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第一章
第25話
その後、車内は沈黙に包まれ、二十分ほど走ったところで車が停まった。
「一郎君、着いたよ。君のアパートだ」
辰美が言うと、外からドアが開いた。
そこは、ついさっきまで玲子と一郎が抱き合い、傷を慰め合った場所だった。
一郎はゆっくりと顔を上げ、亡霊のように立ち上がりよろよろと車を降りていく。
「待って!」
玲子は一郎の手を掴んだ。
「私達、これで終わりじゃないよね……」
一郎を握る手に力がこもる。
一郎と付き合って一年と少し。
大学生活をずっと一緒に過ごしてきた。側にいて、こんなに心地よくて、安心できて、幸せだと感じる人はもうこの先二度と表れないだろう。それほどまでに、一郎の存在は玲子の中で大きかった。
絶対に手放したくない。
赤の他人が私たち二人の絆を壊せるはずがない。
玲子は一郎の顔を見上げた。
「……少し、時間が欲しい」
そう言って玲子を見た一郎はまるで蔑むかのような目をしていた。
裏切られた、そう目が言っているようだった。
初めて見た一郎の冷めた表情に玲子はすっと手を引く。
一郎は車を降りてアパートに向かって歩く。
こちらを一度も振り向かずに。
「まって……」
玲子が一郎の後姿に手を伸ばすと同時に、ドアは閉められ、車が発車した。
それから車は走り続け、辰美と礼子が暮らす屋敷に着いたのは夕日が落ち始めている頃だった。
「来い」
車のドアが開かれた途端、辰美が玲子の二の腕らへんを持ち強引に引っ張る。
屋敷の中に入り、すぐ側にある階段を上がり二階の一室に連れてこられた。
壁一面に本が収められてある書斎のような部屋に、腕を後ろに縄で縛られ、項垂れている伊藤と、長谷川の姿があった。
「遅かったな」
長谷川が伊藤の前に立ち、こちらに顔を向けて言う。
伊藤の頬は赤く染まり、唇からは血が出ている。
「伊藤!」
伊藤に駆け寄ろうとした玲子を辰美が阻む。
「アキラ、玲子を頼む」
「ああ」
玲子は長谷川によって後ろに腕を拘束され跪かされた。
「お休みのところ悪いんだけど、起きてもらおうか」
辰美が伊藤の顎に手をかけて上に向かせる。
「ずっとそうやって吐かないつもりか?」
伊藤の目は開いていない。呼吸も乱れていて苦しそうだ。
「玲子をどうやってたぶらかした。逃走はお前の計画か?」
口を閉ざす伊藤の頬を辰美が叩いた。
「言え」
「辰美!」
玲子の怒号が飛ぶ。
「やめなさい! 何やってるのよ!」
玲子は立ち上がろうともがくが、長谷川が力で抑える。
「離して!」
「いい機会だ、よく見ておけ」
辰美は玲子の声を無視して続けた。
「質問を変えようか。どうやって逃走した? 監視カメラはお前が壊したのか?」
伊藤はまたしても答えなかった。
辰美が伊藤の赤く腫れあがった頬をまた叩いた。
「一郎君、着いたよ。君のアパートだ」
辰美が言うと、外からドアが開いた。
そこは、ついさっきまで玲子と一郎が抱き合い、傷を慰め合った場所だった。
一郎はゆっくりと顔を上げ、亡霊のように立ち上がりよろよろと車を降りていく。
「待って!」
玲子は一郎の手を掴んだ。
「私達、これで終わりじゃないよね……」
一郎を握る手に力がこもる。
一郎と付き合って一年と少し。
大学生活をずっと一緒に過ごしてきた。側にいて、こんなに心地よくて、安心できて、幸せだと感じる人はもうこの先二度と表れないだろう。それほどまでに、一郎の存在は玲子の中で大きかった。
絶対に手放したくない。
赤の他人が私たち二人の絆を壊せるはずがない。
玲子は一郎の顔を見上げた。
「……少し、時間が欲しい」
そう言って玲子を見た一郎はまるで蔑むかのような目をしていた。
裏切られた、そう目が言っているようだった。
初めて見た一郎の冷めた表情に玲子はすっと手を引く。
一郎は車を降りてアパートに向かって歩く。
こちらを一度も振り向かずに。
「まって……」
玲子が一郎の後姿に手を伸ばすと同時に、ドアは閉められ、車が発車した。
それから車は走り続け、辰美と礼子が暮らす屋敷に着いたのは夕日が落ち始めている頃だった。
「来い」
車のドアが開かれた途端、辰美が玲子の二の腕らへんを持ち強引に引っ張る。
屋敷の中に入り、すぐ側にある階段を上がり二階の一室に連れてこられた。
壁一面に本が収められてある書斎のような部屋に、腕を後ろに縄で縛られ、項垂れている伊藤と、長谷川の姿があった。
「遅かったな」
長谷川が伊藤の前に立ち、こちらに顔を向けて言う。
伊藤の頬は赤く染まり、唇からは血が出ている。
「伊藤!」
伊藤に駆け寄ろうとした玲子を辰美が阻む。
「アキラ、玲子を頼む」
「ああ」
玲子は長谷川によって後ろに腕を拘束され跪かされた。
「お休みのところ悪いんだけど、起きてもらおうか」
辰美が伊藤の顎に手をかけて上に向かせる。
「ずっとそうやって吐かないつもりか?」
伊藤の目は開いていない。呼吸も乱れていて苦しそうだ。
「玲子をどうやってたぶらかした。逃走はお前の計画か?」
口を閉ざす伊藤の頬を辰美が叩いた。
「言え」
「辰美!」
玲子の怒号が飛ぶ。
「やめなさい! 何やってるのよ!」
玲子は立ち上がろうともがくが、長谷川が力で抑える。
「離して!」
「いい機会だ、よく見ておけ」
辰美は玲子の声を無視して続けた。
「質問を変えようか。どうやって逃走した? 監視カメラはお前が壊したのか?」
伊藤はまたしても答えなかった。
辰美が伊藤の赤く腫れあがった頬をまた叩いた。
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