間じゃないんだよ!」
遊馬に囲われていた時、幾度となく見た遊馬の恐ろしい顔を、柊は今でも忘れていない。目的の為ならば、手段を択ばないのが遊馬だ。残酷で、恐ろしいまるで悪魔のような存在。
柊の言葉を鼻で笑いながら、遊馬はワイシャツに袖を通す。
「お前も早く服を着ろ。マンションに帰るぞ」
「マンションって……」
「お前の家だろ」
遊馬は柊を諭すように優しく頭を撫でた。けれど、目だけはしっかりと柊を捕らえ、少しの表情の変化も見逃さない。
「い、いやだ……。もうあそこは……」
柊は、顔をひきつらせながら後ずさる。
一年前、柊は遊馬に監禁されていた。
二人の出会いは、二年前。男性専用の娼婦として働いていた柊の所に、客として来たのが遊馬だった。
VIP客として店に出入りしていた遊馬は、金のはずみこそいいものの、セックスの乱暴さから娼婦の体を壊すことで有名だった。
そこであてがわれたのが、体は華奢だか、体力と忍耐だけはある柊だった。両親の残した多額の借金返済のために働いていた柊は、どんなに遊馬に乱暴されても、無理難題を突き付けられても、けして怯むことはなかった。
そして、いつの日か、遊馬の方が柊にのめり込んでいたのだ。柊の借金を肩代わりする代わりに、店をやめさせ、お金で柊を縛り付けた。それが、監禁の始まりだった。
部屋から出ることもできず、見張りがいるため、外にでることもできない。一日中部屋にいて、帰ってきた遊馬に抱かれる日々。
命がけで逃げ出してきたのに、またあの悪夢のような場所に引き戻される。
絶望で、体が震えだす。
「柊」
ふと、名前を呼ばれ顔を上げれば、遊馬に顎をすくわれる。
「帰るぞ」
柊は、遊馬の目が苦手だった。その冷たい目に見つめられれば、体がどうしても動かなくなるのだ。絶対的な支配権を握られているようで、心底恐ろしくなる。
きっともう、逃げられない。
これから起こるであろう、遊馬にされる仕打ちを考えると身が持たない。絶望に明け暮れる柊の唇に、遊馬は己の唇を重ねた。
深く深く、一方的に求める獣のようなキスだった。
体が重く、特に腰のダメージが大きい。横を見れば、気持ちよさそうに眠る遊馬の姿がある。
ひどく喉が渇いていたので、水を飲もうと体を起こした時、テーブルにフルーツと共に置かれている小型のナイフへと目が留まった。
柊は、足音を消して歩き、そのナイフを手に取った。
絶望的な状況から這い出る方法があるとすれば。
柊は、遊馬へと体重をかけずにまたがり、遊馬の喉ぼとけへと刃先を向けた。
しかし、振り下ろそうと心の中では思っているのに、体が言う事を聞かない。
今、ここで殺せば、もう逃げ惑う生活には戻らなくていい。遊馬にやられた仕打ちは今でも、鮮明に覚えている。それを思えば、十分な動機になるはずだ。
けれど、柊には度胸がなかった。ナイフを持った手の震えを止めるのが精いっぱいで、勝手に鼓動が早くなっていく。
「やらないのか」
ふと、遊馬の声が聞こえたかと思えば、ぐっとナイフを持っている手を掴まれる。
「お前になら、殺されてやってもいい」
さっきまで、気持ちよく寝息を立てていたはずの遊馬がいつのまにか目を覚ましていた。
遊馬が、自ら喉ぼとけに刃先を近づける。次第に刃先は皮膚に食い込み、血が垂れてきた。
「あ……、ち、血が……」
それでも、遊馬は柊から視線をそらさない。じっと、試すかのように柊を見ていた。何秒見つめ合っていたのか、長い時間そうしていたような気もするし、一瞬だったようにも感じる。
「ヤる度胸もないなら、そんなものは持つな」
「いたっ」
遊馬は柊の手首を捻り上げて、ナイフを奪った。
「で、できるわけないだろっ。俺は、普通の人間なんだから! お前みたいに、人を殺めるような人間じゃないんだよ!」
遊馬に囲われていた時、幾度となく見た遊馬の恐ろしい顔を、柊は今でも忘れていない。目的の為ならば、手段を択ばないのが遊馬だ。残酷で、恐ろしいまるで悪魔のような存在。
柊の言葉を鼻で笑いながら、遊馬はワイシャツに袖を通す。
「お前も早く服を着ろ。マンションに帰るぞ」
「マンションって……」
「お前の家だろ」
遊馬は柊を諭すように優しく頭を撫でた。けれど、目だけはしっかりと柊を捕らえ、少しの表情の変化も見逃さない。
「い、いやだ……。もうあそこは……」
柊は、顔をひきつらせながら後ずさる。
一年前、柊は遊馬に監禁されていた。
二人の出会いは、二年前。男性専用の娼婦として働いていた柊の所に、客として来たのが遊馬だった。
VIP客として店に出入りしていた遊馬は、金のはずみこそいいものの、セックスの乱暴さから娼婦の体を壊すことで有名だった。
そこであてがわれたのが、体は華奢だか、体力と忍耐だけはある柊だった。両親の残した多額の借金返済のために働いていた柊は、どんなに遊馬に乱暴されても、無理難題を突き付けられても、けして怯むことはなかった。
そして、いつの日か、遊馬の方が柊にのめり込んでいたのだ。柊の借金を肩代わりする代わりに、店をやめさせ、お金で柊を縛り付けた。それが、監禁の始まりだった。
部屋から出ることもできず、見張りがいるため、外にでることもできない。一日中部屋にいて、帰ってきた遊馬に抱かれる日々。
命がけで逃げ出してきたのに、またあの悪夢のような場所に引き戻される。
絶望で、体が震えだす。
「柊」
ふと、名前を呼ばれ顔を上げれば、遊馬に顎をすくわれる。
「帰るぞ」
柊は、遊馬の目が苦手だった。その冷たい目に見つめられれば、体がどうしても動かなくなるのだ。絶対的な支配権を握られているようで、心底恐ろしくなる。
きっともう、逃げられない。
これから起こるであろう、遊馬にされる仕打ちを考えると身が持たない。絶望に明け暮れる柊の唇に、遊馬は己の唇を重ねた。
深く深く、一方的に求める獣のようなキスだった。
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