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第一章
第15話
しおりを挟む「いらないから、下げて」
「そうは言いましても、お嬢様……。お昼も一口も召し上がらなかったではありませんか」
あれから玲子は食欲が全くわかなかった。
どんなに豪勢な料理を並べられても、自分の好物を並べられても、手をつけようとすら思わない。
第1に、辰美に用意されたものだというのが気に入らなかった。
「一口だけでも……」
伊藤が遠慮がちに料理を玲子に近ずけた時、辰美がドアから姿を現した。
会社から帰ってきたばかりなのだろう。辰美はネクタイを緩めながら伊藤に聞いた。
「なに、どうしたの?」
「あ、辰美様、お帰りなさいませ。それが……、お嬢様が昼食から何もお食べにならなくて」
「ふーん、なるほど」
玲子は辰美が姿を現した途端、椅子から立ち上がり辰美との距離をとった。
「どうして食べないの?」
辰美は、逃げ惑う玲子をいとも簡単に捕まえて問いただす。
「いらないから」
玲子は辰美を睨みあげた。
「その様子だと体調が悪いわけでも無さそうだね。いいよ、伊藤。俺が食べさせるから」
「では、私はこれで……」
後ろに下がった伊藤を、辰美が手で制した。
「いや、そこにいて」
「え?」
「それと、そのひも貸して」
辰美は伊藤の腰に巻き付けているリボンを指さした。
「早く」
伊藤は、戸惑いながらリボンを解き辰美に渡す。
辰美は暴れる玲子を椅子に座らして、そのひもで玲子の腕を縛り椅子に固定した。
「なんのつもり」
「まずは、水か」
辰美は玲子の問いには答えず、玲子の口元に水の入ったコップを近ずけた。
玲子は顔を横にそらす。
「仕方ないな」
辰美はため息を着いて、水を口に含み玲子の顎を掴んで口ずけた。
「んっ!」
玲子の口内に水が流れ込んでくる。
辰美と玲子のやり取りを困惑した様子で眺めていた伊藤は、顔を背けた。
「やめてよ……」
玲子は拘束された腕を必死に動かした。だが、キツく縛られている手元をいくら動かしても手首が擦り切れるだけであった。
「次は、スープにする?」
辰美は湯気のあがったトマトスープをスプーンですくい、再び玲子の口元に近ずけた。
「飲んで」
羞恥が激しくこみ上げる。
こんな恥ずかしいことを伊藤に見られている。
伊藤は顔を俯かせて、どうすることも出来ずソワソワしていた。
「……自分で食べるから」
辰美は首を横に振る。
「だったら、せめて、伊藤をどこかにいかせて……」
玲子は頬を赤く染め、俯いた。
辰美は玲子の顔をしばらく眺め満足そうに笑って言った。
「分かった、君はもう下がっていいよ」
伊藤は顔を真っ赤にさせて、そそくさとカートを持って出ていった。
伊藤が出ていった後、辰美はまた玲子にスープを強引に飲ませた。
「なんか、俺も楽しくなっちゃった」
辰美は笑いながらパンを1口サイズにちぎり、玲子の前に差し出した。
「最低」そう目で訴えると、辰美は首を傾げる。
「また、伊藤を呼ぼうか」
玲子は辰美から差し出されたパンを大人しく食べた。
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