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第一章
第3話 幸之助
両親の葬式から、1週間経っても玲子は食事をまともに取れなかった。
大学も休み、一郎にも連絡を入れていない。けれど、玄関の扉にゼリーや、飲み物などが入った袋が1日すぎるごとにかけられてあった。
きっと、一郎だろう。
玲子は、ベッドに横になり、ずっと泣いていた。
玲子の父と母は優しかった。父親は仕事におわれながらも、玲子と過ごす時間を大切にしてくれていた。
一人娘の玲子に対して、自由に育って欲しいと願い、習い事も勉強もあまり厳しくはしなかった。母親も父親同様、寛大な心の持ち主だった。
一郎のことを話すと、いつか、会ってみたいと興味津々に話を聞いてくれて、恋愛の秘訣を色々と伝授してくれた事もあった。
一人娘の玲子に跡を継ぐようにと無理強いしたことも無い。
2人とも、玲子のことを大切に思ってくれていた。
そんな心の支えを突如失ったのだ。
到底、傷はすぐには癒えてはくれない。
その時、インターホンが鳴り響いた。
一郎かと思い、テレビドアホンを除くと、眼鏡をかけた黒服の男性が立っていた。
「なに」
玲子は通話ボタンを押しながら素っ気なく聞いた。
「お休みの所、申し訳ありません。幸之助様からの伝言を伝えにまいりました。明日の、13時に西園寺家本邸に参られますようにと。大切なお話があるそうです」
玲子は首を傾げた。
話とは一体なんだろう。
玲子は祖父から呼び出されたことなんて1度もない。
しかし、祖父も突然二人を亡くして自分と同様、参っているに違いないと思った。
こういう時こそ、身内で支え合いたい。玲子は、再び通話ボタンを押して短く返事をした。
「分かった。行くわ」
翌日、本邸に行くと玲子はすぐさま祖父の部屋に通された。そこは、自分の家ではありながらも、1度も足を踏み入れたことがない場所だった。
赤い絨毯の上に、重厚感のある机と椅子。所々に飾られた絵は金縁に飾られて、随分高価にみえる。
幸之助は、椅子の上に腰がけて、部屋に入ってきた玲子を見つめて笑いかけた。
「ここに入るのは、初めてじゃな」
「はい、おじい様」
玲子は椅子に座って壁の絵を珍しそうに眺めながら返事をした。
「それでな、玲子」
先程の声色とは違い、数段低い声で幸之助は言った。祖父から、発せられるただならぬ雰囲気に玲子は絵から目を離して、幸之助を見た。
さすが、西園寺グループを今までまとめてきた人物だと思った。その風格には、威厳があり見つめられるだけで、背筋がピンと伸びた。
玲子の父親、大輔が跡を継いでからは、大分柔らかくなったと思っていたが、とんでもない。
幸之助は、眉間に皺を寄せて、苦しそうな表情を浮かべた。
「亡くなった2人を思うと、胸が張り裂けそうになる。しかし、いつまでもそこに立ち止まっている訳にはいかない。大輔が亡くなった今、西園寺グループは、社長を失った。急遽、わしが社長に復帰したが、もういい歳じゃ」
そこまで言い終わると、幸之助はじっと玲子の顔を見た。
「私にこの家を継げと言うことですか?」
「いや、社長は男が望ましい。先代も、そのまた先代も皆男じゃ」
随分古くさい考えだと思ったが、玲子は黙って話を聞いていた。そして、何となく幸之助が玲子をここへ呼び出した理由も察しがついた。
「結婚しろ、玲子」
幸之助の言葉が、玲子の体に重くのしかかった。
「相手はこちらで用意しておる。入ってくれ」
幸之助の言葉の後に、入口のドアが開いた。
大学も休み、一郎にも連絡を入れていない。けれど、玄関の扉にゼリーや、飲み物などが入った袋が1日すぎるごとにかけられてあった。
きっと、一郎だろう。
玲子は、ベッドに横になり、ずっと泣いていた。
玲子の父と母は優しかった。父親は仕事におわれながらも、玲子と過ごす時間を大切にしてくれていた。
一人娘の玲子に対して、自由に育って欲しいと願い、習い事も勉強もあまり厳しくはしなかった。母親も父親同様、寛大な心の持ち主だった。
一郎のことを話すと、いつか、会ってみたいと興味津々に話を聞いてくれて、恋愛の秘訣を色々と伝授してくれた事もあった。
一人娘の玲子に跡を継ぐようにと無理強いしたことも無い。
2人とも、玲子のことを大切に思ってくれていた。
そんな心の支えを突如失ったのだ。
到底、傷はすぐには癒えてはくれない。
その時、インターホンが鳴り響いた。
一郎かと思い、テレビドアホンを除くと、眼鏡をかけた黒服の男性が立っていた。
「なに」
玲子は通話ボタンを押しながら素っ気なく聞いた。
「お休みの所、申し訳ありません。幸之助様からの伝言を伝えにまいりました。明日の、13時に西園寺家本邸に参られますようにと。大切なお話があるそうです」
玲子は首を傾げた。
話とは一体なんだろう。
玲子は祖父から呼び出されたことなんて1度もない。
しかし、祖父も突然二人を亡くして自分と同様、参っているに違いないと思った。
こういう時こそ、身内で支え合いたい。玲子は、再び通話ボタンを押して短く返事をした。
「分かった。行くわ」
翌日、本邸に行くと玲子はすぐさま祖父の部屋に通された。そこは、自分の家ではありながらも、1度も足を踏み入れたことがない場所だった。
赤い絨毯の上に、重厚感のある机と椅子。所々に飾られた絵は金縁に飾られて、随分高価にみえる。
幸之助は、椅子の上に腰がけて、部屋に入ってきた玲子を見つめて笑いかけた。
「ここに入るのは、初めてじゃな」
「はい、おじい様」
玲子は椅子に座って壁の絵を珍しそうに眺めながら返事をした。
「それでな、玲子」
先程の声色とは違い、数段低い声で幸之助は言った。祖父から、発せられるただならぬ雰囲気に玲子は絵から目を離して、幸之助を見た。
さすが、西園寺グループを今までまとめてきた人物だと思った。その風格には、威厳があり見つめられるだけで、背筋がピンと伸びた。
玲子の父親、大輔が跡を継いでからは、大分柔らかくなったと思っていたが、とんでもない。
幸之助は、眉間に皺を寄せて、苦しそうな表情を浮かべた。
「亡くなった2人を思うと、胸が張り裂けそうになる。しかし、いつまでもそこに立ち止まっている訳にはいかない。大輔が亡くなった今、西園寺グループは、社長を失った。急遽、わしが社長に復帰したが、もういい歳じゃ」
そこまで言い終わると、幸之助はじっと玲子の顔を見た。
「私にこの家を継げと言うことですか?」
「いや、社長は男が望ましい。先代も、そのまた先代も皆男じゃ」
随分古くさい考えだと思ったが、玲子は黙って話を聞いていた。そして、何となく幸之助が玲子をここへ呼び出した理由も察しがついた。
「結婚しろ、玲子」
幸之助の言葉が、玲子の体に重くのしかかった。
「相手はこちらで用意しておる。入ってくれ」
幸之助の言葉の後に、入口のドアが開いた。
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