傲慢令嬢、冷徹悪魔にいつの間にか愛されて縛られてました

萩の椿

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第一章

第5話 拉致



「ちょっと待ってよ、お嬢」

後ろから聞こえる陽気な声を無視して、玲子は廊下を歩き続けた。

「お嬢、待ってって」

駆け足で追いついた辰美が玲子の手首を掴み振り向かせる。

「離して」

玲子は辰美の顔を睨みつけた。

決して背が低い訳では無いのだが180cmの辰美の前では顔を見上げる形になってしまう。

「辛い気持ちは分かるよ」

「嘘つかないで!あんたに分かるわけない。それに、なんでこんな話受けてんのよ。私の事好きでもないくせに!」

「好きだよ」

辰美は玲子の顔を見つめたまま、表情を変えずに答えた。本心なのか、はたまた嘘なのか。全く分からない。

しかし、こういう事に耐性のない玲子は気恥ずかしくなって辰美の手を振りほどこうともがいた。

ところが、辰美は玲子の手首を強く掴む。それはもう痛いほどに。

そして、玲子の手を引いて逆方向に歩き出した。

「ちょっと、辰美!離してよ!」

玲子の足元がふらつく。咄嗟に、幸之助の元へと連れ戻されるのだと思った。

「嫌!」

立ち止まろうと必死に足に力を入れても男の力の前では無力に近い。

しかし、辰美は玲子の手首を握ったまま、廊下を直進し、突き当たりを幸之助の部屋とは反対の左側に曲がった。

「どこ行くつもりなの!腕が痛いわ!ちょっと辰美聞いて———」

その瞬間、辰美がいきなり立ち止まって玲子の唇を奪った。

お互いの唇が触れ合うだけの軽いキス。

直ぐに唇は離れた。

「何.........してるの」

「何って、もしかしてお嬢。初めてだった?」

辰美は、玲子を見下ろしながら意地悪く笑った。

「そんな訳ないでしょ?なんでこんな事するのかって聞いてるのよ!」

「俺たちこれから夫婦になるんだから、このくらいのスキンシップ当たり前でしょ」

「どうかしてるわ!私、付き合ってる人いるって言ったわよね?」

玲子は頬を真っ赤にして辰美を突き飛ばし、片手を振りあげた。ところが、いとも簡単に辰美によって止められてしまう。

そして、玲子の表情を観察するように目線を外さず手の甲に音を立ててキスを落とした。

「俺、結構上手いと思うよ」

妖美な視線を玲子に向けながら辰美が言った。その視線から玲子は「何が」とまでは聞かなくとも辰美が言いたいことが分かった。

けれど、玲子は何も言わなかった。辰美の余裕そうな表情を睨みあげ口をつむいでいると、辰美は軽く笑って再び玲子の手首を掴んで歩き出した。

しばらく歩くと玲子たちは外に出た。

広めの中庭に、外車が一台停まっている。

「お待ちしておりました」

1人、車のそばに立った黒服が辰美と玲子に向かって頭を下げた。 

「さぁ、乗って」

辰美が、黒服に運転席で待っているようにと指示を出して、助手席のドアを開ける。

「どこに連れていくつもり?」

「それは行ってからのお楽しみ」

玲子は首を横に振る。

「嫌よ」

玲子の心は疲弊していた。早く家に帰りたいその一心だった。

すると、辰美は開けた扉のドアに手を乗せて首を傾げる。

「どっちがいい?このまま抵抗して乱暴に乗せられるか、素直に俺の言うこと聞くか」

玲子は目を丸くした。

玲子は辰美に今までこんな風に口を利かれたことがなかった。

確かに馴れ馴れしく、歳も辰美の方が上だが、辰美の会社、東西グループが西園寺グループの傘下に入っている以上、二人の間には主従関係があった。


なのに、今ではまるでそれがひっくり返ったような態度ではないか。

「口の利き方に気をつけなさい、辰美」

玲子は憤慨した。

けれど、辰美は気にした様子もなく、

「仕方ないか」

と、ため息混じりにつぶやいただけだった。
辰美が玲子との距離を容赦なく縮める。

一見、朗らかな表情に見えるが目は笑っていない。
 
辰美がたまに見せる、玲子の嫌いな表情だ。

嫌な雰囲気を感じとった玲子は後ずさりしたが、辰美によって阻まれる。

「っちょっと!」
そして、辰美は両腕を後ろで拘束し、暴れる玲子をなだめながら強引に後部座席に乗せた。

「出して!こんなの拉致じゃない!犯罪よ!おじい様が知ったらなんて言うか」

「そのおじい様が望んだことだとしたら?」

辰美は、口角を上げて玲子を見た。
「どういう意味.........?」

「出せ」

辰美は玲子の質問には答えなかった。
冷ややかな声が車内に響き、車が発車した。


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