3 / 72
第一章
第1話 日常の1ページ
授業終了を告げるチャイムの音が鳴ると、周りから一斉に席を立つ音や、教材を閉じる音が聞こえてくる。
玲子は、黒板に書かれた最後の行をパソコンに打ち込み終わると、隣に座っている男に声をかけた。
「一郎、食堂行こう」
「うん、いいよ」
一郎と呼ばれる男は、朗らかな声で言った。
ボサボサの頭に、マスクによって曇ったメガネをかけ、グレーのベストに、黒のパンツとなんとも冴えない格好をしている。
しかし、これでも玲子の彼氏である。
一郎は、急いで机の上の教材をカバンにしまいこもうとするが、カバンがいっぱいで、上手く入らない。
中に無理やりにでも押し込もうとする一郎の手を玲子はそっと止めた。
「そんな風に入れたらカバンが壊れる。ゆっくりでいいから」
「そうだよね.........。ありがとう」
一郎は、ずり落ちたメガネを元の位置にかけ直して、情けなく頬をかきながら笑う。
玲子はそんな一郎を微笑みながら見つめていた。
玲子は周りから見れば、言わば高嶺の花と呼ばれる存在だ。
絹のように細く美しい黒髪に、真珠のような瞳、筋の通った鼻に、ふっくらとした唇。
スタイルも良く、様々な服を着こなせる。
そして、あの世界的に有名な大企業、西園寺グループのお嬢様でもある。
しかしそれは、彼氏の一郎とて知りえない事実。
一方、そんな玲子の横を歩く一郎は、冴えない男だ。
付き合っている事を公開した日には、生徒だけではなく教授までもが目を丸くした。
「一体なぜ?」
皆が口々にそう聞いた。
しかし玲子は、こんなにかっこいい人は世の中にそうそういないと言う。
皆が首を傾げる中で、玲子だけが満足そうに笑っていたのだ。
玲子と一郎が出会ったのは、3年前。大学一年生の時、サークルで出会ったのだ。
動物の保護を目的として活動するサークルで、保護するために必要な資金集めや、殺処分に回される動物たちがいることを知ってもらうためのチラシ配りなどを活動として行っていた。
その中で、1年生ながらも積極的に先輩に意見を言って、参加していたのが一郎だった。
一郎の意見は、いつも無駄がなく、正しかった。
玲子も熱心に活動に参加していたが、一郎のように皆が納得するような意見を出すことは出来なかった。
その時から、玲子は一郎に一目置いていた。
最初声をかけた時は、目も合わせてくれず会話も成り立たなかったが、次第に打ち解けてゆき、2人は友達になり、お互いに良き理解者となった。
そして、1年間の片思いの末、玲子の告白によって結ばれたのである。
食堂に向かいながら、玲子は横を歩く一郎を見た。
パンパンに膨れ上がったショルダーバッグを両手で持ち、時々つまずきながら歩いている。
少し情けないところはあるけれど、人一倍優しくて、情に厚く、勤勉な一郎は玲子にとっては胸を張って自慢したい彼氏だった。
なんて、幸せな時間なんだろう。
玲子はそう胸の中で思った。
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
(第一章完結)ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン